表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶を無くした者  作者: ひろろ
第2章
40/66

05話


 燃え広がる大地の中、クラボンはゆっくりと地面へ降り立った。

 本来であれば、全身を焼かれ、灰となっていてもおかしくないはずの場所――

 そこに、まだ息のあるゲイズの姿があった。


 クラボンは目を細め、感心したように言う。


「……ほう」


 視線を巡らせ、状況を把握する。


「この状況で、氷の魔法を使い獣人の男を瞬時に凍結。

 さらに分厚い氷の壁を形成し、守りに回ったか」


 続けて、地面の陥没を見て鼻で笑う。


「自身の周囲をわざと魔法で陥没させ、

 その上で氷の障壁を張り、

 ファイヤーバードの獄炎の炎(ごくえんのほのお)を防いだ……」


 クラボンは静かに頷く。


「判断も、技量も……悪くない」


 一方のミナは、膝に手をつき、荒く息をついていた。


(はぁ……はぁ……)


 全身が重く、魔力はほとんど底をついている。


(……本当に、今のはヤバかった)


 視線をファイヤーバードへ向ける。


(あの鳥だけで、あの威力……

 クラボンは、まだ何も見せてない)


 状況を整理しながら、ミナは歯を噛みしめる。


(魔力はほとんど残ってない……

 逃げるにしても、ゲイズを置いてはいけない)


(……詰んでる、かしら)


 その時――

 クラボンがファイヤーバードへ命令を出そうとした瞬間、

 彼の背後に人形の猫が音もなく現れた。


 猫はクラボンの耳元で、何かを囁く。


 クラボンは一瞬、目を見開き、舌打ちする。


「……ちっ」


 そして、ミナへと視線を戻す。


「命拾いしたな、女」


 淡々と告げる。


「俺は、ここを去らねばならなくなった」


 指を立て、警告するように続ける。


「お前のことは覚えておいてやるよ、ミナ」


 さらに付け加える。


「それと、あの二人――

 レーゼンの場所から少し行った先、

 魔物が蔓延る地帯に転移させている」


 冷たく笑う。


「……あの二人が強ければ、合流できるだろうな」


 そう言い残すと、クラボンはファイヤーバードに飛び乗り、

 そのまま空へと消えていった。


 残された人形の猫は、ミナの方を振り返り、肩をすくめる。


「ゲイズ様も、人が良すぎるニャン」


 そして、地面にポーションを並べながら言う。


「そして、この私も人が良すぎるからね。

 火傷に効くポーション、いくつか置いていくニャン」


 尻尾を振りながら、最後に一言。


「では、さらばニャン」


 そう言って、猫の人形はふっと消え去った。


 その場に残されたミナは、

 力が抜けたように膝をつき、四つん這いになる。


 何度も、何度も、地面を叩きつける。


「……ガイマ……」


 声が震える。


「私が……弱いせいで……

 あなたの所に、すぐ行けない……」


 拳を握りしめる。


「ごめんなさい……」


 嗚咽が漏れる。


「……強くなりたい……

 強く、強くならなきゃ……」


 涙が地面に落ちる。


「じゃないと……

 ガイマを……守れない……

 守れないよ……」


「……うぅ……あぁぁぁぁぁ!!」


 ミナの泣き声が、焼け焦げた森に響いた。



---


 一方その頃――

 ガイマとノノは、魔法陣による転移の衝撃で、

 魔物が蔓延る別の地に投げ出されていた。


 ガイマは体勢を崩し、地面に倒れ込む。


「……くそ……」


 土を払いながら起き上がろうとする。


「ここは……どこだ?

 ミナたちは……?」


 そう呟いた、その瞬間――


「カイマおじさん!!」


 という声と共に、

 腹に強烈な衝撃が走る。


「がふぁっ……!」


 再び地面に叩きつけられるガイマ。


 彼の上に乗っていたのは、ノノだった。


「……あっ」


 ノノは慌てて体を離す。


「ごめんだし。

 会いたくて、つい飛びついてしまったし」


 少し気まずそうに続ける。


「……すぐ離れるし」


 ガイマは息を整え、体を起こしながらノノを見る。


「……ノノ、と言ったな」


 慎重に言葉を選ぶ。


「お前は……俺を知っているのか?

 俺は……お前のことを知らない。

 というより、記憶がない」


 ノノは目を見開く。


「……カイマおじさん?」


 信じられないという表情。


「冗談でしょ?

 私だよ、魅惑神ノノだし」


「すまない……本当に覚えていない」


 ガイマは正直に答える。


「それに、ノノが言う“カイマ”ってのは

 世界神カイマのことだろ?

 ……彼は、死んだはずだ」


 ノノの表情が険しくなる。


「……人違いじゃないし!!」


 声を荒げる。


「その魔力の色も、声も……

 本人だし!!」


 睨みつけるように続ける。


「魅惑の目で見た、

 カイマおじさんの魔力なんだから、

 間違いないし!!」


 ガイマは一度、深く息を吐いた。


「……とりあえず」


 周囲を警戒しながら言う。


「一旦、安全な場所で話さないか?

 カイマって人物と、ノノの出会い……

 詳しく聞きたい」


「分かったし」


 ノノは頷く。


「じゃあ、その前に……

 始末するし」


 背後へ視線を送る。


「カイマおじさんは、待ってて」


 瞳が赤く光る。


「魅惑の能力、使うから」


 背後に迫っていた巨大なゴリラ型の魔物と視線が交差する。


「ごめんだけど」


 静かに命じる。


「話がしたいから、

 ここに魔物を近寄らせないで」


「……ジャイアントキングゴリラ」


「ウホホホホホホ!!」


 ゴリラは咆哮し、

 その場を離れると同時に、

 周囲のゴリラたちを率いて魔物へ襲いかかり始めた。


 ガイマは呆然とその光景を見つめる。


(……なんだ?

 命令しただけで、従った……)


(……これが、魅惑の力か)


 警戒を強め、問いかける。


「……ノノ。

 俺にも、その魅惑の力を使うのか?」


 ノノは手をぶんぶんと振る。


「使わないし。

 使っても効かないし」


 少し呆れたように言う。


「それに……

 ちょっとうるさいけど」


 表情を柔らかくして続ける。


「カイマおじさんの名が知れ渡るまでと、

 ウチのことを、簡単に話すね」


 そうして――

 ノノは、語り始めたのだった。



【世界神カイマが知れ渡るまで ― ノノが知っている範囲】


 世界神カイマ。

 彼は、突如としてこの世界に現れた存在だと伝えられている。


 どこで生まれ、

 どのような環境で育ち、

 誰に教えを受けたのか――

 そのすべてが不明であり、今なお多くの謎に包まれた人物とされている。


 そんな彼が世界にその名を轟かせるきっかけとなったのは、

 とある事件を解決したことだった。


 その事件とは、

 “最強最悪”と恐れられた妖狐討伐である。


 その妖狐は、カイマと戦う以前、

 数千――いや、数万に及ぶ人間を無差別に殺し、

 神と呼ばれる存在すら何柱も屠ってきた怪物だった。


 国は滅び、

 街は灰となり、

 妖狐の名を聞くだけで人々は震え上がったという。


 だが、カイマはその妖狐に単身で挑み、

 そして――終止符を打った。


 妖狐をどのようにして殺したのか、

 その詳細について、カイマ本人は一切語らなかった。


 ただ一言、

「殺した」

 そう言い、

 妖狐の死体を見せるだけだった。


 その出来事を境に、

 カイマは“世界神”と呼ばれるようになったのだ。


【ノノとの出会い】


 当時のノノは、

 どこにでもいる、ごく普通の女の子だった。


 特別な力もなく、

 神の名を持つこともなく、

 ただ村で家族と暮らしていた。


 ある日、親からこう言われた。


「村の外で薬草を取ってきてほしい」


 ノノは頷き、

 本来なら魔物が出ないとされている場所へ、

 ひとりで向かうことになった。


「良い天気だし。

 はやく頼まれた薬草を収集して、

 村に帰って遊ぶし」


 そう言いながら、

 ご機嫌な足取りで森の中を進んでいく。


 目的の薬草はすぐに見つかり、

 ノノは籠いっぱいにそれを詰める。


「これで大丈夫だし」


 そう呟き、

 帰ろうと踵を返した――その時だった。


 カサカサ……


 背後から、何かが擦れるような音が聞こえた。


 ノノは不思議に思い、

 ゆっくりと振り返る。


 そこにいたのは――

 ワニの鱗に覆われたウルフが、四匹。


「……冗談だし?」


 声が震える。


「何で……

 何で、ここにクロコダイルウルフがいるし……?」


 本来、この場所に現れるはずのない魔物。

 ノノの足から、一気に力が抜けた。


 クロコダイルウルフたちは、

 ノノを見据え、低く唸り声を上げる。


「うぐるるるるる……」


「るぐるるるる……」


「ギュルルルル……」


「ギュラララ……」


 四方から迫る殺気。

 ノノは腰を抜かし、その場から動けなくなる。


「く、来るなし!!

 あっちに行くし!!」


 声を振り絞って叫ぶが、

 魔物たちは止まらない。


 一歩、また一歩と距離を詰め、

 鋭い牙がはっきりと見えるほど近づいてくる。


「……嫌だし」


 涙が溢れ、声が掠れる。


「死にたくないし……

 いや、いや……」


 首を振り、必死に後ずさろうとするが、

 体は言うことを聞かない。


「来ないで……

 来ないでぇぇぇ!!」


 ――その叫びが、

 この後の運命を大きく変えることになるのであった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ