26話
凄まじいプレッシャーが地下の空間を支配した
瞬間、領主とスズモは同時に息を呑んだ。
空気が鉛のように重くなり、喉が締め付けられる。声を出そうとしても、身体が言うことを聞かない。
(……なに、これ……)
スズモは必死に呼吸を整えようとするが、指一本すら動かせない。
(圧倒的すぎる……威圧感だけで、思考すら押し潰されそう……ガイマ、あなたはいった
い……何者なの……?)
「ぐ……ぬぬぬ……あ、ありえぬ……!」
領主は歯を食いしばり、必死に前へ踏み出そうとするが、見えない何かに縫い止められたかのようにその場から動けずにいた。
「なんだ……お前は……!!」
その問いに、ガイマは一歩前へ出る。
鋭く、冷たい視線が領主を射抜いた。
「俺の質問に答えろ」
ただそれだけの言葉だったが、領主の全身が震え上がる。
「……ひ、ひぃ……!」
領主は耐えきれず、叫ぶように言葉を吐き出した。
「ワシは……ワシはやっておらん!! あんな酷いことはしていない!!」
必死に首を振り、言葉を重ねる。
「右腕の……リリクソンだ! あいつが勝手にやったんだ!! ワシは止めた! 本当だ!! ダーツの矢を放ったのも、あいつだ!! 嘘じゃない、信じてくれ!!」
その瞬間、ガイマの足元に黒い塊が現れ、鋭利な槍のように尖った。
次の刹那――
それは一直線に領主の足へと放たれた。
サクリ、という鈍い音が地下に響く。
「ひぎゃああああ!!?」
領主は悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちる。
「な、何故だ!! ワシは嘘など言っておらぬのに!!」
「嘘をつくな」
ガイマの声は低く、容赦がなかった。
「お前の右腕、リリクソンからすでに聞いている。女に手を出したのは――お前自身だ」
「……っ!!」
一瞬、領主の顔が引き攣り、そして――開き直ったように嗤った。
「あぁ、そうだ!! ワシがやった!!」
血走った目で叫ぶ。
「だがな!! 何をしようとワシはこの地の領主だ!! 許されて当然だろう!!」
さらに、勝ち誇ったように言い放つ。
「それに、お前こそ分かっているのか!? ワシを殺せばどうなる!!マルクト様が……暗黒神ダーク様の配下、マルクト様が必ず来る!! お前たちなど一瞬で――」
「マルクトなら」
ガイマは淡々と遮った。
「もう来ない」
「……なに?」
「理由を話すつもりはない」
ガイマは黒い球体を生み出し、掌に浮かべる。
「お前はやりすぎた。だから――ここで終わりだ」
黒い球体が放たれ、領主を包み込む。
叫ぶ暇もなく、領主はそのまま意識を失い、床に崩れ落ちた。
同時に、空間を支配していたプレッシャーが嘘のように消え去る。
「……ガイマ……」
スズモは力を取り戻し、息を整えながら問いかけた。
「領主を……殺したの? それに……あなたは何者なの?」
ガイマは振り返り、何かを言おうとした――その瞬間。
身体が揺れ、膝から崩れ落ちる。
「……っ」
「ガイマ!!」
スズモは慌てて駆け寄り、彼を支え、ゆっくりと地面に横たえた。
続いて領主の元へ行き、脈を確認する。
「……生きている。殺したわけじゃないのね」
小さく安堵の息を吐く。
「とりあえず……捕縛ね。後の対応を考えないと」
スズモは魔法を使い、意識を失った領主とガイマを浮かせ、その場を後にした。
一方その頃――
とある国では、激しい戦闘の痕跡が街全体を覆っていた。
瓦礫の山と化した街の中心で、幼い赤髪の女性が静かに座っている。
魅惑神ノノ。
その前で、一人の兵士が王の首を締め上げていた。
「逆らうから、こうなるのよ」
ノノは淡々と言う。
「お前たちがカイマを利用しようなどと画策しなければ、私が出向く必要もなかった」
「な……何を……我らは……!」
「嘘を言うな」
首を締める力が強まる。
「ぐ……ぅ……」
「安心しなさい。殺しはしない」
ノノの瞳が赤く輝く。
「魅惑の力で、この国を“生まれ変わらせる”だけ。暗黒神ダークの支配下としてね」
王は解放され、ノノの前に跪く。
「ノノ様……何なりと……お命じ下さい……」
その背後に、暗黒神ダークが姿を現す。
「よくやった、ノノ」
肩に手を置き、低く囁く。
「後は我がやる。また必要になれば呼ぶ」
ノノは無言で頷き、その場から姿を消した。
ダークは王に資料を渡す。
「この国を再建し、我らの補給拠点とせよ。猶予は三か月だ」
そう言い残し、闇へと消えた。
居城へ戻ったダークは、玉座に腰掛け、嗤う。
「これで最大の職人国家は我のもの……あれが完成すれば、この世界は完全に支配できる」
不気味な笑いが、広間に響き渡った。
そして――
場面は戻る。
ガイマが目を覚ますと、見知らぬ天井が視界に映った。
「……ここは……」
視線を動かすと、椅子で眠るミナ、エル、そしてナミと戦っていた桃の姿がある。
「……皆……無事、か……」
小さく呟いた、その時。
扉が開き、一人の女性――リリベットが入ってきた。
「起きられたのですね! すぐスズモ様をお呼びします!」
その声でナミが目を覚ます。
「ガイマ!! よかった……!」
「ナミ……心配かけたな。俺、どれくらい寝てた?」
「四日よ……本当に、心配したんだから」
「……そうか。それよりも、どうなった?」
そして扉の方からスズモが現れる。
「落ち着け、ガイマ。領主は厳重に地下牢へ封じた。街も、前任の領主が引き継ぐことになった」
「……それなら、よかった」
「それと……領主が礼を言いたいそうだ。行くぞ」
ガイマは苦笑し、立ち上がる。
「……やれやれだな」
そうして、彼らは歩き出すのであった。




