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特殊犯罪対策課第6班  作者: ヒトノモドキ


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-6- 偶像が歌う絵空事(3)

イベント開催前日、設備点検から当日のリハーサルの準備まで多くの人が会場に集まる中、その一角に集まった警察とブリンガーたちが整列して待機している。

 当日はライブステージとなり多くの人が訪れる予定のこと会場で、全体朝礼が始まろうとしたいた。


「おはようございます」


マイクを持ってステージの上に上がったのは羽ケ崎。

 彼女の姿をみた警察とブリンガーたはそれぞれ緊張を隠せなくなる。

 国会テロ事件の主犯を逮捕した人...もし羽ケ崎が彼を逮捕出来て無かったら今頃日本という国は国として機能せず崩壊していたことは明白。

 警察組織が維持されているのも、国としてのシステムが大規模な改革をしながらもまた国として機能としているのも――英雄羽ケ崎 雅の功績が間違いなく大きいというのはこの場にいる誰もが知っている。


「今回のイベントは明日から3日間開催されます。そして皆さんが立っているその場所は客席となります。収容人数は2万人規模で、少し離れたモニター観戦席を合わせると最大4万人は入れるそうです。間違いなく3年前のテロ事件以降最大規模のイベントとなります」


今立っている客席に多くの人が集まり、そして何かが起きると大混乱となる。

 それがたとえ些細なことでも、警察、国に対しての信頼がどん底の今、言葉だけで民衆を抑えることは出来ない。


「ところで、皆さん。趣味はありますか?」


緊張感が高まる中、羽ケ崎は周りを見渡して話題を変える。

 唐突な言葉に皆がざわついている中、羽ケ崎は適当に見えた男性警官を指名する。


「あなた、あなたの趣味はなんですか?」

「は、はい!ロードバイクが好きで、よくツーリングに行ってます!」

「あなたは?」


羽ケ崎は離れた席に座っていたブリンガーを指名して聞く。


「わ、私は...洋楽が好きです...」

「あなたは?」


さらに離れた場所にいる別の警官に趣味を聞く羽ケ崎。

 皆羽ケ崎の言葉の意図が分からずポカンとしていると、羽ケ崎はマイクを握り直す。


「私も趣味があります。本が好きでよく買って読んでます。そして明日からこの場所に集まる人達も趣味で大好きなものを見に来ます。人の生活には楽しみがないとダメです。国会テロ事件以降、大規模なイベント開催は中止となり、イベント自体縮小され、国民の娯楽がかなり減ってしまいました」


羽ケ崎はゆっくりそして出来るだけ柔らかい口調で言葉を続ける。


「何を目標にして頑張るかは人それぞです。趣味はその頑張りに対してご褒美になったりします。国民も私たちも頑張ってきたのでご褒美が必要ですよね。今回私たちはそのお手伝いを全力でしましょう。ちなみに私の目標は――終わったあとまたこの人数でここで集まって好きな飲み物で乾杯することです。どうか皆さん、私の目標を手伝ってください」

「「はい!!」」


羽ケ崎はマイクを置いて啓礼し、会場にいる警官とブリンガーは誰に言われたわけでもなく立ち上がって羽ケ崎に啓礼した。

 そのあとはそれぞれの班に分かれて決められたスケジュールで動き、羽ケ崎は更衣室で私服に着替えた後に自分の班の集合場所に集まった。


「お待たせ」

「羽ケ崎さん..!」

「おーー!似合ってます!!」


羽ケ崎の私服に目を輝かせた早見と尾長...服装自体尾長コーディネーターが監修したもの。

 チェック柄のベレー帽子と合わせるよう髪はポニーテールに結び、顔を少し隠すために茶色の色付き伊達メガネ。

 身長が低い羽ケ崎は可愛い系が似合うとフリルたっぷりな服をごり押しされたが無事却下され、無地のニットと長いスカートを採用した無難だがスタイルの良さからまるでモデルような感じになっている。


「羽ケ崎さんがスカート採用すると思いませんでした」


三島が無意識にそういうと、女子2人からとんでもない形相で睨まれる。

 だが、羽ケ崎は2人の肩を軽く叩いて三島の方に近づく。


「このスカート、長いから色々隠せるの」


と、スカートを少し上げて足に隠してある折り畳み式の警棒と携帯式の手錠を見せる。


「は、羽ケ崎さん!三島さん見ないでください!」

「乙女がはしたないですよ!」

「いや、申請した武装の確認をしてもらわないと...」


インナーを履いてるから恥ずかしくないという羽ケ崎に対して、三島は視線を逸らし、早見は三島を押し出して別の場所に追いやろうとする。

 尾長は慌てて羽ケ崎にスカートを降ろすように言うカオスな状態の中、矢崎の能力で咳払いが聞こえる。


『あ、あの....そろそろいいですか?』


矢崎の言葉に全員が行動を止めて改めてスケジュールを確認する。


「三島くんは巡回チームと合流、私は尾長さんと静の事情聴取を手伝った後に合流するから」

「了解です」

「はい!」

「頑張りますかー!」


それぞれ気合を入れ直したところで、事情聴取のために用意された一室にて複数の警察官と手分けして出入りする全ての人にIDタグの配布と事情聴取を行なう。

 手順はシンプルのため、ほぼ流れ作業のような形だが、人数が人数のためかなり骨が折れる。

 2時間程行ったところで、羽ケ崎の班に割り振れた人もいよいよ終盤...スタッフ陣の配布が終わりいよいよ出演者の番となった。


「次の方お願いします」


羽ケ崎が呼び出しをすると、ドアを開けて入ってきたのはピンク色の派手な色と、フリルの多さが目立つ可愛らしい衣装に目を包んだ女性。

 入るなり羽ケ崎の前に立ちくるーんとターンをした後――


「あなたのハートのいつもど真ん中に!リクリース!トリニティ!どうも踊って歌って笑えるアイドル!レナです!」


眩しい程のアイドル挨拶を決めたレナに後方で見ていた尾長と早見は察した。

 これは相性が最悪なパターンだと。


本城(ほんじょう)礼奈(れいな)さんお時間頂いてありがとうございます。どうぞお座りください」

「ああー、そんなに浮かない顔でーレナレナパワーが足りないのかな?!」


手でハートを作って羽ケ崎にウィンクするレナ。

 挨拶を華麗にスルーされてもまだアイドルとしての所作を貫く彼女の心に感銘する2人だが、相性が最悪なのは羽ケ崎にとってではない。


「身分証はご持参頂いてますか?IDタグのお渡しの際に確認致しますのでご用意を」

「レナはみんなのものだから秘密をあんまり知ると好きになっちゃうぞ☆」

「IDタグがないと入館時に手続きが長期化します。お手数はあまりかけませんのでお座りください」

「ひゃ...ひゃい...」

「(アイドル殺し...)」「(心折れちゃってる...)」


今回ばかりはレナに同情せざるを得ない早見と尾長は後ろで深々と頭を下げつつ2人の会話を引き続き聞く。


「身分証お預かり致します。ご住所の変更等はございませんか?」

「レナはみんなの心の中に――」

「裏面に記載がありませんね。失礼致しました。こちらのIDタグの登録されている情報と相違ございませんのでお返し致します」

「ひゃい...」

「(アイドル泣いちゃうよ...羽ケ崎さん!)」「(シマコ...なんかごめん...)」


あまりにも淡々と処理される中、静寂を破るように羽ケ崎の携帯が着信を知らせる。


「すみません、少し失礼します。はい、羽ケ崎です」


電話に出た羽ケ崎は何やら少し話した後、電話を切って席を立つ。


「尾長さん、静。ちょっとごめん別チームのところに行かないと行けないからあと任せてもいい?」

「はい!是非!!」「任せてください!!」


このままだとレナを泣かせてしまうのではないかと心配していた2人は喜んで引継ぎを受けた。

 羽ケ崎は一礼したあとに急いで部屋をあとにし、2人はまずレナに謝罪した。


「ご、ごめんなさい...悪い人ではないんです...」

「その...仕事の時っていうのとアイドルに慣れてなくて...たぶん...」


必死にフォローを入れる2人だが、レナは2人の必死な様子を見て笑顔を浮かべた。


「こちらこそすみません...羽ケ崎さんっていうことで...少し私も緊張して空回りしてました...もっと普通に話せばよかったですね」


羽ケ崎に会うということで緊張して空回りしていた様子のレナ、彼女もまたネット配信等で黎明期を乗り越えた1人であるため、羽ケ崎がどんな扱いを受けているのかは知っているはず。

 怖い人だと思っていたのかと思っていた2人だが、レナからは驚くべき言葉が伝えられた。


「もし羽ケ崎さんに合ったら今度はちゃんと伝えますが...もし会えなかったらとお2人から伝えてください...ありがとうって」

「え?」


驚いた尾長がキョトンとしていると、レナは笑顔を見せながらもどこか寂しそうな表情で話した。


「3年前...国会テロ事件の時って私のグループから2人脱退してしまって...私1人になった時だったんです」


アイドルとして活動していたリクリーストリニティだったが、夢を追うということは時間との闘い。

 それぞれが持っていたタイムリミットを過ぎても芽を出すことが出来なかったリクリーストリニティはレナを残して2人が脱退。

 レナは途方に暮れてしまっており、どうしていいか分からなくなっていた。


「このまま続けていいのか...私も諦めるべきなのか...すごく悩んでいた時期に、国会テロ事件が起きました」


国会テロ事件は国会中継中に起き中継を切らせないまま犯人は議員を順番に呼び出して処刑。

 あまりにも残酷過ぎる光景に皆思わず目を背けていた時――羽ケ崎率いる強行チームが乗り込み犯人確保に動いた。


「羽ケ崎さんを応援している人なんて...その当時からほとんどいませんでした。むしろ正義のヒーローを捕まえようとする悪だと皆罵っていました...この人はきっと偉業を成し遂げても称賛されることもないのに何で頑張るんだろう...そう思っていました...でも、羽ケ崎さんは最後まで戦って犯人を逮捕しました。自分は致命傷を負ったのに、犯人は気絶させただけ...最後まで戦って...最後まで警察官として立っていたんです」


リクリーストリニティもこのまま終わっても、最後まで戦っていても変わらないかもしれない。

 行きつく先に称賛も結果も残っていないかもしれないが...レナはその日、戦い続けることを選んだ。

 自分がリクリーストリニティを大舞台に連れて行くと、自分が2人の想いまで全部連れてって最後までリクリーストリニティのセンターレナとして立つと...そう羽ケ崎を見て決心した。


「私...最後の舞台になるかもしれませんが、リクリーストリニティとして舞台に立てました...2人の想いも連れて私...3人でライブが出来るんです。あの時諦めていたらこんな機会は無かったんです。だから...羽ケ崎さんにありがとうって...伝えてください」


走り続けたその先に何も残っていなくても...アイドルになろうと決めた時3人で誓った夢は3人で終わらせる。

 彼女の瞳の奥に静かに燃えてい輝く意志を早見はよく知っている。


『え?!部活辞めたの?!』


1年生の時...シマコは全国大会を終えた後部活を引退した。

 そして、バイトの時間を増やしてアイドルのライブに行くと言い出した時は流石の早見も驚いた。

 シマコの趣味は知っていたが、そこまでする理由は何かと...そのアイドルが引退したりすると全て徒労に終わってしまうのに。


『大好きだからだよ、しずっち!』


答えはシンプルだったが、シマコもまた目を輝かせて話した。

 リクリーストリニティの魅力について語る彼女にも間違いなく輝く強い意志が見えた。

 何を目標にして頑張るかは人それぞれ...そう話していた羽ケ崎にも見えたその光は、早見の心にいつも輝きをくれている。

 やはり自分が大好きな人は...誰もがその輝きを瞳に宿している。


「羽ケ崎さんはまた会えると思いますので...どうかご自分の口から直接伝えてあげてください。羽ケ崎さんも喜びますよ」


早見の言葉にレナは今日一番の笑顔で答えた。


「ありがとうございます、よかったら私のライブ見に来てくださいね!」


レナとの話を終えて2人はより一層今回のイベント警備に気合を入れた。


※※※余談※※※


リクリーストリニティのライブは2日目の午後1枠。

 事前販売チケットで4枚分の最前列の確保に成功しているシマコ...静がライブに来れるかどうかは本日午後に分かるとなっているため、シマコは朝から携帯を祭壇か何かのように祀り、その前で祈りながら連絡を待っていた。


『ピロン』


静からのメッセージ受信にあり得ない速度で携帯を掴んでメッセージを確認するシマコ。


『ライブの時間帯は非番にしてくれてたみたい...4人で見れるよ』

「ありがとうございます!ありがとうございます顔も知らないしずっちの上司さん!!」


シマコが感極まって泣きそうになっている中、静からさらなるメッセージが届く。


『今日ちょっと仕事でリクリーストリニティのレナさんに会ったよ。写真撮ってくれたから一応送っておくね。シマコの話したらライブで待ってるって言ってたよ』


添付された画像には静とツーショットで映り投げキスをしてくれているレナの姿が見えた。

 シマコは携帯の画面をみたまま固まり、お昼の時間になっても起きてこないシマコを呼びにきた弟にその場面を目撃される。


「姉ちゃん何してるの...姉ちゃん?」


呼んでも反応しないシマコに弟は近づいて目の前で手を振る。


「あ....立ったまま気絶してる....」


その後長文の感謝メールを受け取った静が困惑するのと、興奮してグループチャットに連投したシマコにリカとソラの2人が呆れて既読スルーしたのはまた別の話である。



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