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記憶を無くした者  作者: ひろろ
1章
19/66

19話

 

 ガイマは、四方八方から連続して放たれる赤い斬撃を必死に避け続けていた。

 斬撃は直線的に飛んでくるだけではなく、途中で形を変え、軌道を歪ませ、まるで意思を持つかのように追いすがってくる。


(……厄介だ。近づこうにも、近づけない)


「どうした?近づかなければ、お前に俺を倒すことは無理だ!!」


 カイは嘲るように叫び、さらに剣を振るう。

 赤い斬撃が空間を埋め尽くす。


(これだけ斬撃をばら撒かれ、しかも軌道が予測不能……魔法を使おうにも、あいつには魔法無効化がある‥‥俺の魔力量じゃ、カイを上回れない……つまり魔法は封じられている)


 ガイマは歯を食いしばる。


(……どうする。考えろ)


「考えても無駄だ!!お前は俺に魔法を使えない。このまま逃げ続ければ、いずれ体力が尽きて死ぬだけだ!」


 カイは斬撃を放ちながら言い放つ。


「だったら――いっそ負けを認めて、殺されろ。ガイマ!!」


 しかし、ガイマはただ逃げているわけではなかった。

 斬撃をかわしながら、視線だけは鋭く、赤い斬撃の動きを観察していた。


(……妙だ)


 よく見ると、斬撃の“変化”が弱い場所がある。

 すべての斬撃が、同じように変形しているわけではない。


(何が違う……?)


 ガイマは意図的に、その場所へ斬撃を誘導する。

 すると、やはり――そこでは斬撃の変化が鈍く、容易に回避できた。


(……やっぱりだ)


 その瞬間、天井から落ちる水滴が、赤い斬撃に触れて弾けるのが目に入る。


(――血は、水に溶ける確証はない……だが、試す価値はある)


 ガイマは覚悟を決め、その場で足を止め、静かに目を閉じた。


「立ち止まっただと?目も閉じて……諦めたか! なら斬撃の餌食だ!!」


 カイは容赦なく、ガイマへ赤い斬撃を放つ。


 ――だが。


 斬撃が目前に迫った瞬間、ガイマは目を開き、手を前に突き出した。


 青い棒状の魔力が出現し、同時に――青色の斬撃が放たれる。


 青と赤の斬撃が衝突した瞬間、

 赤い斬撃は変化を失い、霧散するように消え去った。


「……やはりな。突破口が見えた」


「なっ……!?何故、斬撃が消えた!?その手に持っているものは何だ!? 今の斬撃は――!」


「教えるわけがない」


 ガイマは一気に走り出す。


「だが、これで――お前に近づける」


 カイは慌てて斬撃を放つが、次々と青い斬撃によって打ち消される。

 ガイマは距離を詰め、青色の棒状の武器を振りかざす。


 カイは咄嗟に、禍々しい剣で受け止めた。


 その瞬間、顔に冷たいものがかかる。


「……水だと?まさか……水属性の斬撃で、消されたのか?」


「正解だ」


 ガイマは息を整えながら答える。


「避けている最中、斬撃の変化が弱い場所があった。よく見れば、天井から水滴が落ちていた。血は水に溶ける。それを利用しただけだ」


 そして、小さく呟く。


「……水属性の魔法、覚えててよかった」


「ちぃ……!」


 カイは舌打ちし、剣を強く握る。


「なら、もっと血を寄越せばいい。そうすれば――この剣は、真の力を解放する!!」


 カイはガイマを蹴り飛ばす。

 同時に、禍々しい剣から管のようなものが伸び、カイの腕に絡みついた。


 管は赤く脈打ち、剣はさらに赤々と輝き出す。


「カイ! やめろ!!その剣はおかしい! このままじゃ血を吸われ続けて死ぬぞ!!」


「馬鹿を言うな!!俺は制御している。全て吸われるようなヘマはしない!」


 そう言うと、カイは一瞬で距離を詰め、剣を振り下ろす。


 ガイマは青色の棒状の武器で受け止めるが――


 バキンッ!


 先ほどとは比べ物にならない力で、武器は砕け散った。


「ぐっ……!」


 ガイマは咄嗟に後ろへ跳ぶが、

 上半身を斜めに斬られ、鮮血が噴き出す。


「見ろ……この力を」


 カイは荒い息で笑う。


「その傷、かなり深いぞ。もうこの剣は必要ないか……戻れ」


 だが、剣は戻らない。

 管はなおも腕に絡みつき、血を吸い続けている。

「……馬鹿な!?離れろ! 離れろ!!」


 カイは無理やり管を引き剥がすが、

 管は何度も再生し、再び腕に絡みつく。


「だから……言っただろ」


 ガイマは苦しそうに言う。


「それは……危険だと」


「うるさ……い……黙れ!!」


 カイはふらつきながらも剣を構える。


「カイ!一時休戦だ! 一緒に取り外す方法を考えよう!!」


「……断る」


「このままじゃ死ぬぞ!!」


「黙れ……!お前を殺してから……解除する方が……ましだ!!」


 カイは今にも飛びかからんとする。

 ガイマも黒い棒状の武器を出現させ、構え直す。


「……カイ。もう一度言う。休戦だ」


「クドい!!敵に情けをかけるな!!」


 その瞬間――

 眩い光が辺り一帯を包み込んだ。


「なっ……!」


「見えね……この魔法は――」


 光が収まると、そこには――

 黒い翼を広げた、一人の男が立っていた。


「カイよ。まだ始末できていないとは……お前も弱くなったものだ」


 冷たい声が響く。


「それに、その“まがい物”を使っても倒せていないとは……実に情けない」


 ガイマが口を開く前に、カイが叫ぶ。


「マルクト様!?なぜ、ここに……!?それに、まがい物とは――」


「そんなことも分からないのか」


 次の瞬間、マルクトは一瞬でカイの目前に現れ、腹に拳を叩き込んだ。


「がっ――」


 カイはそのまま意識を失い、崩れ落ちる。


 マルクトは指を鳴らす。

 すると、仮面をつけた人物が現れた。


「例の場所へ連れていけ。俺は――この男の相手をする」


 仮面の人物はカイを抱え、その場から消える。


「待て!カイをどうするつもりだ!!」


 マルクトはガイマを見下ろし、薄く笑う。


「お前が知る必要はないだが……あの“まがい物”を使わせたことだけは褒めてやる褒美だ。

一度だけ――お前の攻撃を、防がずに受けてやる。逃げるという選択肢もあるが……俺は、貴様を逃がすつもりはないがな」


 ガイマは歯を食いしばり、残った力を振り絞って斬りかかる。


 だが――


 黒い棒状の武器は、容易く砕け散った。


 次の瞬間、マルクトの拳がガイマを吹き飛ばす。

 壁に叩きつけられ、血を吐き出すガイマ。

 ――圧倒的な力の差が、そこにはあった。

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