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記憶を無くした者  作者: ひろろ
第2章
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16話

 

 野営地へと辿り着くと、ベンは周囲を警戒しながら魔法陣を小さく展開し、指先で火種を弾いた。

 ぱち、と乾いた音を立てて焚き火が灯り、揺れる炎が皆の顔を赤く照らす。


 沈黙が流れる中、ベンは一度深く息を吐き、焚き火を見つめたまま口を開いた。


「……ここからは、俺たちの街――イースタンで起きた話だ」



 ---


【イースタンの街】


 イースタンの街は、世界神カイマ様が生きていた頃、確かに希望に満ちていた。

 街の人々は互いを思いやい、困難があれば必ず誰かが手を差し伸べた。

 それは、世界神カイマが幾度となく問題を解決し、争いを鎮めてきた姿に、人々が心を打たれていたからだ。


 ――だが、その日常は唐突に終わりを告げた。


 世界神カイマ様の死が世界中に知れ渡った、その直後。

 まるでその瞬間を待っていたかのように、暗黒神ダークの配下たちがイースタンの街へと現れた。


「この街は、世界神カイマの思想に毒されているという噂を聞いた。調査のために来た」


 そう一方的に告げられ、街は騒然となった。


「ふざけるな!」


「言いがかりもいいところだ!」


 怒りの声が上がり、街の者たちは一致団結して彼らを追い返した。

 それが、すべての始まりだった。


 その後、イースタンの街では自然と“レジスタンス”が生まれた。

 目的はただ一つ――街を守ること。


 当初の抵抗は話し合いだった。

 しかし、暗黒神ダークの配下たちはやり方を変えていった。


 夜闇に紛れた襲撃。

 無関係な住民の殺害。

 そして――


「これはレジスタンスの仕業だ」


 そう言い放ち、事実を歪める者たち。


 否定すればするほど、争いは激化した。

 やがて、暗黒神ダークが送り込んだ“神”を名乗る存在が戦場に現れ、レジスタンスは一方的に蹂躙されていった。


 結果、イースタンの街は占領された。



 ---


 生き残ったレジスタンスの者たちは、身分を隠し、地下に拠点を築き、息を潜めるように生きるしかなかった。

 ベンとマリも、その一員だった。


 そんなある日――。


 捕虜となっていた者の裏切りにより、レジスタンスの生き残りがいることが露見する。


 その日から始まったのは、見せしめだった。


 街の中央で行われる処刑。

 晒される死体。

 恐怖で支配される日常。


 ベンとマリは歯を食いしばりながら、それを見つめることしかできなかった。


「……僕たちは、何も間違ったことをしてない」


「ベン、声を抑えて……」


 マリの震える声に、ベンは唇を噛みしめて黙り込んだ。



 ---


 その帰り道。


「久しぶりだな。元気にしてたか?」


 不意に背後から声をかけられ、二人は息を呑んだ。


 振り返ると、そこには見知らぬ――しかし整った顔立ちの青年が立っていた。


「……誰だ?」


「どなたですか?」


 問いかけに、青年は肩を落とし、苦笑する。


「忘れたか? 泣き虫のベンに、地味なメガネのマリ」


 その言葉に、二人は目を見開いた。


「……鼻垂れのガガ?」


「え、本当にガガなの?」


 幼馴染の名を呼ぶと、青年はやや不満そうに眉をひそめた。


「その呼び方はやめてくれよ。ついさっき帰ってきたんだ。里帰り、ってやつさ」


 だが、街の惨状を見渡し、表情を曇らせる。


「……こんなことになってるなんてな。二人が無事でよかった」


「無事なのは、今のところだけだ」


 ベンの言葉に、ガガの目が鋭くなる。


「“今のところ”? ベン、まさか……」


 沈黙。


 それが答えだった。


「……レジスタンス、だろ?」


 二人は息を呑んだ。


「図星か……」


 ガガは深く息を吐き、首を振る。


「なんてことをしてるんだ。今すぐ抜けろ。じゃないと――」


「黙れ!」


 ベンは声を荒げた。


「僕たちがどんな覚悟でやってきたか、何も知らないくせに!」


 ガガはしばらく黙り込んだ後、静かに言った。


「……なら、俺も加わる。幼馴染が危険な目に遭ってるなら、黙っていられない」


 ベンは即座に首を振る。


「ダメだ」


 だが、マリが割って入った。


「……一度、リーダーに会わせるだけでも」


 葛藤の末、二人は折れた。


「夕方、街外れの更地だ。そこから地下に続く」


 ガガは微笑み、頷いた。


「分かった。必ず行くよ」



 ---


 ――そして、二人と別れた後。


 ガガは人気のない路地で立ち止まり、低く呟く。


「あんな所に隠れ家があったとはな……」


 口元に、歪んだ笑みが浮かぶ。


「これで終わりだ、レジスタンス。

 暗黒神ダーク様に報告しなくては」


 焚き火の炎が揺れ、ベンの語りはそこで途切れた。

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