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記憶を無くした者  作者: ひろろ
1章
22/66

22話

 

 スズモは階段を駆け下りながら、領主のいる場所へと向かっていた。

 足音が石段に反響し、その度に胸の奥がざわつく。


(……領主。やはり、あの男は領主として相応しくない)


 話し合いで済ませられるなら、それが一番いい。

 だが――


「ナミ様……ガイマ様……私は、どうすれば……」


 答えのない問いを呟きながら、さらに下へと降りていく。

 やがて、鼻を突く耐え難い臭気が漂ってきた。


「……っ」

 腐敗した肉と薬品が混ざったような、吐き気を催す匂い。

 思わず鼻と口を押さえる。


「……ひどい……。本当に、こんな場所に……?」


 階段を下り切った先には、広大な地下空間が広がっていた。

 その光景を目にした瞬間、スズモの表情から迷いが消える。


 血に染まった簡易ベッド。

 巨大な試験管の中に沈められた、何人もの人間。

 小瓶には、臓器としか思えないものが無造作に詰め込まれている。


「……もう、だめ」


 低く、しかしはっきりとした声。


「話し合いなんて……出来る相手じゃない。

 こんな事をしている人間を……許してはおけない」


 スズモは地下空間へ完全に足を踏み入れ、辺りを見渡す。


 領主の姿はない。

 だが、奥に一つだけ、異様なほど重厚な扉があった。


「あの奥……ね」


 扉を開いた先。

 椅子に座り、まるで最初から待っていたかのように、領主がそこにいた。


「スズモか。ようこそ、私の実験場へ。どうだ? お気に召したかな?」


「……何人、殺した?」


 感情を抑えた声で、スズモは問いかける。


「話し合いで解決したかった。でも……無理ね。お前が生きている限り、この街に平和は来ない」


「ははは……殺した数など覚えているものか」


 領主は愉快そうに笑った。


「俺を殺すつもりか?なら、こうしよう。この街の全権をお前にくれてやる。代わりに……俺に実験素材を提供し続けろ。悪くない案だろう?」


「――バインドチェーン」


 返答は、それだけだった。


 魔力で編まれた鎖が出現し、領主へと襲いかかる。


「反転」


 領主が呟いた瞬間、鎖は空中で停止し、反転してスズモへ飛ぶ。


「解除」


 鎖は霧散した。


「……反転魔法」


 スズモは冷静に言った。


「簡単に使える魔法じゃない。どうやって覚えた?」


 領主は、にやりと歪んだ笑みを浮かべる。


「簡単なことだ。反転魔法を使える魔術師の脳を弄り、死ぬまで使わせて解析した。今の俺様は……お前より多くの魔法を使える」


 空気が張り詰める。

 戦いは、避けられない。



 時を少し遡る。

 ガイマとエルは二階へ到達していた。


「最上階へ行くには……この端の階段だけです。今いる階段を上がっても、倉庫にしか行けません」


「そうか。なら急ごう」


 端へ向かう途中、廊下に不気味な叫び声が響いた。


「うあぁぁぁあああ……」


「……何だ、この声は」


 ガイマがエルを見る。


「ひらき……」


「ひらき?」


「……ごめんなさい。ひらきは……死体の成功体です。多分……この先の階段を守っています」


 エルは小さく震えた。


「彼の声は……他の死体を操る力がある。仲間を呼んでいる……」


「……避けられないな」


 進んだ先には、予想通りの光景が待っていた。

 階段前の広間。

 ひらきと、その周囲に群がるゾンビたち。


「エル、下がれ。ここは俺がやる!」


「……いえ!」


 エルは前に出る。


「私が……私がやります!ガイマさんは先へ!」


「本当に大丈夫か?」


「……大丈夫です」


 だが、触手を伸ばした瞬間、それは片手で受け止められた。ひらきは無言で薙ぎ払い、進路を塞ぐ。


「……くそ」


 エルはもう一度、触手を絡め取る。


「今です!長くは持ちません、だから……!」


 ガイマは歯を食いしばり、階段を駆け上がった。

 エルは振り返り、ひらきを見据える。


「……ひらき。こんな形で戦うなんて……」


 震える声で、それでも言い切る。


「これ以上……あなたを利用させない。私が……私が、ここで成仏させる」


 呻き声が響き、戦いが始まる。



 一方、ガイマは最上階へ続く通路を走り、激しい戦闘音を聞きつけた。

「……戦っている?スズモか……!」


 急いで向かった先で目にしたのは、騎士姿の女性と、本を開く眼鏡の男。


「誰だ?」


 騎士が警戒し、男が叫ぶ。


「貴様は誰だ!成功体はどうした!ひらきと桃は!?」


 ガイマは即座に理解した。


「俺はスズモの仲間だ!スズモはどこだ!」


「……地下へ向かわれました。あの階段から」


 その言葉に、ガイマは視線を落とす。


 床に横たわる、酷い有様の女性。


「……誰が、こんな事をした」


 低く、怒りを孕んだ声。

 放たれる威圧感に、二人の体が震え上がったのであった。


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