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記憶を無くした者  作者: ひろろ
1章
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03話

 

 ミナに案内され、二人は巨大な木の窪みに横たわるガイマのもとへ辿り着いた。


 同行してきた人物は、ガイマの姿を見るなり即座に膝をつき、その身体に手を伸ばした。呼吸、脈、瞳孔――慣れた手つきで次々と確認していく。


「……やはりな」


 低く呟き、ミナを見上げる。


「ポイズンラビットと戦ったな?」


「……ポイズンラビット? それって……角の生えた、ウサギのモンスターのこと?」


「そうよ」


 その人物は淡々と答えた。


「ポイズンラビットの角には強力な毒がある。厄介なのは、即効性ではないという点ね。刺された直後は大丈夫でも、時間差で毒が全身を巡る。……気付かず放置して、死に至る者も多い」


 ミナの顔から血の気が引いた。


「……嘘……」


 ガイマの手を握りしめ、震える声で問う。


「……助かる、よね? ガイマ……助かるよ

 ね?」


 だが、その問いに返ってきたのは、冷たい言葉だった。


「助かる“可能性”はある。だが――私は“助ける”とは言っていない」


「……え……?」


 ミナは顔を上げ、相手を見つめる。


「……冗談、よね……? 助けてくれるんでしょう……?」


 その人物は立ち上がり、見下ろすように言った。


「ミナ、お主は甘い」


 静かな声だったが、容赦はなかった。


「もし私が悪人で、金目の物を狙って来たと言ったら……お主は何を差し出す? 命を救うのに、対価が要らぬと思っているのか?」


 ミナは言葉を失う。


「……黙りか。なら話は終わりだ。私は、タダで命を救うほど善人ではない」


 背を向け、立ち去ろうとした瞬間。


 ミナは地面に額を擦り付け、土下座した。


「お願いじまず……!」


 声は震え、言葉は嗚咽に崩れる。


「ガイマを……ガイマを、だずげでぐだざい……! お願いじます……!」


 その人物は振り返り、冷ややかに言う。


「泣いて頼めば、どうにかなると思ったか?」


「……だずげで……お願いです……!」


「……なら、一つ条件を出そう」


 低い声。


「お前が“死”を受け入れれば、そこのガイマとやらを助けてやる。命と命の交換だ」


 ミナは息を呑み、しばらく沈黙した後、震えながら問い返した。


「……本当に……それで……助けてくれますか……?」


「本当に出来るならな」


 ミナはゆっくりと立ち上がった。


 震える足で、隅に置かれていたガイマの袋へ向かう。中から取り出したのは――折れた短剣。


「……約束……しましたから……」


 涙を流しながら、短剣を胸に向ける。


「……ガイマざまを……だずげで……ぐだざい……」


 刃が心臓へ向かおうとした、その瞬間。


「――待て」


 短剣は、いつの間にか相手の手にあった。


「……すまぬ」


 その人物は、深く頭を下げた。


「試した。……本当に、そこまでして助けたいのかをな」


 短剣を床に置き、真剣な表情で言う。


「……ガイマは助ける。お主の覚悟は、本物だった」


 ミナは力が抜け、その場に座り込んだ。


「……たす……げで……ぐれる……」


 嗚咽混じりに呟く。


「……ありがとう……ございます……」


「だが、ここでは治療できん」


 そう言うと、指を鳴らす。


「私の家まで転移する」


 瞬間、足元に巨大な魔法陣が展開され、光が溢れる。


 次の瞬間――三人の姿は、その場から消え去った。



 ――神々の会議――


 一方その頃。


 円形に配置された机を囲み、六人の人物が座していた。


 黒髪に黒い翼を持つ男が、静かに口を開く。


「忙しいところ集まってもらい、感謝する」


 視線を巡らせ、重く告げた。


「既に知っている者も多いだろう。――世界神せかいしんカイマは死んだ。そして、この五年間で世界は狂い始めた」


 一拍置き、続ける。


「……だが、これはまだ誰にも話していない事だ。世界神カイマは、俺に遺言を残していた」


 男、暗黒神(あんこくしん)ダークは、その言葉を読み上げる。


【皆、俺は取り返しのつかない失敗をした。おそらく、もう戻れない。いや……正確には、“戻る前に死ぬ”だろう。俺が姿を消したなら、死んだと判断してくれ。

 暗黒神ダーク。お前が、俺の意志を継ぎ、この世界を変えてくれー――今まで、ありがとう】


「……以上だ」


 ダークは机に手を置く。


「だから俺は、カイマの遺志に基づき、この世界を変える。既に配下は各地で動いている」


 赤髪の幼い少女が、小さく呟いた。


「……カイマの、馬鹿……」


 拳を握りしめる。


「一言くらい……言ってくれれば……」


 場の空気が重くなる中、長身の青髪の女性が立ち上がった。


「……話はそれだけ?」


 自由神じゆうしんカテレナは、冷ややかに言う。


「どうせ私たちを呼んだのは、手伝わせるためでしょう。でも悪いけど、私は手伝わない。やるべき事がある」


「それは何だ?」


 ダークが問う。


「言う必要ある?」


 鋭い視線。


「私の自由よ。それを阻むなら……例え貴方でも、容赦しない」


 殺気が部屋を満たす。


 だが、机を叩く音がそれを断ち切った。


「ふぇふぇふぇ……落ち着くのじゃ」


 白髪の老人――老神ろうしんヨークが笑う。


「カテレナは昔からそうじゃろ。好きにさせてやれ」


 沈黙の後、ダークはため息を吐いた。


「……分かった。勝手にしろ。ただし――俺の邪魔をすれば、容赦しない」


 カテレナは何も言わず、部屋を後にする。


「……カイマ様が、そんな失敗をするはずがない」


 彼女は独り呟いた。


「……魔道神まどうしんナミ様がいたのに……」


 影に紛れ、別の声が重なる。


「私もそう思う。……カイマ様は、生きているかもしれません」


「……なら、探そう」


 その瞬間、カテレナの姿は消えた。


 残ったダークは言う。


「お前達は好きな領地を支配しろ。方法は問わん」


 そして赤髪の少女を見る。


魅惑神みわくしんノノ。お前には、抵抗勢力を制圧してもらう」


「……分かった」


 ノノは静かに頷く。


「話し合いが無理なら……魅惑を使う」


「……それでいい」


 ノノは姿を消した。


 最後に残ったダークは、低く笑う。


「カイマ……お前の世界は、俺のものだ」


 闇に溶けるように、その姿も消えたのだった。

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