表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶を無くした者  作者: ひろろ
1章
14/66

14話


スズモはその場に蹲り、声を殺して泣き続けていた。

 サイレン――母が残した魔法は、まだかろうじて効果を保っている。

 声も、気配も、周囲には届かない。


 だが、それは永遠ではなかった。


 すぐ近くを、複数のエルフが足音も荒く通り過ぎる。


「クソ……悪魔の子はどこだ!!」


「見つからん……! まだ近くにいるはずだぞ!!」


 怒号が森に響く。

 スズモは歯を食いしばり、膝を抱きしめた。


 やがて、母の倒れている場所へ、長が姿を現す。


 血に染まった地面を一瞥し、冷たく言い放った。


「……致し方あるまい」


 長は杖を掲げる。


「森に火を放て。炙り出せ。悪魔の子を生かすな」


 その命令と同時に、炎の魔法が放たれた。


 乾いた音を立て、森が燃え広がる。


 草木が悲鳴を上げるように爆ぜ、黒煙が立ち込める。


 熱と煙が、じわじわとスズモに迫る。


「……ごほっ、ごほっ……」


 思わず咳き込んだ、その瞬間。


 サイレンの魔法が、途切れた。


「……?」


 一人のエルフが、茂みの向こうで立ち止まる。


「……今の音……?」


 視線が、こちらを向いた。


「――いたぞ!!悪魔の子だ!!」


 叫び声が、森を切り裂く。


 次の瞬間、四方から足音が殺到した。


「――っ!」


 スズモは立ち上がり、必死に走った。

 茂みを掻き分け、枝に引っかかれ、転びながらも逃げる。


 背後から、容赦なく魔法が飛んでくる。


 炎がかすめ、皮膚が焼ける。

 風の刃が、腕を裂く。


「いだい……いだい……」


 涙と鼻水で、視界が滲む。


「……もう……や……」


 それでも、足は止まらない。


 だが――


 不意に、地面が消えた。


「――っ!!」


 小さな身体は、窪地へと転げ落ちる。

石にぶつかり、何度も身体を打ち、ようやく止まった時には、もう起き上がれなかった。


「……いだいよ……」


 震える声。


「だれが……だれか……たすけて……たすけて……」


 顔を伏せ、泣き叫ぶ。


「おがあざん……おどうざん……もういや……いやだよぉ……」


 足音が、囲む。


 顔を上げると、エルフたちが輪を作っていた。

 その後方から、長がゆっくりと現れる。


「……手間をかけさせてくれたな、この悪魔が」


 冷たい声。


「だが、これでもう終いじゃ。――やれ」


 一斉に魔法が放たれる。


 ――その瞬間。


 全ての魔法が、見えない壁に弾かれた。


「……?」


 光の中に、誰かが立っていた。


 スズモのすぐ側。

 その人物を見た瞬間、長は顔色を変え、後退る。


「な、なぜ……!?なぜこのような場所に、貴方様が……!!」


 周囲のエルフたちも、ざわめき、膝をつき始める。

 その人物は、静かに言った。


「……森が燃えていたから来てみれば……これは、何ですか?」


 視線が、エルフたちをなぞる。


「大の大人が、こんな幼い子を追い回し、魔法で殺そうとしている……」


 哀しげな声。


「私は……魔法を、そのように使うことが、とても悲しい」


 スズモは、必死に顔を上げた。


「だずげで……ぐだざい……」


 声が震える。


「おどうざんと……おがあざんが……ごろざれたの……」


 涙が止まらない。


「おねがい……だずげで……」


 その言葉を聞いた瞬間、空気が変わった。


「……エルフの長は、どなたですか」


 凄まじい魔力が、周囲に解き放たれる。

 エルフたちは立っていられず、次々と膝をつく。

 長だけが、歯を食いしばり、辛うじて耐えていた。


「説明しなさい。なぜ、この子の父と母を殺したのですか」


「……っ!そ、それは……貴方様には関係のないこと!!我々エルフの問題です!!」


 その人物は、静かに微笑んだ。


「……そう。なら、こうしましょう」


 スズモを抱き上げる。


「この子を、私の“一番の愛弟子”にします」


 魔力が、さらに増す。


「それなら関係ありますわよね?――私の愛弟子が、なぜ泣いているのか。答えなさい!!」


 圧に耐えきれず、エルフたちは次々と気絶した。

 長も、ついに膝をつき、額から汗を流す。


「……話します……話しますから……どうか……」


 魔力が収まる。


 長は、震える声で全てを語った。


 話を聞き終え、その人物――ナミは言った。


「……くだらない」


 冷たい断罪。


「そんな理由で命を奪うなど、許されません。

 この子は、私が預かります」


 スズモを抱きかかえ、背を向ける。


「文句はありませんわね」


 その瞬間。

 長が、最後の悪あがきをする。

 巨大な魔力の塊を放とうと――


「――っ!!」


 一瞬で、地面に叩き潰された。


「な……なにが……重力魔法……だと……?」


 上空から声が響く。


「ナミ」


「……カイマ様」


 ナミは空を仰いだ。


「一瞬で来ていただき、ありがとうございます。障壁まで……」


「気にするな。俺は火を消す。お前は転移しろ」


「承知しました」


 ナミは、スズモを抱いたまま姿を消す。

 残されたカイマは、長を見下ろす。


「……お前たちは、あの子に一生消えない傷を残した」


 淡々とした声。


「二度と、あの子の前に現れるな。もし再び害そうとするなら……村ごと消す」


 手を掲げる。


 大雨が降り注ぎ、森の火は完全に消えた。


 魔法陣が展開され、エルフたちは転移させられる。


「……さて」


 カイマは呟いた。


「あの子の両親は、ちゃんと弔おう」



――現実

 回想が終わり、エルフの男は嘲笑した。


「知ったことか。あそこで死んでいれば、苦しまなかっただろ?」


 光の剣が現れる。


「死ぬ前に、死霊魔法を教えろ。ナミに習ったんだろ?」


 ――金属音。


 スズモの光の剣が、受け止めた。


「……どこで知った」


 怒りを押し殺した声。


「教えるわけないでしょう」


 ガイマを見る。


「ガイマ、先に行って」


 次の瞬間、エルフが魔法陣を展開する。


「させるか。“待っている奴”のところへ送ってやる」


 光が弾け、ガイマの姿が消えた。


「……さて」


 エルフの魔力が膨れ上がる。


「続きだ、悪魔の子」


 スズモもまた、魔力を解放する。


「……本気を出してないのは、お互い様よ」


 一方、ガイマ。


 明るい洞窟に転移させられ、警戒する。


「……誰だ」


 前方から、男が歩いてくる。


「今度こそ、確実に殺す」


 冷たい声。


「お前も、スズモもな」


「……魔法殺しのカイ」


「覚えていてくれて光栄だ」


 黒い魔力が、ガイマの手に集まる。

 ――戦闘が、始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ