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記憶を無くした者  作者: ひろろ
1章
10/66

10話

 

 スズモは家の裏手にある、少し開けた空き地へと歩みを進めた。

 ガイマも無言でその後に続く。


 互いに距離を取って立ち止まり、自然と構えに入る二人を見て、ミナは胸の前で手を握りしめた。


「ガイマ……無茶だけはしないで。無理だと思ったら、すぐにやめてよ……?」


 不安を隠しきれない声だった。


「ああ。大丈夫だ」


 ガイマは一度だけミナを振り返り、軽く頷く。


「無理だと感じたら、すぐに降参する」


 その視線が、再びスズモへ向けられる。


(……見た目は変わらない。でも……何かが違う)


 スズモは、わずかな違和感を感じ取っていた。

 構え、呼吸、視線――どれも以前と同じはずなのに、どこか“噛み合わない”。


(この短時間で、何があったの……?)


 だが、警戒はするものの、結論は変わらない。


(私に傷をつけるなんて、無謀よ)


「行くわよ、ガイマ」


 スズモは左手を前に突き出し、魔力を解放する。


「安心して。殺したりはしないから。でも……できるなら、早めに降参しなさい」


 その言葉と同時に、彼女の周囲に火の球と水の球が次々と出現し、弾丸のように放たれた。


 ――その瞬間。


(……遅い)


 ガイマの中で、はっきりとそう感じられた。


(これなら……避けながら、距離を詰められる)


 彼は地面を蹴り、走り出す。

 飛来する魔法を、紙一重でかわしながら前進する。


(……やっぱり)


 スズモは目を細めた。


(この数を、あそこまで余裕で避けるなんて……)


 だが、彼女は即座に判断を切り替える。


(接近戦に持ち込まれる前に……迎撃)


「忘れてないわよね?」


 スズモは静かに言い放つ。


「私も、接近戦ができるってこと」


 右手をわずかに動かすと、彼女の足元を中心に触れると起爆する魔法陣が幾重にも展開された。


「……知ってるさ」


 ガイマは足を止めずに言い返す。


「でも、それって――俺の姿が見えてたら、の話だよな」


 彼は地面に手をつき、低く唱える。


黒煙こくえん》」


 次の瞬間、黒い煙が爆発的に広がり、視界を完全に覆い尽くした。


(今だ……!)


 ガイマは音と魔力の気配だけを頼りに、回り込む。


(位置は……あそこ)


 背後へ――そう思った瞬間。


 ――ドンッ!!


 地面が爆ぜ、爆風が黒煙ごと吹き飛ばす。


「残念」


 スズモの声が響く。


「最初から、地面にも仕掛けておいたの。不用意に動いたら……こうなるわ」


「……!」


 煙が晴れ、視界が戻る。


 そこに立っていたのは――


 服がぼろぼろになりながらも、ほぼ無傷のガイマだった。


「……ダメージが、ない?」


 スズモは目を見開く。


「ガイマ……何をしたの?」


(俺も……わからない)


 ガイマ自身、困惑していた。


(確かに、直撃したはずなのに……)


 だが、迷っている暇はない。


(今しかない……!)


「……さてね」


 彼は一歩踏み出し、静かに言う。


「それを教えるとでも?――これで終わりだ」


 スズモの背後に、突如として魔法陣が浮かび上がる。


 そこから伸びる、黒い尖った棒状の魔法。


(……まさか)


 スズモは一瞬だけ、目を細めた。


(ここまで引き出されるなんて……)


 魔法が触れる直前――


 霧散するように消え去った。


「チェックよ」


 スズモは短く告げる。


「《バインドチェイン》」


 地面から無数の鎖が噴き出し、ガイマの足元を絡め取り、瞬時に拘束する。


「……魔法無効魔法、か」


 ガイマは息を吐き、力を抜いた。


「降参だ」


 スズモは近づき、彼を見下ろす。


「ええ……そんなところね」


 指を鳴らすと、鎖は消え去った。


 ミナが駆け寄る。


「ガイマ!!怪我は!? 本当に無傷なの!?」


 彼の体をあちこち触って確かめる。


「おい、ちょっ……!」


 ガイマは慌てて彼女を止める。


「大丈夫だって!……それに、触りすぎだろ!」


 ミナは一瞬固まり、顔を赤くする。


「……そ、そうね。心配で、つい」


 スズモは二人を見て、小さく息をついた。


「……傷はつけられなかったけど」


 視線をガイマに向ける。


「ここまでできるなら……明日の件、関わってもいいかもしれないわ」


 二人が息を呑む。


「ただし条件がある」


 スズモははっきりと言った。


「私の指示には必ず従うこと。一度でも勝手な行動をしたら、即置いていく」


「……わかった」


「私も」


「それじゃ、今日は休みましょう」


 踵を返しながら、スズモは付け加える。


「ミナはさっきの部屋。ガイマは最初の部屋ね。……同じ部屋でも構わないけど」


「いや、それはない」


「私は別にいいけど……」


 二人は言い合いながら、それぞれ部屋へ戻っていった。



 イースタンの街・領主の館


 重厚な椅子に座る領主は、苛立ちを隠そうともせず叫んだ。


「あの女……!さっさと決断しろと言うんだ!!何で俺様が、わざわざ出向かねばならん!」


 護衛の一人が怯えながら、数字が刻まれた女性を壁に磔にする。


「……仕方ありません。《暗黒神ダーク》様の、直接の命ですから」


「準備は整っております」


 領主は机の上のダーツを手に取り、数字を吟味する。


「ふむ……ここだな」


 ――ヒュッ。


 矢は太ももに突き刺さった。


「ぎゃあああ!!痛い! やめて!!」


 領主は嗤う。


「いいぞ……その声だ。なぜ選ばれたかわかるか?」


「わ、わからない……!」


 再び、矢。


 叫び声が館に響く。


 その声を、別室で仮面をつけた人物が震えながら聞いていた。


「……聞きたくない……」


 彼女は自分を抱きしめる。


「私は……成功体。従えば……大丈夫……」


 だが、悲鳴は止まらない。


 ――狂気の館は、今夜も静かに命を削っていた。

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