19話
ガイマは、四方八方から連続して放たれる赤い斬撃を必死に避け続けていた。
斬撃は直線的に飛んでくるだけではなく、途中で形を変え、軌道を歪ませ、まるで意思を持つかのように追いすがってくる。
(……厄介だ。近づこうにも、近づけない)
「どうした?近づかなければ、お前に俺を倒すことは無理だ!!」
カイは嘲るように叫び、さらに剣を振るう。
赤い斬撃が空間を埋め尽くす。
(これだけ斬撃をばら撒かれ、しかも軌道が予測不能……魔法を使おうにも、あいつには魔法無効化がある‥‥俺の魔力量じゃ、カイを上回れない……つまり魔法は封じられている)
ガイマは歯を食いしばる。
(……どうする。考えろ)
「考えても無駄だ!!お前は俺に魔法を使えない。このまま逃げ続ければ、いずれ体力が尽きて死ぬだけだ!」
カイは斬撃を放ちながら言い放つ。
「だったら――いっそ負けを認めて、殺されろ。ガイマ!!」
しかし、ガイマはただ逃げているわけではなかった。
斬撃をかわしながら、視線だけは鋭く、赤い斬撃の動きを観察していた。
(……妙だ)
よく見ると、斬撃の“変化”が弱い場所がある。
すべての斬撃が、同じように変形しているわけではない。
(何が違う……?)
ガイマは意図的に、その場所へ斬撃を誘導する。
すると、やはり――そこでは斬撃の変化が鈍く、容易に回避できた。
(……やっぱりだ)
その瞬間、天井から落ちる水滴が、赤い斬撃に触れて弾けるのが目に入る。
(――血は、水に溶ける確証はない……だが、試す価値はある)
ガイマは覚悟を決め、その場で足を止め、静かに目を閉じた。
「立ち止まっただと?目も閉じて……諦めたか! なら斬撃の餌食だ!!」
カイは容赦なく、ガイマへ赤い斬撃を放つ。
――だが。
斬撃が目前に迫った瞬間、ガイマは目を開き、手を前に突き出した。
青い棒状の魔力が出現し、同時に――青色の斬撃が放たれる。
青と赤の斬撃が衝突した瞬間、
赤い斬撃は変化を失い、霧散するように消え去った。
「……やはりな。突破口が見えた」
「なっ……!?何故、斬撃が消えた!?その手に持っているものは何だ!? 今の斬撃は――!」
「教えるわけがない」
ガイマは一気に走り出す。
「だが、これで――お前に近づける」
カイは慌てて斬撃を放つが、次々と青い斬撃によって打ち消される。
ガイマは距離を詰め、青色の棒状の武器を振りかざす。
カイは咄嗟に、禍々しい剣で受け止めた。
その瞬間、顔に冷たいものがかかる。
「……水だと?まさか……水属性の斬撃で、消されたのか?」
「正解だ」
ガイマは息を整えながら答える。
「避けている最中、斬撃の変化が弱い場所があった。よく見れば、天井から水滴が落ちていた。血は水に溶ける。それを利用しただけだ」
そして、小さく呟く。
「……水属性の魔法、覚えててよかった」
「ちぃ……!」
カイは舌打ちし、剣を強く握る。
「なら、もっと血を寄越せばいい。そうすれば――この剣は、真の力を解放する!!」
カイはガイマを蹴り飛ばす。
同時に、禍々しい剣から管のようなものが伸び、カイの腕に絡みついた。
管は赤く脈打ち、剣はさらに赤々と輝き出す。
「カイ! やめろ!!その剣はおかしい! このままじゃ血を吸われ続けて死ぬぞ!!」
「馬鹿を言うな!!俺は制御している。全て吸われるようなヘマはしない!」
そう言うと、カイは一瞬で距離を詰め、剣を振り下ろす。
ガイマは青色の棒状の武器で受け止めるが――
バキンッ!
先ほどとは比べ物にならない力で、武器は砕け散った。
「ぐっ……!」
ガイマは咄嗟に後ろへ跳ぶが、
上半身を斜めに斬られ、鮮血が噴き出す。
「見ろ……この力を」
カイは荒い息で笑う。
「その傷、かなり深いぞ。もうこの剣は必要ないか……戻れ」
だが、剣は戻らない。
管はなおも腕に絡みつき、血を吸い続けている。
「……馬鹿な!?離れろ! 離れろ!!」
カイは無理やり管を引き剥がすが、
管は何度も再生し、再び腕に絡みつく。
「だから……言っただろ」
ガイマは苦しそうに言う。
「それは……危険だと」
「うるさ……い……黙れ!!」
カイはふらつきながらも剣を構える。
「カイ!一時休戦だ! 一緒に取り外す方法を考えよう!!」
「……断る」
「このままじゃ死ぬぞ!!」
「黙れ……!お前を殺してから……解除する方が……ましだ!!」
カイは今にも飛びかからんとする。
ガイマも黒い棒状の武器を出現させ、構え直す。
「……カイ。もう一度言う。休戦だ」
「クドい!!敵に情けをかけるな!!」
その瞬間――
眩い光が辺り一帯を包み込んだ。
「なっ……!」
「見えね……この魔法は――」
光が収まると、そこには――
黒い翼を広げた、一人の男が立っていた。
「カイよ。まだ始末できていないとは……お前も弱くなったものだ」
冷たい声が響く。
「それに、その“まがい物”を使っても倒せていないとは……実に情けない」
ガイマが口を開く前に、カイが叫ぶ。
「マルクト様!?なぜ、ここに……!?それに、まがい物とは――」
「そんなことも分からないのか」
次の瞬間、マルクトは一瞬でカイの目前に現れ、腹に拳を叩き込んだ。
「がっ――」
カイはそのまま意識を失い、崩れ落ちる。
マルクトは指を鳴らす。
すると、仮面をつけた人物が現れた。
「例の場所へ連れていけ。俺は――この男の相手をする」
仮面の人物はカイを抱え、その場から消える。
「待て!カイをどうするつもりだ!!」
マルクトはガイマを見下ろし、薄く笑う。
「お前が知る必要はないだが……あの“まがい物”を使わせたことだけは褒めてやる褒美だ。
一度だけ――お前の攻撃を、防がずに受けてやる。逃げるという選択肢もあるが……俺は、貴様を逃がすつもりはないがな」
ガイマは歯を食いしばり、残った力を振り絞って斬りかかる。
だが――
黒い棒状の武器は、容易く砕け散った。
次の瞬間、マルクトの拳がガイマを吹き飛ばす。
壁に叩きつけられ、血を吐き出すガイマ。
――圧倒的な力の差が、そこにはあった。




