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記憶を無くした者  作者: ひろろ
第2章
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02話

 

 洞窟の奥で、ミナは壁にもたれながら浅い呼吸を繰り返していた。

 治療を終えた安堵と、ここまで張り詰めていた緊張が一気に解け、瞼が重くなる。


 ――少しだけ……。


 意識が揺らぎ、うとうとと舟を漕ぎ始めた、その時だった。


 不意に背後から強い力がかかる。

 次の瞬間、身体が引き寄せられ、喉元に腕が食い込んだ。


「――っ!?」


 獣人の男が目を覚ましていた。

 反射的に起き上がり、眠っていたミナを羽交い締めにしていたのだ。


「俺をどうする気だ!!ここはどこだ、答えろ!!」


 突然の拘束に、ミナは息を詰まらせる。


「く……っ、離しなさい!!」


 必死にもがくが、獣人の腕は鉄のように固い。

 男はさらに力を込め、怒鳴り声を上げた。


「質問に答えろ、女!!このまま殺すことも出来るんだぞ!?ここはどこだ! お前はあいつらの仲間か!!」


 ――まずい、このままだと……。


 息が苦しい。

 意識が遠のきかける中、ミナは歯を食いしばる。


 ――起きたばかりで悪いけど……気絶させるしかない!


 手のひらに雷の魔力を集中させ、獣人の身体に触れた。


「――がががががっ!!」


 電流が流れ、獣人の身体が痙攣する。

 本来なら、それで意識を失うはずだった。


 だが――。


「……ぐ、あぁぁ……!!」


 獣人は耐えた。

 それどころか、さらに力を込め、ミナの首を締め上げる。


「あ……が……はな……し……」


 雷の魔法が解け、ミナの視界が暗くなっていく。

 今にも気絶しそうになった、その瞬間。


 ――ドンッ!!


 衝撃音と共に、獣人の身体だけが吹き飛ばされた。


「ごほっ……ごほっ……!!」


 ミナはその場に崩れ落ち、激しく咳き込む。

 視線を上げると、そこにはガイマが立っていた。


「大丈夫か、ミナ?」


 低く抑えた声。

 だが、その目には明確な怒りが宿っていた。


「中が騒がしいと思って来てみれば……こんな事になってるとはな。助けてやった相手が、ミナをこんな目に合わせるとは……」


 ガイマの手に、魔力で形成された黒く尖った棒が現れる。


「……許さねぇ」


 壁に叩きつけられた獣人に、殺意を込めて迫る。


 獣人は、何が起きたのか理解できないまま叫ぶ。


「な……何だ……!?体が……動かねぇ……!あの女の魔法か……くそ……!俺は……こんな所で死ねねぇんだ!!」


 死を覚悟した、その瞬間。


 獣人の足元の影が揺れた。


 次の瞬間――

 一人のシノビの女性が、地面から現れた。


 クナイが閃き、ガイマの黒い棒を正面から受け止める。


「……ようやく見つけました。ご無事ですか? この状況、すぐに打破します」


 突然の介入に、ガイマは一瞬だけ目を見開く。


「誰かは知らねぇが……邪魔をするな。そいつはミナを殺そうとした。死にたくなければ、その命をよこせ」


 シノビの女は一歩も引かない。


「させません。この方は……私達の領地に欠かせない存在です。今、私がすべき事は――この方を守る事」


 そう言い切ると、ガイマを蹴り飛ばし、低い姿勢でクナイを構える。


「……仕方ない。手荒な真似はしたくなかったが……本気でいくぞ」


 その言葉と同時に、洞窟内の空気が変わった。

 重く、圧し掛かるような殺気が満ちる。


 獣人、シノビ、そしてミナ――

 全員が本能的に理解する。


 ――この男は、危険だ。


(なんだ……この重圧……領地を襲った連中も化け物だったが……こいつは、次元が違う……)


(死んでも……この方だけは、領地に連れ帰らなければ……)


(……まずい。このままだと、ガイマが本当に殺す……!)


「ガイマ!!」


 ミナは必死に声を上げた。


「私は……私は大丈夫だから。お願い、落ち着いて。……話を聞きましょう」


 ガイマはミナを見る。

 その表情が本気だと分かり、深く息を吐いた。


「……分かった。だが、あっちが話す気を見せなければ――その時はやる」


 殺気が抑えられる。


 獣人は、ゆっくりと身体を動かし、ミナの前に立った。


「……先程は、すまなかった」


 そう言って、深く頭を下げる。


「姉さん……謝らせてくれ」


「いえ……私も雷を流してしまって、ごめんなさい。それと……姉さん、はやめて欲しいかも」


「……そうですかい。考えときます」


 その時、シノビの女がガイマに向き直る。


「……お願いがあります。どうか、この片の助けになって下さい」


「……式神、か?」


「はい。これは……私が死に直面すると発動する式神です。つまり……本体は、もう長くありません」


「……助からねぇのか?」


「……ええ。既に生命反応はほとんど……」


 言葉の途中で、シノビの身体が紙切れの人形へと変わり、静かに崩れ落ちた。


「……くそ」


 ガイマはその紙切れを拾い上げ、歯を噛みしめる。


「助けられなかった……のか。一体、何があった……」


 そうして、三人は火を囲むように座った。


 獣人の男が口を開く。


「……まずは、命を救ってくれた事に礼を言う。俺の名は――ゲイズ。獣人の国を治めていた、獣人王だ」


 ミナとガイマは顔を見合わせる。


「……聞いた事ある?」


「……記憶があれば、な。今は分からねぇ」


 ゲイズは目を見開いた。


「……記憶を失っている、だと?」


 そして――

 獣人の国と、世界神カイマ、魔道神ミナの話が語られていく。


 奴隷だった獣人達。

 それを否定し、国を築いたカイマ、ミナ。

 そして――暗黒神ダークによる侵略。


「……俺は逃げた。力をつけろと言われてな。

 だが……その途中で襲われ、この有様だ」


 火が静かに揺れる。


「……獣人の国は、遠いの?」


「……かなりな」


 ミナは静かに首を振った。


「行くつもりなの?……私は反対。今すぐ戻っても、また同じ目に遭うだけ」


「ナミ!! 見捨てろって言うのか!?」


「違う!!話は最後まで聞いて」


 ミナは真っ直ぐ二人を見る。


「向かうのは向う。でも……強くなりながら。

 仲間を集めながら。それが、今できる一番の道よ」


 沈黙。


 やがて、ゲイズが頷いた。


「……分かった。可能性があるなら……それに賭ける」


「決まりね。明日から……仲間探しと、修行よ」


 こうして――

 三人の進む道は、静かに定まったのであった。

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