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記憶を無くした者  作者: ひろろ
1章
18/66

18話

 

 地面に倒れ込み、逃げ場を失ったエルフの男は、近づいてくるスズモを見て必死に叫んだ。


「待て……待ってくれ。取り引きをしよう。

 俺はもう、あんたを狙わないし関わらない。だから、お前は俺を見逃す。それでいいだろう?」


 その言葉に、スズモは歩みを止めることなく、冷たい視線を向ける。


「……見逃す? 見逃すわけないでしょう。

 貴方はナミ様を侮辱した。それだけでも許されない。それに――死霊魔法と隷属魔法を、どこで誰から教えられたのか。吐いてもらわなければならない」


「ふざけるな!!俺様が、悪魔の子であるお前に“頼んで”いるんだぞ! 聞き入れろ!!」


「……まだそんな口が叩けるのね。自分の状況、本当に分かってる?」


 スズモは指先を軽く振る。


 次の瞬間、光の矢が放たれ、男の顔のすぐ横をかすめて地面に突き刺さった。


「ひぃっ!! ま、待て、待ってくれ!!話す! 全部話すから! だから殺さないでくれ!!」


「嘘をつけば、次は手を撃ち抜く。脅しじゃないわ」


 男は震えながら口を開いた。


「……し、死霊魔法も、隷属魔法も……あの――」


 次の瞬間。


「――うぐぁっ……!!う、うわぁぁ……!!」


 男は突然、喉を押さえ、地面をのたうち回り始めた。

 体の内側から何かに締め付けられるように、激しく苦しみ始める。


「……まさか。喋れば発動する“呪い”を仕込まれていた……!」


 スズモは歯を食いしばり、男に詰め寄る。


「ルンバ! 死ぬ前に答えなさい!誰があんたに、その魔法を教えたの!?」


「い、いぐぁぁ……じにたぐ……ひぎゃぁ……

 ……か、神……」


 それを最後に、エルフの男は力尽き、動かなくなった。


「……“神”。最後まで言い切れなかった……」


 スズモは小さく息を吐き、その場に膝をつく。


「今は……考えるのは後ね。ガイマたちを、助けなければ……」


 だが、張り詰めていた緊張が一気に切れたのか、視界が揺れる。


「……少し、本気を出しすぎたかしら。エルダロッドまで使って……本当に、馬鹿ね私。ナミ様のことになると……理性が利かなくなるなんて……未熟だわ……」


 そう呟いた瞬間、スズモはその場に倒れ込み、意識を失った。


 ――その時。


 突如として、フードを深く被った人物が現れ、倒れたスズモを見下ろした。


「……ナミの魔法反応を辿って来てみれば。あの時の、ナミの教え子か……」


 男は静かにスズモの頭に手を置く。


「少し、記憶を覗かせてもらう」


 しばらくして、男は小さく息を吐いた。


「……なるほど。領主が、ここまで腐っていたとはな。本来なら俺が手を出すべきではないが……」


 そう言って、スズモを抱え上げる。


「せめて、リリベットという娘の解放だけは手伝ってやるか」


 次の瞬間、景色が歪み――


 男は一瞬で、リリベットが囚われている場所へと到着した。


 そこでは今まさに、壁に磔にされたリリベットが、鞭を振り上げられようとしていた。


「誰だ!!」


「どこから入りやがった!?」


 見張りたちの叫びが響く。


「……黙れ」


男がそう呟いた瞬間、剣はすでに鞘に戻っていた。


 次の瞬間、


 磔にされていたリリベットの拘束は解かれ、

 鞭を持っていた者たちと見張りは、無言のまま真っ二つに斬り伏せられていた。


「……あなたは?」


「名乗るほどの者ではない。この女が目を覚ましたら、話を聞くといい」


 男はスズモをリリベットの腕に預ける。


「この場所の見張りは、すべて排除しておいてやる。ではな」


 そう言い残し、男は姿を消す。


 直後、城の至る所から悲鳴と叫び声が響き渡ったのであった。



【ガイマの戦い】


 ガイマとカイの戦いは、剣と剣がぶつかり合う、激しい近接戦だった。

 何度も何度も刃が噛み合い、火花が散る。


「カイ!!なぜ、お前ほどの実力がありながら、領主たちの悪事に加担する!!」


「……ふん。戦いの最中に、そんなことを聞くとは……甘すぎるな」


「確かに甘いのかもしれない……。だが、理由があるなら、それを知りたいんだ!」


 カイは舌打ちし、ガイマを蹴り飛ばす。


 宙に浮いたガイマへ向け、炎の球体を作り出し、次々と蹴り飛ばした。


「――っ!」


 ガイマは黒い尖った棒状の武器で、炎をいなしながら言葉を続ける。


「俺は、神と名乗る存在や、その名を名乗れるほどの力を持つ者を知らない。だが……カイ、お前からは“悪意”を感じない」


「何……?」


「怒りは感じる。だがそれは、俺たちが以前の戦いでお前を退けたことへの怒りだ。流されて……仕方なく、悪事に加担してるんじゃないのか?」


「憶測で語るな!!」


 カイは一気に距離を詰め、剣を振り下ろす。

 ガイマはそれを受け止めるが、カイは執拗に、あらゆる角度から斬りかかってくる。


 ――だが、ガイマはいなす。


「……本当に驚きだ。こんな短期間で、ここまでやれるようになるとはな」


 カイは距離を取り、笑みを浮かべる。


「なら、あの時には見せなかった“奥の手”を使ってやる。マルクト様から授かった――この剣の力をな」


 そう言って、別の剣を鞘から抜いた。


 赤く、禍々しい光を放つ剣。

 それを見た瞬間、ガイマの背筋に嫌な感覚が走る。


(……危険だ。この剣……)


「カイ! その剣は危険だ! 使うのはやめろ!!」


「馬鹿か?敵に向かって“使うな”と言って、聞く奴がいるかよ!」


 カイは自分の指を剣で切り、血を刃に垂らす。


 瞬間、剣は赤く輝き、禍々しい気配を増した。


「目覚めろ……!」


 剣を振るうと、赤い斬撃が放たれる。


(……受け止めるか? いや、避けるべだ!)


 ガイマは横へ跳ぶ。

 すると斬撃は変化し、棘となって、先ほどまで立っていた地面に突き刺さった。


「はは……すげぇ力だ。俺の意思で、斬撃を変化させられる……」


 カイは恍惚とした表情で剣を構える。


「さすがはマルクト様から授かった剣だ。ほら……どんどん行くぞ」


 赤い斬撃が、再びガイマへと降り注いだのであった。

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