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記憶を無くした者  作者: ひろろ
第2章
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6話

 

 ノノが必死に叫ぶが、

 その場に人影はなく、助けが来る気配もない。


 クロコダイルウルフたちは一斉に口を開き、

 今にもノノへ飛びかかろうとしていた。


 ――やだ。

 ――死にたくないし。

 ――いや……。


 噛みつかれる、その刹那。


 ノノの両目に異変が起こった。


 瞳が赤く光り、

 その視線が一匹のクロコダイルウルフと交わる。


 次の瞬間――

 そのクロコダイルウルフが突如として仲間に襲いかかり、

 三匹をまとめて吹き飛ばした。


 ノノは、その光景を呆然と見つめる。


「……えっ?何が起こったし?」


 だが、次第に目に激しい痛みが走る。


「つぅ……目が痛い……。なに、これ……焼けるみたいな感じ……。痛い、痛い、痛い……!」


 耐えきれず、ノノは反射的に目を閉じた。


 目を閉じている間、

 周囲からは激しい唸り声、

 地面を揺らす衝撃音が伝わってくる。


 ――仲間割れ、してるし?

 ――本当に何があったし?

 ――この目の痛みと関係あるの?


 混乱する思考の中、

 やがて――音が止んだ。


 同時に、あれほど激しかった目の痛みも、

 嘘のように引いていく。


 恐る恐る、ノノは目を開いた。


 瞳は元の色に戻り、

 目の前には――

 四匹のクロコダイルウルフの死体が転がっていた。


「……とりあえず、急いで帰ってママとお父さんに伝えないと……」


 そう言って立ち上がろうとするが、

 腰が抜けたままで力が入らない。


 その時だった。


 上空から、

 幼い男の姿がゆっくりと降りてくる。


「ふむ……。危険な魔物を討伐しに来たら、すでに始末されている。そして、君がいる」


 死体とノノを交互に見て、男は言う。


「……もしや君がやったのか?いや、どう見ても強そうには見えないが……」


 ――誰だし?


 だが、ノノはすぐに考えを切り替える。


 ――この人に、村まで連れて行ってもらえるし。


「私を襲ってきたけど、仲間割れして、こうなっただけだし。それで……あの、村に連れて行ってもらえないかしら?腰が抜けて動けないし」


 そう頼むと、幼い男は冷ややかに言い放つ。


「どうして僕が、君の言うことを聞かなきゃいけない?主様に頼まれたなら従うけど、頼まれていないからな」


 そう言い、その場を去ろうとした――その瞬間。


 もう一人、幼い女性が空から降り立ち、男を叱る。


「トキフネ、馬鹿なことを言うな。主様なら、困っている人を放っておかないわ」


「作られて間もないから慣れていないのは分かるけど、少しは考えなさい」


「……分かったよ」


 トキフネは溜息をつき、ノノを見る。


「女、村の場所を教えろ。連れていく」


 そう言ってノノを軽く抱き上げ、

 案内に従って村へ向かう。


 その場に残った幼い女性は、

 クロコダイルウルフの死体に手を触れ、静かに呟いた。


「主様の見立て通り……暗黒神ダークが関わっているのでしょうね」


「となると……今の子が、例の夫婦の娘。主様は今、ちょうどあの家にいるはず……」


「急ぎましょう」


 そう言うと、

 死体ごとその場から姿を消した。



 その頃、ノノの村では――

 世界神カイマが、とある夫婦の家を訪れていた。


「世界神カイマ様。何度お越しになられても、我が娘をお預けすることは出来ません」


「確かに……あの子には、妻と同じ“目”を引き継ぐ可能性があります。ですが、引き継がない可能性もあるのです」


 父は必死に訴える。


「仮に引き継がれた場合、

 暗黒神ダークは、妻ではなく、

 あの子を狙うでしょう」


「ここ最近、彼の悪い噂はよく耳にします。

 もし貴方様に預けたとして……娘を、利用したりはしませんか?」


「私は、あの子には普通の生活をしてほしいのです」


 カイマは静かに頷き、答える。


「そのようなことはしないと、誓います」


 そして、少し間を置いて言った。


「……すみません。間もなく、俺の配下が来ます。驚かないでください」


 その直後、

 先程の女性がクロコダイルウルフの死体と共に現れる。


「主様。やはり、ダークが魔物を送り込んでいました」


「そして……到着した時には、娘さんが始末していました。間違いなく、“目”を発現しています」


 母親は顔を青くする。


「そんな……。まさか……目を発現したなんて……」


「けれど……発現しなければ、あの子は……」


 しばし沈黙の後、父が言った。


「……カイマ様に、娘を預けよう」


「あなた……」


「今できる、最善だ」


 母は深く頷き、カイマを見る。


「ですが、約束してください。娘を危険な目に遭わせないこと」


「そして……頻繁に、この村へ連れてきてください」


「分かりました。その約束、必ず守ります」


 その瞬間、扉が開き――


「ママ!お父さん!大変だし!!魔物が――」


 ノノの声が響く。


「あれ?さっきの女の人……?クロコダイルウルフ?それに……カイマおじさん?」


「ちょ、離して!離して!恥ずかしいから!」


 暴れるノノを下ろし、

 母の背後に隠れたノノは、カイマを見つめる。


「はは、元気そうだね、ノノ」


「それじゃ、俺たちはこれで失礼するよ。ノノと話す時間が必要だろう?」


「三日後、迎えに来る」


「分かりました。ありがとうございます」


「カイマおじさん、もう帰るの?私、まだ話したいこといっぱいあるし!」


「今はダメだな。でも次は、たくさん話そう」


 ノノは満面の笑みで跳ねる。


「やった!約束だよ、カイマおじさん!」


 こうして――

 カイマ達は村を後にした。


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