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記憶を無くした者  作者: ひろろ
1章
15/66

15話

 

 場面は戻り


 ウォーレンは剣を構えたまま、一歩も踏み込まず距離を保っていた。

 相手――リリベットに電流を流した男は、余裕の笑みを浮かべている。


 速い。だが、焦るな。


 不用意に近づけば、あの電撃が来る。


「どうした? 来ないのか?」


 男は肩をすくめる。


「なら、俺から行ってやるよ」


 レイピアが抜き放たれた瞬間、男の姿が掻き消える。


 ――速い。


 突き。突き。突き。

 目にも止まらぬ連続攻撃。


「くっ……!」


 ウォーレンは紙一重で躱し続ける。


「……だが!」


 歯を食いしばる。


「この程度、リリベット隊長の剣より遅い!!」


 タイミングを見極め、剣を振る。


「ここだ!!」


 剣がレイピアを弾いた――その瞬間。


 パチッ

 乾いた音と同時に、全身を貫く激痛。


「――がぁあっ!!」


 剣が手から零れ落ち、膝をつく。


「ははっ、驚いたか?」


 男は笑いながら言い放つ。


「レイピアに電気を流してたんだよ。金属同士で触れりゃ、そりゃ流れるだろ?」


 動けないウォーレンに、ゆっくりと近づく。


「お前たちはさ……領主様の言うことを聞いてりゃいいんだよ」


 吐き捨てるように。


「逆らうから、こんな目に遭う。あのリリベットって女もそうだ」……何故逆らう?」


 ウォーレンは、苦しげに顔を上げた。


「……そんなことも、分からないのか」


「ああ、分からねぇな」


 男の声が荒れる。


「俺たちはな、人体実験を受けてきた。毎日、毎日、人が壊れて死んでいくのを見せられた」


 叫ぶように続ける。


「その中で教えられたんだ。“逆らわなければ大丈夫”、“従うことが正しい”ってな!」


 歯を噛みしめる。


「だから分かるわけねぇんだよ!!」


 電気が、男の体を走る。


「終わりだ。お前もリリベットと同じ場所に送ってやる。拷問部屋にな」


 その瞬間――


 ウォーレンを包むように、地面から岩がせり上がった。


「……?」


 男は咄嗟に後退る。


 ウォーレンの声が、低く響く。


「……それが間違いだと言ってる」


 岩の内側から、確かな声。


「恐怖で支配し、考えることを奪う。それが領主のやり方だ」


「黙れ!!」


 男が叫ぶ。


「じゃあ何でだ!?何でお前たちは俺たちを助けに来なかった!!」


 怒りが爆発する。


「皆、最初は信じてた!助けが来るって!!でも来なかった!!」


 震える声。


「だから俺たちは、領主様に従う道を選んだんだ!!それを否定する権利が、お前たちにあるか!?」


 沈黙。


 ウォーレンは言葉を失う。


「……ほらな」


 男は嗤う。


「答えられねぇだろ。 俺たちは間違ってねぇ」


 電気が激しく弾ける。


「これ以上話す意味はない。本気で殺す」


 岩が消える。


「……厄介だな」


 ウォーレンは静かに構えた。


「正直、ここまで出すつもりはなかったが……」


 男が一瞬で距離を詰める。


 雷を纏った拳が腹部へ――


 ドンッ


 ウォーレンは、片腕で受け止めた。


「――なっ!?」


 男の目が見開かれる。


「電気を……受け止めた……?」


「副隊長を舐めるな」


 ウォーレンは歯を食いしばる。


「同じ雷を纏えば、防げる」


 ――嘘だった。


 全身が悲鳴を上げている。


「リリベット隊長も、不意を突かれただけだ」


 一歩踏み込む。


「……終わりだ」


 首元へ、一撃。

 男は崩れ落ちる。


「……はは」


 ウォーレンは力なく笑った。


「……強がったが……無理しただけだ……」

 そのまま、倒れ伏す。

 ――相討ち。



【ミナの戦い】


 地面には、焼け焦げた触手が無数に転がっていた。


 ミナは息を整え、正面の女を睨む。


 女の背中からは、まだ新たな触手が蠢いている。


「……よくも……」


 女の声が震える。


「私の……大事な触手を……!」


「大事なら」


 ミナは淡々と言う。


「使わなければいいでしょう」


「うるさい!!」


 女は叫ぶ。


「これも作戦のうちよ!!」


「作戦?」


 ミナは首を傾げる。


「ずいぶん乱暴な作戦ね」


 女は不気味に笑った。


「順調よ。ほら――」


 次の瞬間。


 ズルリ


 ミナの足元から、触手が伸びる。


「――っ!?」


 飛び退くが、着地点にも触手。


 四肢が絡め取られ、完全に拘束される。


「くひひ……」


 女は恍惚とした表情を浮かべる。


「散らばった触手はね、本体から離れても動くの。成長も、ね」


「……燃やせば……」


 ミナが魔力を込める。


 ――発動しない。


「……?」


「無理よ」


 女が囁く。


「これは特別な触手。マジッククラーケンの“心臓”を移植して作ったの」


 ぞっとする言葉。


「捕まった相手の魔力を遮断する」


 ミナの目が揺れる。


「……移植……?」


「そう」


 女は自嘲するように笑う。


「領主様がね」


 触手が何か言おうとしたミナの口を塞ぐ。


「――っ!」


「静かに。玩具は喋らなくていい」


 女は、悲しそうに語り始める。


「腕を切られ、足を潰され、目を潰される。それを“治療”と言って実験した」


 声が低くなる。


「死なせない程度に電流を流し続ける人もいた」


 一拍。


「……一番酷かったのは、私」


 触手の腕を掲げる。


「四肢を固定され、風魔法で腕を切られ、そこに触手を埋め込まれた」


 淡々と。


「拒否反応で吐血しても、回復魔法をかけられる。一週間以上、逃げ場はなかった」


 女は微笑む。


「領主様は……笑ってたわ」


 ミナの目に、涙が滲む。


「同情?」


 女は首を振る。


「いらない。私はもう長くない」


 静かな声。


「心臓が……動いてる。私の体の中で」


 狂気と絶望が入り混じった瞳。


 ――場面は、再び動き出す。

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