05話
木製の人形の前に立ったまま、スズモは改めて二人に向き直った。
「やっぱり先に説明しておくわ。この人形で分かるのは、魔法の“適性”よ」
人形を軽く叩きながら、指を折って説明する。
「赤は火属性。攻撃魔法の代表格ね」
「青は水属性。攻防どちらにも向く」
「黄色は雷属性。速さと貫通力に優れる」
「緑は木属性。補助や拘束、自然操作が多い」
「白は回復・支援魔法」
「黒は暗黒魔法。呪い、影、生命干渉……忌避されがちだけど強力」
一拍置き、付け加える。
「それ以外にも、複数属性を併せ持つ“混合属性”や、契約によって力を借りる“召喚魔法”も存在するわ」
そして二人を見た。
「とりあえず説明は以上。……じゃあ、早速適性を調べましょう。どっちからやる?」
ガイマとミナは顔を見合わせる。
「私からやるわ」
ミナが一歩前に出て言う。
「いいのか?」
「ええ」
ミナは木製の人形の前に立ち、ゆっくりと手を伸ばした。
――触れる。
……しかし、何も起きない。
人形は、沈黙したままだった。
「あれ……?」
ミナは戸惑い、手を当てたまま首を傾げる。
「……変わらない……ってことは……」
スズモが静かに告げる。
「……残念だけど、そうね。今のところ、適性は見られない」
ミナは手を離し、俯いた。
「……そっか……」
その瞬間だった。
――カッ。
木製の人形が、突然、虹色に輝き始めた。
赤、青、黄、緑、白、黒――
すべての色が混ざり合い、流れるように変化していく。
「……え?」
ミナは目を見開き、ガイマは息を呑んだ。
スズモは、言葉を失っていた。
「……あり得ない……」
震えた声で、呟く。
「……この反応……魔道神ナミ様と……同じ……」
はっとして口を押さえる。
「……まさか……生まれ変わり……?」
ガイマが慌てて聞く。
「スズモ、今“魔道神ナミ”って言ったよな? それって……そんなに凄いのか?」
スズモは我に返り、強く言い切る。
「凄いなんてものじゃない!」
一瞬、感情が溢れかけるが、すぐに言い直す。
「……ナミ様はね……魔法に愛された存在だった。あらゆる属性、あらゆる術式を自在に操る……まさに魔法そのもの」
「どんな魔法でも、例外なく、よ」
ガイマは目を輝かせる。
「マジか……! すげぇなミナ!」
「……うん……」
ミナはまだ状況を飲み込めずにいたが、微笑んだ。
「次はガイマの番よ。適性がなくても……私が守るから」
「……いや、守られる気はないがな」
ガイマは前に出る。
「……よし、やるか」
木製の人形に触れた瞬間。
――黒。
次に――白。
そして最後に、黒と白が半分ずつ混ざった状態で静止した。
「……俺の適性は……黒と白か」
スズモは眉をひそめる。
「暗黒魔法と、回復・支援魔法……」
そして、珍しく困惑した顔で言う。
「……だが、最後の“半分ずつ”という反応は初めて見る。正直……どういう意味かまでは分からない」
「そっか。まぁ、適性があるだけ良しとするさ」
スズモは気を取り直し、手を叩いた。
「じゃあ、まずは基礎ね。魔力の引き出し方と、簡単な魔法から教えるわ」
その頃――暗黒神ダークの根城
「……最近支配した街の様子は?」
玉座に座るダークの問いに、配下が答える。
「住民は完全に萎縮しております。抵抗の兆しはありません」
「そうか」
ダークは興味なさげに言った。
「元々、あの街には用はない。ただナミを称える者が多くて目障りだっただけだ」
配下が下がった後、別の男が人影のない場所で呟く。
「……だが、ダーク様は気にしておられる」
懐から水晶を取り出す。
「ナミの教え子を、こちら側へ引き込め。これは命令だ」
水晶越しに返事が響く。
『了解しました』
男は翼を広げ、闇へ消えた。
再びスズモの家
数日が経ち――
ガイマとミナは、すでに複数の魔法を使えるようになっていた。
少し離れた場所から見守りながら、スズモは呟く。
「……数日で、ここまで……」
「……一体、何者なの……」
その時、気配を察知する。
「……来客ね」
スズモは即座に判断する。
「カイマ、ミナ。ここから離す。別の場所へ転移するわ」
「了解」
「分かった」
二人の足元に魔法陣が展開され、姿が消えた。
直後、馬車が止まり、小太りの男たちが現れる。
「話がある」
「……仕方ないわね」
家に通した後、男は言った。
「貴女に、我が街の守り手になってもらいたい」
スズモの目が鋭くなる。
「断る。私は、貴方たちのやり方を許していない。暗黒神ダークの支配を受け入れ、ナミ様に関わるものを捨て、魔法訓練を禁じ……そんな街の守り手になるくらいなら死んだ方がマシよ」
男は冷たく言う。
「……ナミは死んだ。受け入れろ」
「受け入れられるわけがない!」
すると、別の男が写真を差し出した。
拘束され、傷ついた人々。
スズモの拳が震える。
「……ゲス共が……」
「一週間だ。返事を聞かせろ」
去っていく男たち。
残されたスズモは、血が滲むほど手を握りしめ――
「……ナミ様……私は……どうすれば……」
静かに、そう呟いたのであった。




