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記憶を無くした者  作者: ひろろ
1章
28/66

28話

ノノと暗黒神ダークの戦いは、五日目を迎えていた。

 すでにダークの居城は原形を留めておらず、壁は崩れ、床は砕け、もはや人の住める場所ではない。


 ノノの体には無数の傷が刻まれ、白い肌は血で赤黒く染まっていた。呼吸は荒く、立っているだけでも限界に近い。

 一方でダークは、衣服こそ乱れているものの、致命的な傷は見当たらなかった。


「ノノ……流石は神と呼ばれるだけの力だな」


 ダークは余裕を含んだ声音で言った。


「ここまで俺が仕留めきれないとは思わなかった。正直、惜しい。だから提案してやる……俺の元へ来い」


 ノノは息を切らしながらも、睨み返す。


「はぁ……はぁ……断るし!!」


「そうか」


 ダークは静かに笑った。


「ならば……少し本気を出そう」


「本気?馬鹿な事を言うなし……」


「哀れだな、ノノ。俺はお前を殺さない為に、力を抑えていただけだ」


 その瞬間、ダークの身体から凄まじい魔力が噴き出した。

 地面が震え、空気が歪み、ダークの背中から四枚の翼が生え、頭には二本の角が伸びる。


「この姿を見せたのは、カイマ以外ではお前が初めてだ」


「……聞いてないし、こんなの」


 ノノが後ずさった刹那、ダークの姿が掻き消えた。


 次の瞬間――


「――っ!!」


 ノノの腹部を、ダークの腕が貫いていた。


「がふっ……ゔぇ……」


 大量の血が口から溢れ、ノノの身体が崩れ落ちる。


「ほう……急所を僅かに外したか」


 ダークは感心したように呟き、手を引き抜いた。


「ごふっ……ダ……ーク……」


「苦しいか?なら、楽にしてやろう」


 ダークが止めを刺そうとした、その瞬間。


 ノノの身体が淡く光り、次の瞬間、姿が消えた。


「……魔道神ナミの魔法か」


 ダークは舌打ちする。


「死に瀕した際に発動する転移魔法……だが、あの出血量では助からん」


 ダークは元の姿へ戻り、気絶しているマルクトを蹴り飛ばした。


「起きろ、糞が」


「がはっ……こ、ここは……?」


「魅惑は解けたようだな、マルクト」


 全てを思い出したマルクトは、即座に地に伏した。


「申し訳ありません、ダーク様……!」


「本来なら殺すところだが……今日は疲れた」


 ダークは冷たく言い放つ。


「次はないと思え。今すぐ消えろ」


「……はい」


 マルクトが去った後、ダークは膝をついた。


「ノノ……侮っていた」


 小さく呟き、魔法陣を展開すると、その場から姿を消した。



 一方――。


 ノノが転移させられた先は、浅瀬の川だった。


「がふっ……げふ……ここ……どこだし……」


 血に染まった身体で、必死に呼吸をする。


「……嫌だ……死にたく……ない……カイマおじさん……」


 その時。

「……これは……ナミ様の魔法反応じゃな」


 白髪でヨボヨボの老人が、ノノを見下ろしていた。


「見覚えのある顔じゃ……このままでは死ぬのう」


 老人はノノを背負い、近くの洞窟へ運ぶ。


 葉を敷いた地面に寝かせ、服を裂き、傷を確認する。


「心臓まで、あと数センチ……危なかったのう」


 老人は自らの指を切り、滴る血をノノの傷へ垂らす。

 血は光を帯び、貫通していた傷口がゆっくりと塞がっていく。


「……これで命は助かった」


 切り傷にも同じ事を施し、全ての外傷を治す。


「ただし……痛みまでは消せん」


 老人は小さな袋を置き、立ち上がった。


「後は自分で生きるんじゃな」


 そう言い残し、姿を消した。

 しばらくして、ノノは目を覚ました。


「……生きてる……?」


 起き上がろうとした瞬間、全身を激痛が貫く。


「いぎゃあああああ!!」


 しばらくして痛みが引き、荒い息をつく。


「……傷……塞がってる……」


 涙を滲ませながら呟く。


「カイマおじさん……ウチ……間違った事、したかも……」


 ノノは目を閉じ、静かに眠りについた。



 一方その頃。

 ガイマたちは、次の目的地を決めようとしていた。


「……本気?」


 ミナが呆れた声を出す。


「道端の木の棒で決めるって……冗談でしょ?」


「本気だが?」


「適当すぎるわよ!」


「じゃあ、ナミは決められるのか?」


「……それは……」


「だろ?」


 ガイマは棒を地面に立て、手を離す。

 棒は左へ倒れた。


「左……スズモが言ってた見せしめの街だな」

「そうね……」


 こうして、彼らは新たな地へと歩き出すのであった

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