13話
ガイマとスズモは、門の開閉装置の死角を利用し、正面の門を開くことなくイースタンの街へと侵入していた。
背後で門が閉じる音が、やけに重く響いた。
「スズモ……これからどうする?」
ガイマは周囲を警戒しながら問いかける。
「このまま、領主の館に突入するのか?」
スズモはすぐには答えず、後ろに控えていた兵士たちへと振り返った。
「リリベットは、どこに連れて行かれたか分かる?」
兵士の一人が、苦い顔で答える。
「……教会です。正確には、教会の地下牢」
「地下牢……?」
「領主が改築させた場所です。立ち入りは禁止されていて……逆らった者、疑いを持った者が連れて行かれます。拷問を受けて、戻ってきた兵も……いました」
スズモは一瞬、目を伏せた。
「……そこまでしていたのね」
静かだが、怒りを押し殺した声だった。
「暗黒神ダークの言いなりに……本当に、どこまでも堕ちたものね。分かったわ。まずは教会へ向かう。リリベットを、必ず助ける」
目的は決まった。
教会近くの開けた広場に差しかかった、その時だった。
「――止まれ」
スズモの低い声に、全員が足を止める。
次の瞬間、空気が歪むようにして、目の前に一人の男が現れた。
耳の長い、エルフ。
緑色の髪を後ろで束ね、薄い笑みを浮かべている。
「おやおや……これはこれは」
男は愉快そうに言った。
「どこへ行くつもりだい?ここから先は“進入禁止”なんだけどね」
男が指を鳴らす。
その瞬間、兵士たちの足元から無数の茨が噴き出し、絡みついた。
「――っ!」
動けなくなる兵士たち。
即座にガイマが前に出る。
黒い魔力が形を成し、尖った棒状の魔法がいくつも生成される。
「――下がれ!」
一閃。
茨はまとめて薙ぎ払われ、地面に散った。
「このエルフ……強い。お前たちは邪魔になる、下がれ!」
兵士たちは一瞬迷ったが、頷いた。
「了解しました。兵舎に戻り、仲間を説得して準備を整えます」
そう言い残し、彼らは去っていった。
残ったのは、ガイマとスズモ、そしてエルフの男。
男は拍手をした。
「素晴らしい。君が、マルクトの言っていた“男”か」
そして、スズモへと視線を向ける。
「……それに、久しぶりだね。エルフの面汚し。――いや、“悪魔の子”」
その言葉に、ガイマが反応する。
「……スズモ、知り合いなのか?面汚しって……悪魔の子って、どういう意味だ」
エルフは笑った。
「話していないのか?なら、私が教えてあげようか――」
言い終わる前に、スズモが手を振り上げた。
エルフの頭上に、巨大な岩塊が出現する。
「――黙りなさい!!」
轟音と共に岩が落下する。
「面汚し?ふざけないで!」
怒りが、言葉となって噴き出す。
「お前たち村の連中が……母を殺し、父を殺した!」
エルフは跳躍し、辛うじて岩を回避する。
「私が……人間とエルフの子で、魔法が使えなかったから?“悪魔の子を産んだ”という理由だけで!!」
声が震える。
「それだけで、幼い私まで……村総出で殺そうとした!!」
拳を握り締める。
「ナミ様が拾ってくださらなければ、私は……死んでいた!」
エルフは吐き捨てるように言った。
「それの何が悪い。我々エルフは、気高き種族だ。魔法も使えぬエルフなど不要」
「……っ!」
「そのような子を産む可能性のある者も、排除して当然だ」
「ふざけないで!!」
スズモは叫んだ。
「私は今、魔法を使っている!!それでも悪魔だと言うの!?」
視界が、暗転する。
――回想
エルフの子どもたちは、五歳前後で魔法を使い始める。
才能があれば、もっと早い。
だが、スズモは違った。
五歳の終わりが近づいても、何の兆しもなかった。
「……お母さん。どうして、私は魔法が使えないの?」
不安そうな声。
「みんな、使えてるのに……」
母は微笑み、スズモの頭を撫でた。
「きっとね、あなたは特別なの。体が、まだ追いついていないだけ」
「そうだ」
父も頷いた。
「いつか必ず、使えるようになる。それまで、父さんと母さんが守る」
「……うん」
その夜、スズモは告げられる。
「長が、明日“魔法の試験”を行うって……必ず参加しろって言われた」
両親は顔を見合わせた。
「……聞いていないわ」
「俺が、確認してくる」
それが、最後だった。
夜。
目を覚ますと、母がそこにいた。
血だらけで、片腕を失って。
「……スズモ。今すぐ、逃げるわ」
「……え?」
混乱するスズモ。
外に出ると、家を囲むエルフたち。
父は、傷だらけで武器を構えていた。
長が告げる。
「人間よ。貴様が嫁いだせいで、悪魔の子が生まれた」
父が叫ぶ。
「――スズモは悪魔なんかじゃない!!」
光が走る。
母は、スズモの手を引いた。
「スズモ、走りなさい!」
背後で、父が――殺される。
「いやぁぁぁ!!」
母は泣きながら詠唱する。
「……サイレント。気配遮断。ワープ」
世界が歪み、スズモは遠くへ飛ばされた。
遠くで、母が戦う姿が見えた。
そして――倒れる。
「……おがあざん……」
魔法の効果にて声は、届かなかったのでった




