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特殊犯罪対策課第6班  作者: ヒトノモドキ


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-5- 偶像が歌う絵空事(2)

大型イベントの警備に向けて動いている第6班...本日は全員が集まり警備当日の詳細についてすり合わせが行なわれた。


「週末に行われるイベントは合計3日間、リハーサル日の初日は物販と展示が行なわれる予定だよ」


全員にイベントのパンフレットを配布し、説明する羽ケ崎。

 出演者たちがステージ等で姿を見せるのは2日目からであり、リハーサル日は一般公開されていない。

 来場予定数は4万人、事前入場可能な前売り券が2万枚完売している状態と資料には書かれてある。


「で、今回殺害予告が届いたのはネット配信を主に活動しているrasa、所属事務所はイベントの延期や中止はなしで通常開催する予定で、警備人数の増強と警察との連携をすることになってるけど――」


羽ケ崎が言葉を詰まらせたのは資料にも書いてあるrasaという人物の厄介さ。

 配信等でイベント関連の発言が非常に多く、当日の警備に一般警察と特殊犯罪対策課が入ることを発信してしまっている。

 警察からはこれ以上情報を発信されては困るため、所属事務所側に羽ケ崎の班が警備に入ることなどは伏せている。


「殺害予告が届いたいるのに、本人が不用心すぎますね」


少し怒ったようにそういう早見の意見も至極当然...何をそんなに慢心しているのか、犯人を煽るような発言も多々繰り返しており、かなり手を焼いている。


「まあ、脅迫に対して強い姿勢を見せるのはいいけど。やり過ぎの面は否定できない。だから当日本人からの質問には何も答えなくていいよ」


羽ケ崎は早見をなだめるようにそういうと、資料の次のページをめくった。


「次のページは警備のチーム分け、警備計画にない人は私服で動いている人だと思って」


羽ケ崎は風評から目立ちすぎるため私服警備で単独行動となり、矢崎は警備には参加しないため名前が無かった。

 一般警察との混合チームになっているため、6班として最大規模の案件となっている。


「リハーサル日前日に当日のスタッフと出演者がステージの確認とかするらしいから、その日に現場の状況を把握するため私たちも行くことになってる。集合時間はここに8時、静は悪いけど学校に公認欠席の書類を出しておくから朝から勤務お願い」

「了解です」


ブリンガーとして勤務している早見はまだ高校生...任務で仕方なく学校を休む場合は全て公認欠席として認められている。

 そもそも早見は能力開発等の授業が全て免除になっているため、一般生徒より半分ぐらいの出席日数での卒業が認められている。


「行くときの車両は当日も使う特殊車両だから免許持って尾長さんが運転お願い」

「はい!」

「三島くんは駐車関連とか当日の武装許可申請書を出しておいて」

「了解です」

「矢崎くんは頼んでおいたの当日までいけそう?」

「あと2日あれば...でも正直四宮局長が言っていたとおりになりそうではあります」


裏で矢崎に頼んであるものに関しては他メンバーには知らされていないが、その言葉を聞いて羽ケ崎が少し残念そうな表情をしているのが分かった。


「まあ、やれることはやろう。警備計画と配置は当日まで覚えておいて、以上質問は?」

「「ありません!」」

「では通常勤務に戻って、私は本部から特殊車両取ってくる」


会議が終わり、各々が業務に戻る。

 大規模な案件のため緊張感もあり、不安もあるが――いつも通りの羽ケ崎を見て皆安心している部分は大きい。


「静ちゃんちょっと手伝ってー」

「は、はい!」


ブリンガーになって初めての大きな任務を経験する早見はとても緊張しており、今回尾長とほとんど行動を一緒にすることになっている。

 そして、2人が担当する最初の大仕事は――


「開催日前日に私たちが事情聴取する人のリスト、最初は羽ケ崎さんがついてくれるけど、後半戦は私と静ちゃんだけだから頑張ろうね」

「はい!」


前日は出演者とスタッフ陣も多く集合するため、空き時間を使って簡単な事情聴取をしてのち、各々の能力を確認しておく。

 事情聴取が終わったら入場に必要なIDキーを1人ずつ配布する形になっており、IDキーは生体情報とリンクさせイベント開催期間中は警察と警備会社が連携してモニタリングする予定だ。


「リスト...多いですね」

「私たちだけでやるわけじゃあないけど...参加スタッフもかなりいるからね」


リストを確認しているだけで気が遠くなりそうな2人だが、早見はリストの中にある人物がいることに気が付いた。


「リクリーストリニティ...レナ...」


友達のシマコが推して病まない地下アイドル。

 シマコは1年生の時に陸上部に入っており、優秀な成績を残していたが、彼女は部活の合宿と推しのイベントが重なって参加出来ないという事態に直面し、その後部活を辞めた。

 全国大会で3位に入るぐらいの実力者がまさか推し活のために部活を辞めるなんて思いもしなかった周りはシマコを白い目で見ているが、本人はまさに命をかけて推しを推している。

 その理由は――


「リクリーストリニティ...最後のライブなんだって?」

「尾長さん知ってるんですか?」

「そこまで詳しくはないけど、地下アイドルではかなり勢いが出てきてメジャーデビューも目前って聞いてるかな...」

「友達のシマコが言ってました...3年前のテロ事件以降ライブ、イベント関連は縮小せざるおえない状況になって多くの事務所とかイベント会社が倒産したって...リクリーストリニティの運営会社も頑張ってましたが、1ヶ月後に事務所を廃業することが決まっていて、リクリーストリニティも解散になるって」

「でもメンバーって今レナっていう人だけなんでしょう?」


リクリーストリニティは元々3人のメンバーで構成されていたが、2名が引退し現在はレナのみが所属している。

 逆境にも負けずこの大規模なイベントでステージに上がることが出来たリクリーストリニティだが、惜しくも運営会社が事務所を廃業するため、事実上今回のライブが最後のライブとなってしまう。

 リクリーストリニティからは解散の知らせなどは出ていないが、もしかすると今回のライブで発表するかもしれないと、シマコは涙していた。


「どんな人か気になってましたが、まさか担当になるとは思いませんでした...」

「まあ、事務的に話すだけだけど、友達にお土産話ぐらいは出来るかもね」

「はい、シマコ...リクリーストリニティの話してる時すごく目がキラキラしてるんです...すごく早口で色々言われるので何言ってるか分からない時が多いですが...今思うとそんなシマコが私好きだったんです...ちょっと...悲しいです」


早見はそこまで何かに熱中するほどのものがなく、熱意を持って取り組んでいるシマコがとても羨ましいと思う。

 そして、そんな大好きな友達が熱中しているものを失くしてしまうのが悲しい。

 羽ケ崎に声をかけられるまで抜け殻になってしまった自分のようになってしまうのでないかと。


「だから、私頑張って今回のイベントが成功出来るようにします。シマコが後悔ないように推し活できるように!...ブリンガーとして動機は不純ですか?」

「うんん、私は羽ケ崎がいるからやるってぐらいだし、動く理由も頑張る理由も人それぞれだよ」


心配そうに自分を見つめる早見に笑顔を見せた尾長は彼女に簡易的なマニュアルを渡した。


「とりあえずそれを頭に入れておけば問題ないから、ちょっと読み込んでから練習してみようっか」

「はい!」


2人が事情聴取に向けて準備している間、羽ケ崎の指示で書類を提出していた三島が少し手を止める。

 今回のイベント、不測の事態が起きてはいけないため、PSSチョーカー携帯許可を出さなければいけないが、あんな人が多い場所でもし使用することになれば――


「これはいらないよ」


そう悩んでいるうちに、羽ケ崎が三島のデスクに近づいてPSSチョーカー使用許可と携帯許可の書類を破棄した。


「羽ケ崎さん...でも...」

「言いたいことは分かる。でもこれで鎮圧出来てもさらなる不安要素を植えるだけ...すごく難しいけど、なんとか頑張るしかないかな」

「羽ケ崎さんが裏で準備しているのは上手くいきそうなんですか?」

「どうかな...正直警察は事が起こらないと動けない、先にいくら準備してても事が起こらないと事実を証拠として立証することが出来ない。立証できない事実に警察が権力を行使することは出来ないからね」


世知辛いことだが、事件が起こってから初めて警察は動くことが出来る。

 いくら事前に準備して阻止したところで、それは起こっていない事実のため、罪にはならない。

 警察は法というルールを取り締まる者であるため、ルールを超えていない者を害することがあってはならない。

 たとえそれが明白にルールを超えようとしている人でも。


「被害がもし出たら最小限に抑える。起きなかったらみんなでイベント見学だね」

「相変わらず羽ケ崎さんは前向きですね...」

「そう?私はイベント見学になることをずっと願ってるから、願望を言ってるだけだよ」


三島もPSSチョーカーの出番がないどころか、何も起こらず無事イベントが終わることが一番の願いだ。

 だが、現実ではそう上手くいきそうにない不安要素が多くある。


「羽ケ崎さん確認です。イベント主催側はイベントの中止も延期も...殺害予告届いたことも公表しない方針であってますか?」

「うん、こちらからは中止または延期を提案したけど、聞く耳持たず。殺害予告に関してもいたずらとして処理しているけど、念のための警備強化って形」


今回のイベントには莫大な資金が投じられており、中止どころか延期をしても資金の大半を失ってしまうことになる。

 だから主催側は絶対にイベントの中止が出来ないということは理解できる。


「rasaさんの犯人を煽るような発言に関しては...」

「本人は色々な事柄についてバッサリ切るという特性上で活動を盛り上げてる。支持者も同調している人も多いから正直こちらからお願いして何かを聞いてくれる人ではない...特にrasaさんにとっても今回のイベントは大きいから自分の顔に泥を塗られた感覚で怒ってるんだと思う」


配信活動で様々な事柄について過激でバッサリとした意見を発することが多いrasa。

 それに共感し指示する人も多く、今の世間的には警察とか国よりもよっぽど民衆の信頼を得ている。

 だから、今回のイベントを失敗させるわけにもいかず、失敗しても警察と連携している以上、警察を悪者にすることが出来る。


「四宮局長もややこしい案件を持ってきてくれましたね...それに羽ケ崎さんが...」


羽ケ崎はネット等で散々誹謗中傷されており、過去には住所を特定され嫌がらせを受けたため、高いセキュリティーを有しているマンションに引っ越しを余儀なくされた。

 今回のイベントで集まる人たちの中にも羽ケ崎に対してよくない考えを持つものは少なくないだろう。

 それにも関わらず羽ケ崎を指名した理由は――


「単純に私の能力が強いからだよ」


靭性変化は警察組織内でも屈指の能力...強い能力であるが殺傷性が非常に低く、拘束能力に異常に長けている。

 そして、羽ケ崎の力量は災害指定特異1級能力者で国会テロ事件主犯である源藤を逮捕することが出来た。

 羽ケ崎以上に強い能力を持つものがいないわけではないが、あまりにも便利過ぎる能力というところは否定できない。


「当日は私服で変装するから、大丈夫。ありがとう心配してくれて」

「俺が羽ケ崎さんの心配をするなんてまだまだ早いですが...俺たちにはまだ羽ケ崎さんが必要です」

「知ってる。頑張ろうお互い」


羽ケ崎は三島の頭を軽く撫でて自分のデスクに戻った。

 今自分はどれぐらい羽ケ崎の背に乗っている荷物を負担出来ているだろうか...最近三島はそういうことばかり考えてしまう。

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