34話
ここまでが1章となります。1章のタイトルはつけてませんが‥。次回から2章に入って行こうと思います。
カイマとカテレナが村へ戻ると、そこには亡くなった人々の亡骸が丁寧に並べられていた。
静まり返った空気の中、ガレオンが一歩前に出る。
「主様。とりあえず、すべて並べ終えました」
「ご苦労。これより、魔法にて皆を供養する」
そう言って、カイマは巨大な魔法陣を展開する。
魔力が集まり、今にも発動しようとした――その時。
くい、と袖が引かれた。
「……待ってもらえませんか?」
カテレナだった。
伏せた目のまま、震える声で続ける。
「お母さんと……お父さんの顔を、最後に見ておきたいです」
それを聞いたガレオンが口を開く。
「主様のお手を煩わせる必要はありません。既に魔法は――」
「ガレオン、良い」
カイマは静かに魔法を止めた。
「また準備すればいいだけの話だ。カテレナ、行っておいで。俺はここで待っている」
そして周囲を見渡し、命じる。
「レガネス、ナミ。一緒に行ってやれ」
「およよ? 私? ……ま、了解」
「了解です、カイマ様」
三人はその場を離れていく。
残されたカイマは、ガレオンに向き直った。
「ガレオン。お前は俺を尊重しすぎるきらいがある。だがな、他者の気持ちを尊重することも同じくらい大切だ」
「……」
「まだ幼い子だ。両親を亡くしたばかりなんだぞ」
「……申し訳ありません、主様。次からは気をつけます」
深く頭を下げるガレオンに、カイマはそれ以上何も言わなかった。
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カテレナは、両親の亡骸を見つけた瞬間、堪えていた感情が溢れ出した。
膝をつき、そっと寄り添い、声を殺して泣く。
少し離れた場所で、ナミが呟く。
「……私たちが、もっと早く気づいていれば……」
「それは違うわ、ナミ」
レガネスは首を振る。
「たとえ早く来ていたとしても、助けられた保証なんてどこにもない。それに、今さら後悔しても時間は戻らない。私たちに出来るのは、現実を受け止めることだけ」
「……レガネス様。たまには、まともなことを言うんですね。少し驚きました」
「にゃにお!? 私はいつでも真面目よ!」
そんなやり取りの後、カテレナが涙を拭き、二人を見た。
「あの……もう、大丈夫です」
そして深く頭を下げる。
「……ありがとうございました」
「いえ、カイマ様の頼みですから――って、え?」
ナミは目を見開いた。
「今……二人分の声……?」
「それは主様に聞きなさい。ほら、戻るわよ」
レガネスがそう言って歩き出し、ナミも慌てて後を追う。
――この人たちと共にいれば、きっと私たちは多くのことを知れる。そして、カイマ様には必ず恩を返さなければ。
(分かってるわ、レナ。私たちが生きているのは、カイマ様のおかげ。何があっても、あの方を信じてついていく)
二人の想いは一つとなり、カテレナは前を行く背中を追った。
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――場面は現代へと戻る。
「……そんなことがあったの」
カテレナは静かに語り終える。
「その後の私たちについては……話せば長くなるから、また機会があればね」
領主とスズモは、その話に言葉を失っていた。
(世界神カイマ……魂を移す魔法など聞いたことがない。やはり、あの名は伊達ではない……)
「そのような過去が……思い出させてしまって、すまなかった」
一方、スズモは考え込む。
(私が弟子になった時、既にカテレナはカイマ様とナミ様を知っていた……もし本当なら、ミナとガイマは……)
「……カテレナ。ミナとガイマは、あなたの言う通り二人なのかもしれない。だが、確信はない」
「ええ、大丈夫です」
カテレナは微笑む。
「本人を見れば分かるわ。そろそろ戻ってくる頃かしら?」
扉が開き、リリベットが水晶の魔道具を抱えて入ってくる。
「お待たせしました。すぐに確認します」
水晶に魔力を流すと、宙に映像が浮かび上がる。
そこに映っていたのは――ガイマとミナだった。
「……面影はあるけど……若すぎるわね」
「分からないわ、カテ。でも、魔力を感じれば本人かどうか判断できる」
「ええ。なら、直接確かめましょう」
スズモは地図を広げる。
「二人はこの街を出て、どちらかへ向かいました」
一つは、暗黒神ダークに敗れ、今も残党狩りが続く場所。
もう一つは、魅惑神ノノによって滅ぼされた、厳重に管理された地。
「……どちらも厄介ね」
「行き先は、街を出てから決めると言われました」
「なら、私たちも出ましょう」
立ち上がろうとしたカテレナを、領主が呼び止める。
「カテレナ、スズモを連れて行ってくれ」
「それは……この街はまだ――」
「心配はいらん。皆がおる」
カテレナは金貨の袋と紙を机に置いた。
「この場所へ行けば、兵を借りられます。
私たちの名を出せば協力してくれるでしょう」
「そこまでしてくださる必要は……」
「代価です。カイマも、きっと同じことをします」
そう言って、踵を返す。
「スズモ、行くならついてきなさい」
「……はい」
スズモは深く頭を下げ、後を追った。
「再会できることを祈っておるぞ」
その言葉を背に受けながら――
カテレナとスズモは街を後にしたのであった。




