表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶を無くした者  作者: ひろろ
1章
30/66

30話

客室に通され、それぞれが席に着く。

 重厚な調度品に囲まれた室内は静かだったが、空気には張りつめた緊張が漂っていた。


 カテレナはスズモをまっすぐ見つめ、静かに言う。


「ガイマとミナについて、知っていることを話してほしい。もしかすると――あの二人は、カイマとナミの可能性がある」


 その言葉に、領主は一瞬だけ目を見開き、すぐにスズモと視線を交わした。


 答えたのはスズモだった。


「……ガイマは、自分の過去をほとんど覚えていないと言っていた。ミナも同じ。ただ、正直に言うと……私は、二人がカイマ様やナミ様だとは思えない」


「理由は?」


「実力です。確かに強かった。でも――あの二人の“神としての力”には、到底及ばない」


 カテレナは小さく首を振る。


「禁忌の代償よ。記憶をすべて失えば、力の扱い方や本来の強さを引き出せなくなっても不思議じゃない」


 そして、はっきりと言い切る。


「写真や、姿が分かる物はない?私たちなら分かる。だって、私たちは――昔のカイマとナミを、直接知っているから」


 その沈黙を破ったのは、控えめな声だった。


「……見えにくいかもしれませんが」


 女兵士――リリベットが一歩前に出る。


「元領主の館に、記憶を映し出す魔道具があります。もしかすると、そこにガイマ様とミナ様の姿が残っているかもしれません」


「そうか。では、それをここに持ってきてくれぬか」


「はい。少々時間がかかりますが」


 リリベットが退出すると、領主はカテレナへと向き直った。


「……その前に、ワシには気になることがある」


「何かしら?」


「お主から、時折“別の声”が聞こえる。無理に答えよとは言わぬが……正直、気になってな」


 カテレナは一瞬だけ視線を伏せる。


「……」


 すると、違う声が重なる。


「カテ、話してもいいんじゃない?この人たちなら、きっと口外しないわ」


「……そうね」


 カテレナは息を整え、静かに語り始めた。


「少し長くなる。まず――“カテレナ”という名前は、本名じゃない」


「私の名前は“カテ”。そして、もう一つの声が“レナ”。私たちは――双子だったの」


 その言葉に、スズモも領主も息を呑む。


「とりあえず、全部話す。聞き終わってから、質問して」


 そう前置きし、カテレナは過去を語り始めた。


 私とレナは、辺境の小さな村で生まれ育った双子だった。

 名もない、地図にもほとんど載らない村。

 それでも、家族がいて、日々があって、私たちは幸せだった。


 あの日までは。


 私たちが十歳になるかならないかの頃。

 村の伝統である祭りの日だった。


 年に一度だけ、外から人が集まる特別な日。

 私とレナは、両親の屋台を手伝っていた。


 そんな中、一人の男がやって来た。


「ひっく……こんな辺境で祭りとはなぁ。たいした村じゃねぇが、今は気分がいい。ほら、酒のおかわりだ」


 男はひどく酔っていた。

 いや、“酔っている”という言葉では足りない。

 異常なほどの量を飲み続けていた。

 そして、ついに酒樽が空になった。


 勇気を振り絞り、私――カテが口を開く。


「あの……大変申し訳ありません。お酒が、もう……底をついてしまって……」


 次の瞬間。


 男は机を殴りつけた。


 バキッ、と嫌な音がして、机にひびが入る。


「はぁん?酒がないだと?ふざけてんのか、この糞餓鬼が!」


 私は、体が固まって動けなかった。


「無いなら買いに行け!さっさと行けって言ってんだろ!」


 空のジョッキが、私に向かって投げつけられた。



 避けられない――そう思った、その瞬間。

「カテ!」


 レナが、お盆でそれを弾き返した。


「大丈夫?」


「……う、うん……」


 震える私を背に庇い、レナは男の前に立つ。


「どうした餓鬼。俺様に楯突く気か?」


 レナは、まっすぐ男を見据え――


 次の瞬間、迷いなく頬を叩いた。


 乾いた音が、祭りの喧騒を裂く。


「……酔いは覚めましたか?お酒はありません。ここは辺境の村です。他の村へ行くことも、すぐにはできません」


 男は、叩かれた頬をゆっくり撫でた。


「……ほう」


 その瞬間、空気が変わった。

 凄まじい殺気が、男から溢れ出す。


 私は、その場に膝をついた。


 恐怖で、身体が言うことをきかない。


「この俺様、南蛮神なんばんしんナムの殺気を受けて、まだ立っていられるとはな」


 男――いや、“神”は嗤った。


「だが、俺様を怒らせた。報いを受けさせてやる」


 周囲にいた男たちが、一斉に立ち上がる。


「村を壊滅させろ。南蛮神ナムが、それを許す」


 悲鳴が上がった。


 抵抗する者は斬られ、逃げる者は踏み潰される。

 祭りは、一瞬で地獄に変わった。


 何かを叫ぼうとしたレナは、ナムに蹴り飛ばされ、地面を転がった。


「がふっ……!」


 私は、首を掴まれ、宙に持ち上げられる。


 息ができない。

 視界が暗くなる。


 レナは動こうとした。

 けれど――


 そのまま、意識を失ったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ