18話
地面に倒れ込み、逃げ場を失ったエルフの男は、近づいてくるスズモを見て必死に叫んだ。
「待て……待ってくれ。取り引きをしよう。
俺はもう、あんたを狙わないし関わらない。だから、お前は俺を見逃す。それでいいだろう?」
その言葉に、スズモは歩みを止めることなく、冷たい視線を向ける。
「……見逃す? 見逃すわけないでしょう。
貴方はナミ様を侮辱した。それだけでも許されない。それに――死霊魔法と隷属魔法を、どこで誰から教えられたのか。吐いてもらわなければならない」
「ふざけるな!!俺様が、悪魔の子であるお前に“頼んで”いるんだぞ! 聞き入れろ!!」
「……まだそんな口が叩けるのね。自分の状況、本当に分かってる?」
スズモは指先を軽く振る。
次の瞬間、光の矢が放たれ、男の顔のすぐ横をかすめて地面に突き刺さった。
「ひぃっ!! ま、待て、待ってくれ!!話す! 全部話すから! だから殺さないでくれ!!」
「嘘をつけば、次は手を撃ち抜く。脅しじゃないわ」
男は震えながら口を開いた。
「……し、死霊魔法も、隷属魔法も……あの――」
次の瞬間。
「――うぐぁっ……!!う、うわぁぁ……!!」
男は突然、喉を押さえ、地面をのたうち回り始めた。
体の内側から何かに締め付けられるように、激しく苦しみ始める。
「……まさか。喋れば発動する“呪い”を仕込まれていた……!」
スズモは歯を食いしばり、男に詰め寄る。
「ルンバ! 死ぬ前に答えなさい!誰があんたに、その魔法を教えたの!?」
「い、いぐぁぁ……じにたぐ……ひぎゃぁ……
……か、神……」
それを最後に、エルフの男は力尽き、動かなくなった。
「……“神”。最後まで言い切れなかった……」
スズモは小さく息を吐き、その場に膝をつく。
「今は……考えるのは後ね。ガイマたちを、助けなければ……」
だが、張り詰めていた緊張が一気に切れたのか、視界が揺れる。
「……少し、本気を出しすぎたかしら。エルダロッドまで使って……本当に、馬鹿ね私。ナミ様のことになると……理性が利かなくなるなんて……未熟だわ……」
そう呟いた瞬間、スズモはその場に倒れ込み、意識を失った。
――その時。
突如として、フードを深く被った人物が現れ、倒れたスズモを見下ろした。
「……ナミの魔法反応を辿って来てみれば。あの時の、ナミの教え子か……」
男は静かにスズモの頭に手を置く。
「少し、記憶を覗かせてもらう」
しばらくして、男は小さく息を吐いた。
「……なるほど。領主が、ここまで腐っていたとはな。本来なら俺が手を出すべきではないが……」
そう言って、スズモを抱え上げる。
「せめて、リリベットという娘の解放だけは手伝ってやるか」
次の瞬間、景色が歪み――
男は一瞬で、リリベットが囚われている場所へと到着した。
そこでは今まさに、壁に磔にされたリリベットが、鞭を振り上げられようとしていた。
「誰だ!!」
「どこから入りやがった!?」
見張りたちの叫びが響く。
「……黙れ」
男がそう呟いた瞬間、剣はすでに鞘に戻っていた。
次の瞬間、
磔にされていたリリベットの拘束は解かれ、
鞭を持っていた者たちと見張りは、無言のまま真っ二つに斬り伏せられていた。
「……あなたは?」
「名乗るほどの者ではない。この女が目を覚ましたら、話を聞くといい」
男はスズモをリリベットの腕に預ける。
「この場所の見張りは、すべて排除しておいてやる。ではな」
そう言い残し、男は姿を消す。
直後、城の至る所から悲鳴と叫び声が響き渡ったのであった。
【ガイマの戦い】
ガイマとカイの戦いは、剣と剣がぶつかり合う、激しい近接戦だった。
何度も何度も刃が噛み合い、火花が散る。
「カイ!!なぜ、お前ほどの実力がありながら、領主たちの悪事に加担する!!」
「……ふん。戦いの最中に、そんなことを聞くとは……甘すぎるな」
「確かに甘いのかもしれない……。だが、理由があるなら、それを知りたいんだ!」
カイは舌打ちし、ガイマを蹴り飛ばす。
宙に浮いたガイマへ向け、炎の球体を作り出し、次々と蹴り飛ばした。
「――っ!」
ガイマは黒い尖った棒状の武器で、炎をいなしながら言葉を続ける。
「俺は、神と名乗る存在や、その名を名乗れるほどの力を持つ者を知らない。だが……カイ、お前からは“悪意”を感じない」
「何……?」
「怒りは感じる。だがそれは、俺たちが以前の戦いでお前を退けたことへの怒りだ。流されて……仕方なく、悪事に加担してるんじゃないのか?」
「憶測で語るな!!」
カイは一気に距離を詰め、剣を振り下ろす。
ガイマはそれを受け止めるが、カイは執拗に、あらゆる角度から斬りかかってくる。
――だが、ガイマはいなす。
「……本当に驚きだ。こんな短期間で、ここまでやれるようになるとはな」
カイは距離を取り、笑みを浮かべる。
「なら、あの時には見せなかった“奥の手”を使ってやる。マルクト様から授かった――この剣の力をな」
そう言って、別の剣を鞘から抜いた。
赤く、禍々しい光を放つ剣。
それを見た瞬間、ガイマの背筋に嫌な感覚が走る。
(……危険だ。この剣……)
「カイ! その剣は危険だ! 使うのはやめろ!!」
「馬鹿か?敵に向かって“使うな”と言って、聞く奴がいるかよ!」
カイは自分の指を剣で切り、血を刃に垂らす。
瞬間、剣は赤く輝き、禍々しい気配を増した。
「目覚めろ……!」
剣を振るうと、赤い斬撃が放たれる。
(……受け止めるか? いや、避けるべだ!)
ガイマは横へ跳ぶ。
すると斬撃は変化し、棘となって、先ほどまで立っていた地面に突き刺さった。
「はは……すげぇ力だ。俺の意思で、斬撃を変化させられる……」
カイは恍惚とした表情で剣を構える。
「さすがはマルクト様から授かった剣だ。ほら……どんどん行くぞ」
赤い斬撃が、再びガイマへと降り注いだのであった。




