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記憶を無くした者  作者: ひろろ
第2章
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11話

 


 歪んだ表情を張り付かせたまま生き残った数名は、ほとんど同時に出口へと視線を走らせた。

 逃げるしかない。

 本能がそう叫び、彼らは我先にと扉へ駆け出す。


 だが――


 ビシッ


 乾いた音と同時に、扉は一瞬で閉ざされた。

 まるで見えない糸で縫い留められたかのように、微動だにしない。


 そして、


 ゴックン


 部屋の中に、不自然なほど大きな嚥下音が響き渡った。


「……逃がす訳、ないわ」


 ウズはゆっくりと振り返り、淡々と言い放つ。


「あなたたちは、やりすぎたの。報いを受けて当然――そういう結果」


 その声に、残った者の一人が恐怖と怒りを滲ませて叫ぶ。


「ふざけるな!! この気持ち悪い化け物が!!

 こんなもん……こんな化け物が存在するわけねぇだろ!!

 誰だよ!! 誰がこんなもの作り出しやがった!!

 頭がイカれてるに決まってる!!」


 その瞬間。


 ウズの表情から、眠たげな緩さが消えた。

 感情の抜け落ちた、完全な無表情。


「……別にいいよ」


 低い声。


「化け物って呼ばれるのは、別に構わない」


 一歩、近づく。


「でもね」


 二歩。


「――私を作った主様を侮辱する発言は、許さない」


 空気が変わる。

 残りの者たちは、本能的に“踏んではいけないものを踏んだ”と悟った。


「やれ!!」


 悲鳴混じりに魔法が放たれる。

 炎、氷、雷――無秩序な攻撃がウズに叩きつけられる。


 だが。


 魔法は彼女の身体に触れた瞬間、吸い込まれるように消え失せた。


「……え?」


 理解が追いつかないその目の前で、ウズは立っている。


 次の瞬間、彼女の両腕が歪んだ。

 骨が軋み、肉が裂け、両手が巨大な口へと変貌する。


 ――ガバァッ


 悲鳴すら上げる間もなく、二人がそれぞれ飲み込まれる。

 歯が噛み合わさり、骨が砕け、血が床に滴る。


 残った最後の一人が、後ずさりながら嗤った。


「……はは……化け物、が……」


 その言葉の途中で、ウズの口が限界まで裂ける。


 ――ゴクン


 それで、終わりだった。


 しばらくして。


「……汚れ役、終わりだね」


 ウズは腹を軽くさすり、大きく欠伸をする。


「ふぁあぁ……眠いなぁ」


 床に散らばった血と肉片を一瞥し、


「……でも、隊長と合流しないと」


 そう言って、何事もなかったかのように扉を開け、廊下へ消えた。




 その頃。


 金髪のメイド、ドウは三階へ向かっていた。

 空気は重く、壁には乾ききらない血の跡。


「……胸糞悪い部屋は、この先だったな」


 淡々と呟く。


「アタイらは気に入られてたから、直接はやられなかったけど……

 叫び声だけは、嫌でも耳に入ってきた」


 その時。


「おい」


 見張りが立ちはだかる。


「この時間に部屋を出るなと言ったはずだ」


 スイッチを取り出し、冷たく告げる。


「戻らなければ、電流を流す」


 ドウは立ち止まり、笑った。


「……やれよ」


 スイッチが押される。


 だが次の瞬間、悲鳴を上げたのは――隣の兵士だった。


「ぐぎゃあああああ!!」


 倒れ込む兵士を見て、スイッチを持つ男が狼狽する。


「な、何をした!?

 なぜ……電流が……!?」


「見えてなかったのか?」


 ドウは肩をすくめる。


「押す前に首輪を外して、そいつに投げてやっただけだ」


「……ありえねぇ!!」


 男は後退りながら叫ぶ。


「仲間を――」


「面倒だな」


 次の瞬間。


 ドウは既に背後にいた。


 両手には、骨付きの頭部。


 ――グシャリ。


 二つ同時に潰され、脳漿が床に飛び散る。


 それから先、

 ドウの進路に立った兵士は、例外なく“消えた”。


 ――――――――――


 拷問部屋の前。


 中からは悲鳴と、鞭の乾いた音が漏れてくる。


 ドウは拳を握り――


 壁ごと殴り飛ばした。


 中には、磔にされ、皮膚が裂け、指を切断された人々。

 床には血と、転がる指。


 中央には、スキンヘッドの男が一人。


「……奴隷メイドか」


 興味なさげに言い、鞭を振り上げる。


 その先には、猿轡を噛まされた幼い女性。


 だが。


 鞭は彼女に届かない。


 ドウが、身を差し出していた。


 背に針が突き刺さる。


「もう大丈夫だ」


 ドウは微笑む。


「アタイが来た」


 男は鼻で笑う。


「馬鹿な女だ。俺を殺せばよかったものを」


 鞭を引き抜き、再び振るう。


 何度も、何度も。


 針が刺さり、血が飛び散る。


 それでも、ドウは一歩も退かない。


「……何者だ、お前」


 男の声が震える。


「なぜ……倒れない……」


「言っただろ」


 ドウは静かに答える。


「人を守るために作られた、特別製だ」


 拳を握る。


「……そろそろ終わらせないと、隊長に怒られる」


 ――ズン。


 一撃で、男の腹を撃ち抜く。


 衝撃は部屋を貫き、壁を突き破り、建物の端まで達した。


 ドウは振り返り、囚われていた人々に言った。


「自由だ」


「怪我も、全部治してやる」


 その声に、涙を流す者がいた。


 こうして、

 メイドウズの“掃除”は、静かに進んでいく。


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