28話
ノノと暗黒神ダークの戦いは、五日目を迎えていた。
すでにダークの居城は原形を留めておらず、壁は崩れ、床は砕け、もはや人の住める場所ではない。
ノノの体には無数の傷が刻まれ、白い肌は血で赤黒く染まっていた。呼吸は荒く、立っているだけでも限界に近い。
一方でダークは、衣服こそ乱れているものの、致命的な傷は見当たらなかった。
「ノノ……流石は神と呼ばれるだけの力だな」
ダークは余裕を含んだ声音で言った。
「ここまで俺が仕留めきれないとは思わなかった。正直、惜しい。だから提案してやる……俺の元へ来い」
ノノは息を切らしながらも、睨み返す。
「はぁ……はぁ……断るし!!」
「そうか」
ダークは静かに笑った。
「ならば……少し本気を出そう」
「本気?馬鹿な事を言うなし……」
「哀れだな、ノノ。俺はお前を殺さない為に、力を抑えていただけだ」
その瞬間、ダークの身体から凄まじい魔力が噴き出した。
地面が震え、空気が歪み、ダークの背中から四枚の翼が生え、頭には二本の角が伸びる。
「この姿を見せたのは、カイマ以外ではお前が初めてだ」
「……聞いてないし、こんなの」
ノノが後ずさった刹那、ダークの姿が掻き消えた。
次の瞬間――
「――っ!!」
ノノの腹部を、ダークの腕が貫いていた。
「がふっ……ゔぇ……」
大量の血が口から溢れ、ノノの身体が崩れ落ちる。
「ほう……急所を僅かに外したか」
ダークは感心したように呟き、手を引き抜いた。
「ごふっ……ダ……ーク……」
「苦しいか?なら、楽にしてやろう」
ダークが止めを刺そうとした、その瞬間。
ノノの身体が淡く光り、次の瞬間、姿が消えた。
「……魔道神ナミの魔法か」
ダークは舌打ちする。
「死に瀕した際に発動する転移魔法……だが、あの出血量では助からん」
ダークは元の姿へ戻り、気絶しているマルクトを蹴り飛ばした。
「起きろ、糞が」
「がはっ……こ、ここは……?」
「魅惑は解けたようだな、マルクト」
全てを思い出したマルクトは、即座に地に伏した。
「申し訳ありません、ダーク様……!」
「本来なら殺すところだが……今日は疲れた」
ダークは冷たく言い放つ。
「次はないと思え。今すぐ消えろ」
「……はい」
マルクトが去った後、ダークは膝をついた。
「ノノ……侮っていた」
小さく呟き、魔法陣を展開すると、その場から姿を消した。
一方――。
ノノが転移させられた先は、浅瀬の川だった。
「がふっ……げふ……ここ……どこだし……」
血に染まった身体で、必死に呼吸をする。
「……嫌だ……死にたく……ない……カイマおじさん……」
その時。
「……これは……ナミ様の魔法反応じゃな」
白髪でヨボヨボの老人が、ノノを見下ろしていた。
「見覚えのある顔じゃ……このままでは死ぬのう」
老人はノノを背負い、近くの洞窟へ運ぶ。
葉を敷いた地面に寝かせ、服を裂き、傷を確認する。
「心臓まで、あと数センチ……危なかったのう」
老人は自らの指を切り、滴る血をノノの傷へ垂らす。
血は光を帯び、貫通していた傷口がゆっくりと塞がっていく。
「……これで命は助かった」
切り傷にも同じ事を施し、全ての外傷を治す。
「ただし……痛みまでは消せん」
老人は小さな袋を置き、立ち上がった。
「後は自分で生きるんじゃな」
そう言い残し、姿を消した。
しばらくして、ノノは目を覚ました。
「……生きてる……?」
起き上がろうとした瞬間、全身を激痛が貫く。
「いぎゃあああああ!!」
しばらくして痛みが引き、荒い息をつく。
「……傷……塞がってる……」
涙を滲ませながら呟く。
「カイマおじさん……ウチ……間違った事、したかも……」
ノノは目を閉じ、静かに眠りについた。
一方その頃。
ガイマたちは、次の目的地を決めようとしていた。
「……本気?」
ミナが呆れた声を出す。
「道端の木の棒で決めるって……冗談でしょ?」
「本気だが?」
「適当すぎるわよ!」
「じゃあ、ナミは決められるのか?」
「……それは……」
「だろ?」
ガイマは棒を地面に立て、手を離す。
棒は左へ倒れた。
「左……スズモが言ってた見せしめの街だな」
「そうね……」
こうして、彼らは新たな地へと歩き出すのであった




