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記憶を無くした者  作者: ひろろ
1章
35/66

34話

ここまでが1章となります。1章のタイトルはつけてませんが‥。次回から2章に入って行こうと思います。

 

 カイマとカテレナが村へ戻ると、そこには亡くなった人々の亡骸が丁寧に並べられていた。

 静まり返った空気の中、ガレオンが一歩前に出る。


「主様。とりあえず、すべて並べ終えました」


「ご苦労。これより、魔法にて皆を供養する」


 そう言って、カイマは巨大な魔法陣を展開する。

 魔力が集まり、今にも発動しようとした――その時。


 くい、と袖が引かれた。


「……待ってもらえませんか?」


 カテレナだった。

 伏せた目のまま、震える声で続ける。


「お母さんと……お父さんの顔を、最後に見ておきたいです」


 それを聞いたガレオンが口を開く。


「主様のお手を煩わせる必要はありません。既に魔法は――」


「ガレオン、良い」


 カイマは静かに魔法を止めた。


「また準備すればいいだけの話だ。カテレナ、行っておいで。俺はここで待っている」


 そして周囲を見渡し、命じる。


「レガネス、ナミ。一緒に行ってやれ」


「およよ? 私? ……ま、了解」


「了解です、カイマ様」


 三人はその場を離れていく。


 残されたカイマは、ガレオンに向き直った。


「ガレオン。お前は俺を尊重しすぎるきらいがある。だがな、他者の気持ちを尊重することも同じくらい大切だ」


「……」


「まだ幼い子だ。両親を亡くしたばかりなんだぞ」


「……申し訳ありません、主様。次からは気をつけます」


 深く頭を下げるガレオンに、カイマはそれ以上何も言わなかった。



 ---


 カテレナは、両親の亡骸を見つけた瞬間、堪えていた感情が溢れ出した。

 膝をつき、そっと寄り添い、声を殺して泣く。


 少し離れた場所で、ナミが呟く。


「……私たちが、もっと早く気づいていれば……」


「それは違うわ、ナミ」


 レガネスは首を振る。


「たとえ早く来ていたとしても、助けられた保証なんてどこにもない。それに、今さら後悔しても時間は戻らない。私たちに出来るのは、現実を受け止めることだけ」


「……レガネス様。たまには、まともなことを言うんですね。少し驚きました」


「にゃにお!? 私はいつでも真面目よ!」


 そんなやり取りの後、カテレナが涙を拭き、二人を見た。


「あの……もう、大丈夫です」


 そして深く頭を下げる。


「……ありがとうございました」


「いえ、カイマ様の頼みですから――って、え?」


 ナミは目を見開いた。


「今……二人分の声……?」


「それは主様に聞きなさい。ほら、戻るわよ」


 レガネスがそう言って歩き出し、ナミも慌てて後を追う。


 ――この人たちと共にいれば、きっと私たちは多くのことを知れる。そして、カイマ様には必ず恩を返さなければ。


(分かってるわ、レナ。私たちが生きているのは、カイマ様のおかげ。何があっても、あの方を信じてついていく)


 二人の想いは一つとなり、カテレナは前を行く背中を追った。



 ---


 ――場面は現代へと戻る。


「……そんなことがあったの」


 カテレナは静かに語り終える。


「その後の私たちについては……話せば長くなるから、また機会があればね」


 領主とスズモは、その話に言葉を失っていた。


(世界神カイマ……魂を移す魔法など聞いたことがない。やはり、あの名は伊達ではない……)


「そのような過去が……思い出させてしまって、すまなかった」


 一方、スズモは考え込む。


(私が弟子になった時、既にカテレナはカイマ様とナミ様を知っていた……もし本当なら、ミナとガイマは……)


「……カテレナ。ミナとガイマは、あなたの言う通り二人なのかもしれない。だが、確信はない」


「ええ、大丈夫です」


 カテレナは微笑む。


「本人を見れば分かるわ。そろそろ戻ってくる頃かしら?」


 扉が開き、リリベットが水晶の魔道具を抱えて入ってくる。


「お待たせしました。すぐに確認します」


 水晶に魔力を流すと、宙に映像が浮かび上がる。

 そこに映っていたのは――ガイマとミナだった。


「……面影はあるけど……若すぎるわね」


「分からないわ、カテ。でも、魔力を感じれば本人かどうか判断できる」


「ええ。なら、直接確かめましょう」


 スズモは地図を広げる。


「二人はこの街を出て、どちらかへ向かいました」


 一つは、暗黒神ダークに敗れ、今も残党狩りが続く場所。

 もう一つは、魅惑神ノノによって滅ぼされた、厳重に管理された地。


「……どちらも厄介ね」


「行き先は、街を出てから決めると言われました」


「なら、私たちも出ましょう」


 立ち上がろうとしたカテレナを、領主が呼び止める。


「カテレナ、スズモを連れて行ってくれ」


「それは……この街はまだ――」


「心配はいらん。皆がおる」


 カテレナは金貨の袋と紙を机に置いた。


「この場所へ行けば、兵を借りられます。

 私たちの名を出せば協力してくれるでしょう」


「そこまでしてくださる必要は……」


「代価です。カイマも、きっと同じことをします」


 そう言って、踵を返す。


「スズモ、行くならついてきなさい」


「……はい」


 スズモは深く頭を下げ、後を追った。


「再会できることを祈っておるぞ」


 その言葉を背に受けながら――

 カテレナとスズモは街を後にしたのであった。

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