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記憶を無くした者  作者: ひろろ
第2章
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14話

 

 その頃――ミナとゲイズは、洞窟の奥でゲイズに回復魔法をかけ続けていた。

 魔力を休みなく循環させ、傷口が塞がるたびに新たな傷へと意識を向ける。その集中は深く、周囲の気配を遮断してしまうほどだった。


 だからこそ、気づいた時には遅すぎた。


 洞窟の入り口から、無数の足音が一斉に流れ込んできた。

 兵士たちが、雪崩れ込むように突入してきたのだ。


 抵抗する間もなく、二人は制圧され、魔法封じの枷をはめられた。

 今は馬車の中、揺れに身を任せながら、どこへ向かうとも知れず運ばれている。


「……まさか、回復魔法に集中しすぎて、全く気配に気づけなかったなんて……」


 ミナが悔しげに呟く。


「いや……違う。あの時、一人だけ異質な女兵士がいた。彼女が、全員に気配遮断をかけていたんだ」


 捕縛された瞬間を思い出す。

 女兵士が指を鳴らした途端、それまで無だった気配が一斉に溢れ出した。


「間違いない……あれは相当な使い手だ」


 そんな会話をしていると、馬車の外から声が聞こえてきた。


「隊長、結局この人たちが例の件の犯人なんですか?全然そうは見えないですけど!!それに、私がいなくても問題なかったですよね? 私だって暇じゃないんですよ!!」


 女性の声。

 やや気怠げで、どこか投げやり。


 それに応える、低く重みのある男の声。


「暇じゃないだと?お前はいつも兵舎で寝てるだけだろうが、レガネス!!何度言えば分かる、やる気を出せ! それでも副隊長か!」


「ひどくない? その言い方。寝ることの何が悪いの?へぇ……隊長は寝ないんだ。すごーい!!私ごときが真似できるわけないじゃない」


 皮肉交じりの言葉に、苛立った別の声が割り込む。


「レガネス副隊長、その口の利き方はどうかと思います。それに……副隊長、何もしてませんよね?洞窟に突入する時も、眠そうに後ろを歩いてただけで」


 新人兵士の声だった。


 レガネスは一瞬考えるようにしてから、あっさりと言った。


「君、誰だっけ?まあいいや。私は最後尾の馬車で寝るから、何かあったら起こしてね」


 そう言い残し、去っていく。

 その途中、馬車の中を覗き込み、ミナと目が合うと――


 にこり、と柔らかく笑い、手を振った。


 ミナの胸が、わずかにざわつく。


 新人兵士が苛立ちを隠さず吐き捨てる。


「……何なんですか、あの態度。あれが副隊長だなんて、あり得ません」


 隊長は、低く諭すように言った。


「人を見かけで判断するな。レガネスは……俺よりも遥かに強い。常に実力を隠し、やる気がないふりをしているだけだ」


 新人兵士が息を呑む。


「洞窟への突入があれほどスムーズだった理由も、それだ。全員に気配遮断をかけていたのは、レガネスだ」


「……失礼しました、隊長」


 馬車の中でそれを聞いていたミナは、思考を巡らせる。


(あの人……レガネス……確かに、隊長も相当な強者の雰囲気だった。けど、それ以上……?

全員に気配遮断なんて、私には到底無理………これから、私たちはどうなるの……?)


 一方、最後尾の馬車。


 レガネスは防音結界を張り、座席に身を沈めていた。


「……まさか、死んだとされていたナミと、こんな形で再会するなんて」


 目を閉じ、静かに呟く。


「でも……私のことを覚えていなかった。それに、あの頃の強さも感じない……」


 違和感が、胸を締めつける。


「禁忌の蘇生魔法……使ったの?誰を蘇生させたの……カイマ……?」


 答えは出ない。


 やがて眠りに落ち――

 夜が深まった頃、レガネスは突然目を開いた。


 窓の外を見つめ、息を詰める。


「……この感覚……ドラ……」


 以前にも感じたことのある、しかし今は明確な魔力の波動。


「消えない……ということは……完全に、カイマの体から離れた……」


 視線が鋭くなる。


「ドラのいる場所に行けば……カイマがいる」


 少し考え、決断する。


「……合流するしかないわね」


 すぐに隊長の元へ向かい、告げる。


「隊長、悪いけど――その二人、連れて行くわ。この人たちは例の犯人じゃない。本当の犯人は、この先の街の隠し地下室にいる」


 隊長は険しい顔で問う。


「どこへ行くつもりだ?それに……その話は本当か?」


「今は話せない。だって、ついて来るでしょ?」


 小さく笑う。


「すぐ戻るつもりよ。今回だけは信じて。……じゃあ、連れて行くね」


 そう言って、馬車の扉を破壊し、魔法陣を展開する。


 その瞬間、隊長が叫んだ。


「レガネス!戻って来い! お前は俺の副隊長だ!理由は聞かない……死ぬなよ!!」


 光が弾け、三人は姿を消した。


 少し離れた場所へ転移し、レガネスはミナとゲイズの枷に触れ、破壊する。


 ミナは即座に距離を取り、魔法を展開し睨みつける。


「……何のつもり?どこへ連れて行くの?私は……急いでガイマの所へ行かなきゃならないの」


 レガネスは答えず、眠ったままのゲイズに触れる。


「……酷い火傷。この程度も治せないなんて……弱くなったわね」


 光が溢れ、ゲイズの火傷が瞬く間に消えていく。


 ミナは息を呑む。


「……一瞬で……あなた……何者なの?」


 レガネスは静かに答える。


「私は……あなたの知り合い。でも、今のあなたは記憶を失っている」


「……え?」


「今から向かうのは、魔物が蔓延る場所。そこで――ドラと合流する」


「……ドラって、誰……?」


「今は話しても理解できない。合流してから、全部話す」


 レガネスは前を向く。


「急げば四日。あとは……獣人次第ね」


 こうしてレガネスは、ミナとゲイズと共に行動を開始し、

 ドラとの合流を目指すのだった。

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