27話
スズモに案内され、ガイマとナミが領主のいる場所へ到着すると、そこには年老いた一人の男性が待っていた。
その男は二人の姿を見るなり、深々と頭を下げる。
「この度は、元領主を懲らしめていただき、誠に感謝しております。私どもでは到底どうにも出来ぬ事でした。この街を代表して、まずは礼を述べさせて下さい」
ガイマは慌てた様子で手を振った。
「いえ、そんな……俺たちは当然の事をしただけです。それより、どうか頭を上げてください。これからの話をした方がいいと思います」
その言葉に、年老いた男性――前任領主はゆ
っくりと頭を上げ、穏やかな表情で頷いた。
「分かりました。では、どうぞお掛け下さい」
ガイマたちは腰を下ろし、静かな空気が流れる。
その中で、スズモが決意を帯びた声で口を開いた。
「ガイマ、私はこの街に残る事にしたわ。前任の領主様は、元領主に酷く痛めつけられていて、まだ万全な状態じゃない。だから私が補佐として街を支える事になったの」
一瞬の間を置き、スズモは続ける。
「それで……ガイマ、ナミ。二人も、ここに留まらない?この街には、あなた達の力が必要だと思う」
ガイマとナミは顔を見合わせ、ガイマが静かに口を開いた。
「……実は、もう決めている事があるんだ。暗黒神ダークがしている事は、どうしても許せない。この街のような場所は、きっと他にもある。俺は、そういう場所を一つずつ、あるべき姿に戻していきたい」
スズモの目を見る。
「だから、悪いけど……ここには留まれない」
ナミも小さく頷き、続けた。
「私も、ガイマと一緒に行くわ。放っておいたら、すぐ無茶をするんだもの。私がそばにいないと」
スズモは少し寂しそうに笑い、それでも力強く頷いた。
「……残念だけど、分かったわ」
その時、前任領主が口を開く。
「それでは、護衛として誰かお付けしましょうか。桃、ウォーレン、エルを」
ガイマは首を振った。
「いえ、必要ありません。その三人は、この街の為に力を使うべきです。ただ……もし暗黒神ダークが関わっていそうな場所が分かれば、教えていただけると助かります」
前任領主とスズモは顔を見合わせ、やがて前任領主が一枚の地図を取り出した。
「最近まで交流のあった街から、使者の連絡が途絶えた場所があります。前任者の資料に残っていたものです」
スズモも続ける。
「それとは別に、この街の東にある小さな街で、見せしめとして複数の人間が殺されているという噂を聞いた事があるわ。本当なら、私が向かう予定だった場所よ」
ガイマは地図を見つめる。
「……二つの場所は、真逆だな」
ナミが不安そうに言った。
「どちらも気になるけど、同時には行けないわね」
ガイマは少し考え、静かに答える。
「明日にはここを発ちたい。今夜、ナミと話し合って決めるよ」
そうして話は終わり、ガイマたちは元いた場所へと戻っていった。
一方――ガイマが四日間眠り続けていた頃。
とある城にて、マルクトは魅惑神ノノを呼び出していた。
「マルクト、話って何?くだらない用件だったら許さないし」
「……実は、ノノ様。世界神カイマ様が、生きている可能性があるのです」
その瞬間、空気が一変した。
「……どういう意味だし?」
「暗黒神ダーク様は、確実に始末したと……」
「ちょっと待つし。ダークがカイマを殺したって?」
マルクトは困惑した。
「え……ノノ様は、ご存じかと……」
「知ってる事だけ話すし!!カイマは、戦いに負けて死んだんじゃないの?」
ノノから放たれる殺気に、マルクトは本能的に距離を取る。
「お待ち下さい、ノノ様!」
「うるさいし。話さないなら、魅惑して吐かせるし」
追い詰められたマルクトは叫んだ。
「やれ!!ノノ様が謀反を起こした!!」
次の瞬間、翼を広げた配下たちが現れる。
「……そっか」
ノノが呟いた瞬間、その姿が消えた。
次の瞬間、配下数名の体が無惨に引き裂かれ、血飛沫が宙を舞う。
少し離れた場所に、ノノが立っていた。
「見えなかった……冗談だろ……助けて下さい、ノノ様……!」
ノノは赤く光る瞳で配下たちを睨みつける。
「消えろし」
配下たちは操られるように、その場から逃げ去った。
残されたマルクトは震えながら理解する。
(これが……神の名をつけられた人物の実力……)
「……話します。カイマ様は、暗黒神ダーク様と、他の神々が手を組み、多くの犠牲を出して始末したと……」
ノノの表情が歪む。
「ダーク……許さないし。マルクト、あんたは今からウチの言う事を聞きなさい」
魅惑がかけられ、二人の姿は消えた。
暗黒神ダークの城。
謁見の間にて、マルクトは膝をつく。
「マルクトよ、用件を述べよ」
「――死者の手」
次の瞬間、ダークの足元から無数の手が伸び、体を掴む。
「……なるほど、そこまで知ったか」
扉を破壊し、ダークは叫ぶ。
「魅惑神ノノ!!説明してもらおうか!」
「全部聞いたし。カイマを殺したのは、お前達だって」
ダークは鼻で笑った。
「確かに俺達が殺した」
「……何故?」
「価値のない者を救う神など、不要だからだ」
ノノの瞳が揺れる。
「……なら、報いを受けなさい」
「馬鹿が!!」
こうして――
世界を揺るがす戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。




