14話
その頃――ミナとゲイズは、洞窟の奥でゲイズに回復魔法をかけ続けていた。
魔力を休みなく循環させ、傷口が塞がるたびに新たな傷へと意識を向ける。その集中は深く、周囲の気配を遮断してしまうほどだった。
だからこそ、気づいた時には遅すぎた。
洞窟の入り口から、無数の足音が一斉に流れ込んできた。
兵士たちが、雪崩れ込むように突入してきたのだ。
抵抗する間もなく、二人は制圧され、魔法封じの枷をはめられた。
今は馬車の中、揺れに身を任せながら、どこへ向かうとも知れず運ばれている。
「……まさか、回復魔法に集中しすぎて、全く気配に気づけなかったなんて……」
ミナが悔しげに呟く。
「いや……違う。あの時、一人だけ異質な女兵士がいた。彼女が、全員に気配遮断をかけていたんだ」
捕縛された瞬間を思い出す。
女兵士が指を鳴らした途端、それまで無だった気配が一斉に溢れ出した。
「間違いない……あれは相当な使い手だ」
そんな会話をしていると、馬車の外から声が聞こえてきた。
「隊長、結局この人たちが例の件の犯人なんですか?全然そうは見えないですけど!!それに、私がいなくても問題なかったですよね? 私だって暇じゃないんですよ!!」
女性の声。
やや気怠げで、どこか投げやり。
それに応える、低く重みのある男の声。
「暇じゃないだと?お前はいつも兵舎で寝てるだけだろうが、レガネス!!何度言えば分かる、やる気を出せ! それでも副隊長か!」
「ひどくない? その言い方。寝ることの何が悪いの?へぇ……隊長は寝ないんだ。すごーい!!私ごときが真似できるわけないじゃない」
皮肉交じりの言葉に、苛立った別の声が割り込む。
「レガネス副隊長、その口の利き方はどうかと思います。それに……副隊長、何もしてませんよね?洞窟に突入する時も、眠そうに後ろを歩いてただけで」
新人兵士の声だった。
レガネスは一瞬考えるようにしてから、あっさりと言った。
「君、誰だっけ?まあいいや。私は最後尾の馬車で寝るから、何かあったら起こしてね」
そう言い残し、去っていく。
その途中、馬車の中を覗き込み、ミナと目が合うと――
にこり、と柔らかく笑い、手を振った。
ミナの胸が、わずかにざわつく。
新人兵士が苛立ちを隠さず吐き捨てる。
「……何なんですか、あの態度。あれが副隊長だなんて、あり得ません」
隊長は、低く諭すように言った。
「人を見かけで判断するな。レガネスは……俺よりも遥かに強い。常に実力を隠し、やる気がないふりをしているだけだ」
新人兵士が息を呑む。
「洞窟への突入があれほどスムーズだった理由も、それだ。全員に気配遮断をかけていたのは、レガネスだ」
「……失礼しました、隊長」
馬車の中でそれを聞いていたミナは、思考を巡らせる。
(あの人……レガネス……確かに、隊長も相当な強者の雰囲気だった。けど、それ以上……?
全員に気配遮断なんて、私には到底無理………これから、私たちはどうなるの……?)
一方、最後尾の馬車。
レガネスは防音結界を張り、座席に身を沈めていた。
「……まさか、死んだとされていたナミと、こんな形で再会するなんて」
目を閉じ、静かに呟く。
「でも……私のことを覚えていなかった。それに、あの頃の強さも感じない……」
違和感が、胸を締めつける。
「禁忌の蘇生魔法……使ったの?誰を蘇生させたの……カイマ……?」
答えは出ない。
やがて眠りに落ち――
夜が深まった頃、レガネスは突然目を開いた。
窓の外を見つめ、息を詰める。
「……この感覚……ドラ……」
以前にも感じたことのある、しかし今は明確な魔力の波動。
「消えない……ということは……完全に、カイマの体から離れた……」
視線が鋭くなる。
「ドラのいる場所に行けば……カイマがいる」
少し考え、決断する。
「……合流するしかないわね」
すぐに隊長の元へ向かい、告げる。
「隊長、悪いけど――その二人、連れて行くわ。この人たちは例の犯人じゃない。本当の犯人は、この先の街の隠し地下室にいる」
隊長は険しい顔で問う。
「どこへ行くつもりだ?それに……その話は本当か?」
「今は話せない。だって、ついて来るでしょ?」
小さく笑う。
「すぐ戻るつもりよ。今回だけは信じて。……じゃあ、連れて行くね」
そう言って、馬車の扉を破壊し、魔法陣を展開する。
その瞬間、隊長が叫んだ。
「レガネス!戻って来い! お前は俺の副隊長だ!理由は聞かない……死ぬなよ!!」
光が弾け、三人は姿を消した。
少し離れた場所へ転移し、レガネスはミナとゲイズの枷に触れ、破壊する。
ミナは即座に距離を取り、魔法を展開し睨みつける。
「……何のつもり?どこへ連れて行くの?私は……急いでガイマの所へ行かなきゃならないの」
レガネスは答えず、眠ったままのゲイズに触れる。
「……酷い火傷。この程度も治せないなんて……弱くなったわね」
光が溢れ、ゲイズの火傷が瞬く間に消えていく。
ミナは息を呑む。
「……一瞬で……あなた……何者なの?」
レガネスは静かに答える。
「私は……あなたの知り合い。でも、今のあなたは記憶を失っている」
「……え?」
「今から向かうのは、魔物が蔓延る場所。そこで――ドラと合流する」
「……ドラって、誰……?」
「今は話しても理解できない。合流してから、全部話す」
レガネスは前を向く。
「急げば四日。あとは……獣人次第ね」
こうしてレガネスは、ミナとゲイズと共に行動を開始し、
ドラとの合流を目指すのだった。




