32話
レガネスとガレオンは、村を壊滅させた者たちをすべて殲滅し終え、少し開けた場所で合流していた。
返り血はすでに乾き、周囲には生き物の気配は一切ない。
そこへナミが、どこか不安そうな表情で声をかける。
「レガネス様……お一人で大丈夫だったのですね」
その言葉を聞いた瞬間、レガネスはにやりと笑い、勢いよくナミに飛びついた。
「なに、なに〜?心配してくれたのナミ?可愛いとこあるじゃん」
そう言って両手でナミの頬をつかみ、ぷにぷにと遠慮なく弄る。
「ちょ、ちょっと!レガネス様、やめてください!離れてくださいよ!」
ナミは必死に抵抗するが、レガネスはまったく手を緩めない。
そこへガレオンが、呆れたように声をかける。
「レガネス、いい加減にしろ。……そちらは、きちんと全滅させたのだな?」
「見逃すわけないじゃん。主様が命を下したんだから、全うするのは当たり前でしょ」
そう言ってから、レガネスはガレオンを見る。
「それで?主様のところに向かうの?」
「それなのだが……まだ残党が現れる可能性がある。ここで主様が戻られるのを待つつもりだ」
「ふ〜ん。ならそうしよっか」
レガネスは大きく伸びをし、再びナミに絡みつく。
「私、すっごく疲れたからさ。ナミをいじめて体力回復する」
「やめてくださいってば!!そんなことするくらいなら、そこら辺で休めばいいじゃないですか!!」
「えぇ〜、やだよ」
そう言いながらも、少し考えた末に肩をすくめる。
「……まあ、仕方ないか。じゃあ私、少し休むからさ。主様が戻ったら起こしてね。あとはよろしく」
そう言って近くの木にもたれかかり、目を閉じる。
――ガイマ、今どこにいるのかな。
大丈夫だとは思うけど……やっぱり気になる。
次の瞬間、レガネスの身体から淡い光が溢れ、実体とは別の存在が静かに生まれ出る。
本体は眠ったまま、その分身だけが音もなくその場を離れていった。
一方その頃――
場面は、南蛮神ナムの魔法陣が発動した直後へと戻る。
赤く光る魔法陣の中で、レナは地面を這いながら、気絶しているカテの元へと必死に向かっていた。
「くははは……」
背後から、ナムの嘲笑が響く。
「今にも死にそうな糞餓鬼が、ナメクジみたいに這ってやがる。だがな、もう魔法は発動してるんだ。ほら……自分の足を見てみろよ」
言われるままにレナが足を見ると、左足に細かなひび割れが走り始めていた。
次の瞬間、焼けるような激痛が走る。
「ひぐぅ……あぁあぁ……!足が、痛い……熱い……!」
思わず動きを止めてしまうが、視線の先にはカテがいる。
レナは歯を食いしばり、再び這い始める。
「いいねぇ。頑張れよ。あと少しで、糞餓鬼のとこだぜ」
ナムはそう言って、足元に転がっていた石を拾い上げると、力任せに投げつけた。
石は、ひび割れたレナの足に直撃し――
鈍い音と共に、足が砕け散る。
「ひぎゃああああああ!!!!!」
絶叫が響き渡り、レナはその場に崩れ落ちる。
さらに右手にもひび割れが広がり、激痛が全身を貫く。
「いぎゃぁあああああ!!」
「くはははは!いい悲鳴だ。さて……どこまで持つかな?無事に辿り着けるか?」
ナムは心底楽しそうに、その光景を眺めていた。
「……カテ……今、行くから……待ってて……」
レナは涙を流しながら、残された力で這い続け、ついにカテの元へ辿り着く。
右手は崩れ落ち、残った左手で、そっと触れる。
冷たい。
身体中にひび割れが走っているが――かすかに、息をしている。
「……ごめんね……私のせいで……」
声は震え、涙が止まらない。
「私が……あんなことしなければ……。お願い……誰か……誰か……」
かすれる声で、必死に願う。
「カテを……助けて……。私は……死んでもいい……。だから……カテだけは……」
その時、乾いた拍手の音が響いた。
「感動の再会だな。糞胸糞悪い」
ナムが笑いながら近づく。
「実験も失敗っぽいしよ。じゃあ、二人まとめて殺してやる」
そう言って懐から手斧を取り出し、躊躇なく投げ放った。
――しかし。
その手斧は、二人に届くことはなかった。
突如現れた男が、素手で掴み取っていた。
「遅くなったな。……まだ生きてるな」
静かな声だった。
「今は、この中で待っていろ。すぐに戻る」
次の瞬間、二人は温かく、丸い空間に包まれる。
同時に、地面の魔法陣が跡形もなく消滅した。
ナムは、その男の顔を見た瞬間、血の気が引いた。
「……せ、世界神カイマ……なぜ、ここに……?俺が何かしましました?」
「何かしたか、だと?」
カイマの声には、抑えきれない怒りが滲んでいた。
「村の惨状を見た。言い逃れはできん。それに……その二人にも、だ」
「わ、分かるだろ?神なら……力ある者は何をしてもいい。あの村は、そこの餓鬼が俺様の機嫌を損ねたからだ。あの二人も、恐ろしさを教えただけで――」
「……もういい」
カイマはそう言い放った。
「お前は喋るな」
次の瞬間、凄まじい魔力が放たれ、ナムは地面に叩き伏せられる。
声すら出せず、ただ這いつくばるだけ。
カイマは二人の元へ駆け寄り、状態を確認する。
するとレナが、かすれた声で言った。
「……私は……いいです……。カテを……先に……」
全身にひび割れが広がり、今にも砕けそうだった。
「……生きたいか?」
「……無理……です……」
「本心を聞く。生きたいか?」
レナは震える声で、泣きながら叫んだ。
「……生ぎたい……!まだ……カテと……生ぎたかった……!まだ……まだ……」
「……分かった」
カイマは静かに言う。
「その体では無理だが……カテの中でなら、生きられる。それでもいいか?」
「……お願い……します……」
「なら始める。その前に――」
カイマは視線を向ける。
「レガネス、いるんだろ。そいつを始末してくれ。俺は秘術に集中する」
次の瞬間、レガネスが姿を現す。
「やっぱりバレてたか。……本当、敵わないね」
そう言って、ナムを見下ろす。
「別の場所で始末していい?本当の力、見せてあげないとさ」
「……正体を悟られるなよ」
魔法陣が展開され、二人の姿は消えた。




