6話
ノノが必死に叫ぶが、
その場に人影はなく、助けが来る気配もない。
クロコダイルウルフたちは一斉に口を開き、
今にもノノへ飛びかかろうとしていた。
――やだ。
――死にたくないし。
――いや……。
噛みつかれる、その刹那。
ノノの両目に異変が起こった。
瞳が赤く光り、
その視線が一匹のクロコダイルウルフと交わる。
次の瞬間――
そのクロコダイルウルフが突如として仲間に襲いかかり、
三匹をまとめて吹き飛ばした。
ノノは、その光景を呆然と見つめる。
「……えっ?何が起こったし?」
だが、次第に目に激しい痛みが走る。
「つぅ……目が痛い……。なに、これ……焼けるみたいな感じ……。痛い、痛い、痛い……!」
耐えきれず、ノノは反射的に目を閉じた。
目を閉じている間、
周囲からは激しい唸り声、
地面を揺らす衝撃音が伝わってくる。
――仲間割れ、してるし?
――本当に何があったし?
――この目の痛みと関係あるの?
混乱する思考の中、
やがて――音が止んだ。
同時に、あれほど激しかった目の痛みも、
嘘のように引いていく。
恐る恐る、ノノは目を開いた。
瞳は元の色に戻り、
目の前には――
四匹のクロコダイルウルフの死体が転がっていた。
「……とりあえず、急いで帰ってママとお父さんに伝えないと……」
そう言って立ち上がろうとするが、
腰が抜けたままで力が入らない。
その時だった。
上空から、
幼い男の姿がゆっくりと降りてくる。
「ふむ……。危険な魔物を討伐しに来たら、すでに始末されている。そして、君がいる」
死体とノノを交互に見て、男は言う。
「……もしや君がやったのか?いや、どう見ても強そうには見えないが……」
――誰だし?
だが、ノノはすぐに考えを切り替える。
――この人に、村まで連れて行ってもらえるし。
「私を襲ってきたけど、仲間割れして、こうなっただけだし。それで……あの、村に連れて行ってもらえないかしら?腰が抜けて動けないし」
そう頼むと、幼い男は冷ややかに言い放つ。
「どうして僕が、君の言うことを聞かなきゃいけない?主様に頼まれたなら従うけど、頼まれていないからな」
そう言い、その場を去ろうとした――その瞬間。
もう一人、幼い女性が空から降り立ち、男を叱る。
「トキフネ、馬鹿なことを言うな。主様なら、困っている人を放っておかないわ」
「作られて間もないから慣れていないのは分かるけど、少しは考えなさい」
「……分かったよ」
トキフネは溜息をつき、ノノを見る。
「女、村の場所を教えろ。連れていく」
そう言ってノノを軽く抱き上げ、
案内に従って村へ向かう。
その場に残った幼い女性は、
クロコダイルウルフの死体に手を触れ、静かに呟いた。
「主様の見立て通り……暗黒神ダークが関わっているのでしょうね」
「となると……今の子が、例の夫婦の娘。主様は今、ちょうどあの家にいるはず……」
「急ぎましょう」
そう言うと、
死体ごとその場から姿を消した。
その頃、ノノの村では――
世界神カイマが、とある夫婦の家を訪れていた。
「世界神カイマ様。何度お越しになられても、我が娘をお預けすることは出来ません」
「確かに……あの子には、妻と同じ“目”を引き継ぐ可能性があります。ですが、引き継がない可能性もあるのです」
父は必死に訴える。
「仮に引き継がれた場合、
暗黒神ダークは、妻ではなく、
あの子を狙うでしょう」
「ここ最近、彼の悪い噂はよく耳にします。
もし貴方様に預けたとして……娘を、利用したりはしませんか?」
「私は、あの子には普通の生活をしてほしいのです」
カイマは静かに頷き、答える。
「そのようなことはしないと、誓います」
そして、少し間を置いて言った。
「……すみません。間もなく、俺の配下が来ます。驚かないでください」
その直後、
先程の女性がクロコダイルウルフの死体と共に現れる。
「主様。やはり、ダークが魔物を送り込んでいました」
「そして……到着した時には、娘さんが始末していました。間違いなく、“目”を発現しています」
母親は顔を青くする。
「そんな……。まさか……目を発現したなんて……」
「けれど……発現しなければ、あの子は……」
しばし沈黙の後、父が言った。
「……カイマ様に、娘を預けよう」
「あなた……」
「今できる、最善だ」
母は深く頷き、カイマを見る。
「ですが、約束してください。娘を危険な目に遭わせないこと」
「そして……頻繁に、この村へ連れてきてください」
「分かりました。その約束、必ず守ります」
その瞬間、扉が開き――
「ママ!お父さん!大変だし!!魔物が――」
ノノの声が響く。
「あれ?さっきの女の人……?クロコダイルウルフ?それに……カイマおじさん?」
「ちょ、離して!離して!恥ずかしいから!」
暴れるノノを下ろし、
母の背後に隠れたノノは、カイマを見つめる。
「はは、元気そうだね、ノノ」
「それじゃ、俺たちはこれで失礼するよ。ノノと話す時間が必要だろう?」
「三日後、迎えに来る」
「分かりました。ありがとうございます」
「カイマおじさん、もう帰るの?私、まだ話したいこといっぱいあるし!」
「今はダメだな。でも次は、たくさん話そう」
ノノは満面の笑みで跳ねる。
「やった!約束だよ、カイマおじさん!」
こうして――
カイマ達は村を後にした。




