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記憶を無くした者  作者: ひろろ
第2章
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03話

 

 その頃――

 獣人の国から遥か離れた地に、異様な光景が広がっていた。


 森の一角。

 本来なら緑に満ちているはずの大地は黒ずみ、生命の気配がほとんど感じられない。


 その中心に、一人の女性が横たわっていた。


 両腕は肘から先が綺麗に切断され、片足も失われている。

 血は既に乾きかけ、呼吸も浅い。


 洞窟で式神として現れた――あのシノビの女性だった。


「……ゲイズ様……」


 かすれた声で、名を呼ぶ。


「申し訳……ありません……。私は……ここまで、のようです……」


 視線は虚空を彷徨い、それでも必死に言葉を紡ぐ。


「もっと……お傍で……お役に、立ちたかった……」


 そして、微かに笑った。


「……(しろ)……(あお)……(くれない)……私……ちゃんと……ゲイズ様を……守りましたよ……」


 それは、死を待つ者の最期の告白だった。


 その時――

 枯れ葉を踏みしめる音が、静かな森に響いた。


「……最近、多いのぅ……」


 年老いた男が、杖も持たずゆっくりと歩いてくる。


「何故こうも、ワシの行く先行く先で……死にかけておる者と出くわすのかのぅ……」


 倒れているシノビを見下ろし、目を細める。


「意識は……あるかの?」


 返事はない。

 だが、かろうじて生きていることは分かった。


「主様なら……助けるじゃろうの。ワシが通りがかって、正解じゃった」


 男はそう呟くと、杖も使わずに魔法を発動させた。


 シノビの身体が、ふわりと宙に浮く。


 そのまま少し離れた場所へと移動し、男は地面に手を置いた。


 ――ゴゴゴ……。


 大地が静かに歪み、そこに“扉”が現れる。


 扉の先は、地下とは思えない簡素な部屋だった。

 狭いながらも、ベッドや棚が整然と配置されている。


 男はシノビをベッドに寝かせた。


 ――どれほど時間が経ったのか。


 女性は、ゆっくりと目を開けた。


 見知らぬ天井。


 起き上がろうとして――できない。


「……ここは……?」


 腕が、ない。

 足も、動かない。


「……何故……私は……生きて……?」


 首だけを動かし、周囲を見回す。


 すると、すぐ傍に年老いた男がいた。


「目が覚めたかの。死にそうじゃったところを、助けてやった」


 淡々と、しかし確かに告げる。


「両腕と片足も、本当なら完全に復元するつもりじゃったが……材料が足りんでの」


 男は顎に手を当てる。


「アヤツに会えれば良かったのじゃが……

 どこにおるか分からん」


 そして、穏やかに問いかけた。


「今ある義手と義足で良ければ、今はそうするが……どうするかの?」


 ――なぜ、助けた?

 ――目的は?


 疑念は尽きない。


 だが、彼女には選択肢がなかった。


 ――生きねば……ゲイズ様の元へ戻れない。


「……それで、お願いします」


 そう答え、意を決して尋ねる。


「……貴方は、何者なのですか?身体を“復元”できる回復魔法など……魔道神なみ様でも不可能なはずですが……」


 年老いた男は、少し考えるように顎を撫でてから答えた。


「ワシか?ワシは……主様が作られたホムンクルスの一人」


 静かに、名を告げる。


「トキフネ、じゃ」


 その言葉に、シノビの女は目を見開く。


「……その名……どこかで……それに……ホムンクルス……?」


「その話は、ここまでじゃ」


 トキフネは話を打ち切る。


「今からが本番じゃ。義手と義足をつけるのは、そう簡単ではない」


 空間から、義手と義足を取り出しながら言う。


「……その後のリハビリも、しっかり見ねばならんからの」


 こうして――

 彼女は、再び生きる道を与えられた。



 場面は戻る。


 ガイマ、ミナ、ゲイズの三人は、当初の目的地――

 “見せしめ”が行われている場所へと向かっていた。


 だが、ゲイズだけは詳細を知らされていない。


(……どこに向かっている?)


「旦那。今、どこへ向かってるんです?」


 率直な疑問。


 ガイマは、はっとしてミナを見る。

 ミナもまた、気まずそうに目を逸らした。


「……すっかり忘れてたわ。ごめん、ゲイズ」


 ミナが説明する。


「見せしめが行われている場所に向かってるの。ゲイズ、何か心当たりある?」


 ゲイズの表情が引き締まる。


「……暗黒神ダークに支配され、反旗を翻したレジスタンスがいた場所……レーゼン、か」


 声が低くなる。


「未だに生き残りが潜伏しているらしく……

 見せしめとして、死体を棒に括り晒していると聞く」


「……許せねぇな」


 ガイマが吐き捨てる。


「出来れば、レジスタンスと合流したいところだ」


「確かに……解放の足掛かりになるかもしれないわ」


 そう言いかけたミナが、ふと周囲を警戒する。


「……ねぇ、二人とも。気づいてる? 囲まれてる」


「分かってるぜ、姉さん」


 ゲイズが口角を上げる。


「こういう時は、俺の出番だ。最近、身体が鈍って仕方なくてな」


「……無理だと思ったら、すぐ下がれ」


「了解です、旦那」


 次の瞬間――

 ゲイズは地を蹴り、姿を消した。


「ぐぎゃあああ!!」


「ぐぐぎゃああ!!」


 断末魔が、森に響き渡る。


 ガイマは、地面に残った深い踏み込み跡を見て呟く。


「……流石は獣人王だな」


「ええ……それに、敵の位置が分かってるみたい」


 ミナは目を細める。


「……匂い、かしら」


 一方――

 ゲイズは次々と魔物を切り裂き、進んでいた。


「……数はかなり減ったな」


 そして、足を止める。


「だが……気になるな」


 鋭い視線を森に向ける。


「そこに隠れてる奴、出て来い。微かだが……女特有の匂いがする」


 木陰から、赤い髪の幼い女性が姿を現した。


「……なかなかやるやん」


 気怠げに笑う。


「けど、ウチは何も仕掛けてないし。魔物の気配があったから、様子見に来ただけや」


「……ガキか」


 ゲイズは肩をすくめる。


「怖かっただろ。もう大丈夫だ、帰りな」


 その瞬間――


「……ムカつく獣人やね」


 赤髪の女から、殺気が溢れ出す。


「ウチはガキちゃう。成人しとる」


 次の瞬間、

 ゲイズは膝をついた。


「……ぐっ……!?」


 全身を貫く圧。


「……なんだ、この殺気……あの神共と……同等……いや……それ以上……」


 息を荒げ、問いかける。


「……お前……何者だ……?」


 赤髪の女は、微笑みながら答えた。


「――魅惑神ノノ」


 静かに、名乗るのであった。

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