-13- 女王のお願い(2)
「流石にバレたか...どこで分かったの?」
羽ケ崎の部屋で待機している結良は手を上げて観念したように話した。
「霧島さんがいないってところから怪しいとは思ってた。霧島さんの能力死が二人を分かつまでがあるのに避難してるってこと自体がおかしいと思ったし、車に仕掛けがあるなら、他レイヴンメンバーが気づかないで日葵だけが気づくのもおかしいと思ったから」
死が二人を分かつまでは能力で決めた1人のダメージを全て肩代わりする変わりに、能力者本体はどんなダメージも受けない。
能力の対象を再設定することは出来ず、能力の対象となっている人が死亡すると能力者本人も死亡する。
まさかに一心同体...この能力を持っている霧島が側にいるにも関わらず、結良は避難し霧島も不在。
何かの目的で、レイヴンメンバー含めて攻撃に回しているとしか思えない。
「推測では車に仕掛けしたの...日葵でしょ」
「いや、私はやってないよ。きーくんに任せたもん」
あっさり偽装工作を認め、結良はカバンから一枚の書類を取り出す。
「国際能力犯罪組織、ウロボロス...私の懸賞金が呼び水になって動き始めた情報をキャッチしたの。だから早々に諦めて貰おうと思って一芝居うったわけ」
「誰かが先に動いていて、警察が活発に動いたら流石のウロボロスも容易に活動は出来なくなる...それに既に懸賞金目当てで動こうとしている国内組織にもけん制が効くからよほどの実力者か考えなしじゃあないと手出ししてこないってことね」
「ご名答!まさに毒を以て毒を制すって感じだよ」
ここまで派手に自体を動かしている時点で結良が何らかの責任を問われることは間違いないが、それでも起きてしまった事態に対して、被害を最小限にするために結良は自分の使える全てを使って対処している。
彼女作戦は自分の地位、名誉、命すら駒であり、破天荒かつ大胆...そのため敵味方問わず頭を抱えさせられることが多い。
「で、レイヴンメンバーは今どこに?」
「今頃ウロボロスの潜伏先候補を片っ端から潰してると思うよ?リストアップした箇所は23。明日の日の出までには終わるかな?」
「その間に日葵が捕まるって想定は?」
「だから雅ちゃんのところにきたの」
結良は嬉しそうに羽ケ崎に抱き着き頬を摺り寄せる。
いつも羽ケ崎に会うとは唐突かつアポなし...事務所に突撃したのは今回が初めてではあるが、その他はプライベートで密会していることが多いため、公的記録を辿っても羽ケ崎との繋がりは「同期」としか出てこない。
結良の潜伏先を特定するにあたって公的記録を漁っても無駄足であり、羽ケ崎との繋がりを特定するのも時間がかかる。
それより先にレイヴンメンバーが全てのリストを埋め尽くす方が圧倒的に早いというわけだ。
「懸賞金出してるところ自体を潰すことはしなかったの?」
「一応するつもりだけどね...1日半ぐらい猶予を持たせたのは理由があって――」
羽ケ崎の指摘に結良はゆっくり彼女から離れて満面の笑みを浮かべてみせた。
「私、掃除するときって一気にやりたい派なんだよね」
「怒られるよ」
「別にいいじゃん、私が怒られたり処罰されるだけで少しでも安心できる毎日が確保されるなら」
「威厳も時には重要だよ。まあ、日葵に言っても分からないか」
「あーひどーーい!それすごく傷つくよ!!」
彼女の作戦は破天荒かつ大胆...そして徹底的、彼女は全てのことを天秤にかけ、自分が天平に乗った瞬間、自分の全ては容易に切り捨てられる物と判断する。
彼女能力...女王のお願いもそれは現れており...彼女は自分自身と能力で契約をし、レイヴンメンバーに対して1日3回以上命令を出すと自分に対して能力が強制発動し、即時心臓を止めるようにしている。
これは最悪、自分が人質にとられて、能力対処者に強制命令を下さないといけない時――自分の意識を確実に止め能力を解除させると同時に人質としての価値を失わせるためである。
心臓が止まった状態から蘇生可能時間までに助けがくればそれでよし、死んだとしても能力の悪用は止まると狂ってるとしか言いようのない保険。
このことに関しては本人と霧島、そして羽ケ崎の3名しか知っておらず、羽ケ崎からはいつも強く反対している。
「とりあえず明日まで大人しくしてて、この部屋ぐらいは私の能力で保護出来るし、これ以上静を消耗させるわけにはいかないから」
「え、それって部屋から出るなってこと?!トイレは?!」
涙目になる結良を見て羽ケ崎は少し考えたのち、持ってきたペットボトルの水を飲み干して差し出した。
「ほら、日葵が大好きな効率的行動だよ」
「私流石にそこまで人間らしい生活削らないよ?!」
何はともあれ朝までに結良を家から出さなければいい...そう考えた羽ケ崎は時間を見てため息をつく。
日の出までおおよそ18時間...普段なら短く感じるこの時が今日だけはあまりにも長く感じる。
日葵の作戦は大胆ではあるが、緻密に練られている。上手くいけば被害も最小限になるだろう。
現実は上手くいかない...そんな言葉より羽ケ崎は体感し続けているものがある。
「(日葵...人っていつも理解できる行動をするとは限らないんだよ)」
※※※
羽ケ崎の家から離れた場所で三島と合流した尾長はいつもと全く毛色が違うスーツと眼鏡、黒い髪のカツラを装着し、腕にはブリンガーの腕章をつけている。
普段とかなり違う様子からも、誰からみても彼女が尾長だとは分からなかった。
「お疲れ様お....大井さん...」
「忘れて無くてよかったです。出発しますよ」
今日一日は偽名で過ごすことになっているため、尾長は三島が乗ったのを確認して車を発進させた。
「遠回りするので、探知機でボディーチェックしておいてくださいね」
「ああ、今回してる」
助手席で自分の体の隅々まで機械を当て発信機等がないか確認する三島。
チェックが終わると尾長は遠回りしていたルートから第6班の事務所へ戻るルートに切り替える。
「まさかこんなことになるとは...」
「ほんとです...正直もう疲れて帰りたいです...」
ゲッソリとしている2人だが、とりあえず通常業務に戻らないといけないため、気合い入れ直していると――
『三島さん、矢崎です...パトロール中の一般警察官より応援要請、スーパーでお客と揉め事があり通報受けて到着すると、お客側が能力を使用して従業員に攻撃、応戦するような形で能力を使って現場は混乱しているとのことです』
「わかった、位置を送ってくれ。おながじゃあなくて...大井、緊急出動するサイレン鳴らしてくれ」
「了解!」
「本部、こちら三島。現場に急行します。能力使用許可を―――」
尾長の能力使用許可を要請しようとした三島だったが、尾長は今羽ケ崎の家にいることになっている。
このままでは矛盾が発生してしまうため、止む無く三島は咳払いしたのち言い直す。
「同行ブリンガーは能力使用できないため、三島 陸のみ現場対応します。別件で使用した車にて現場に向かう許可を」
『こちら本部オペレーター、該当車両の事前申請を確認。そのまま現場に急行してください』
「三島さん1人で大丈夫ですか?」
「まあ、仕方ない...大井は一応一般人の避難誘導だけ一般警察官と補助してくれ」
「了解です、無理はせず!」
尾長はサイレンを鳴らして現場に急行...三島は現場対応のため強化手袋を装着し構える。
7分後、現場に到着した2人は事前に決めた内容通り一般警察官と避難を担当する尾長と、スーパー内部で能力を使用している2人を止める三島で別れた。
「っ?!」
応戦していたとされる店員がレジの付近で倒れているのを発見し急いで駆け寄る三島。
怪我は浅いが頭を強打している可能性があり、三島は無線にて負傷者の移送を頼んだ。
その時――獣のような鳴き声とともに上半身が狼のようなものに変化している者を目にする。
「(周囲に服が散らばってる...能力的の身体強化型・任意発動特異3級以上か)」
変化状態がどんどん人間に戻っているのを見ると時間制限がかなり短いものだと判断した三島。
そのまま負傷者を庇うように立ち狼男に告げる。
「警察です。その場でゆっくりうつ伏せになって手を後ろに組んでください!」
「あああ!!」
狼男はこちらの言葉が通じないのか、三島をみるなり飛びつき攻撃してくる。
三島は咄嗟に後ろに倒れるように拳を避け、素早く突き出した腕に絡みつき腕ひしぎ十字固めを決める。
いくら力が強くても人間の体は曲がる方向にしか曲がらない。
狼男は必死にもがくもガッチリと決まった拘束から逃れることは出来ず、暴れる彼に三島は仕方なく手錠を手にかけて後ろで組ませ抑えつける。
「落ち着いて、これ以上暴れると取り返しのつかないことになりますよ」
「うううう」
狼の姿も徐々に解けてきており、こちらの言葉も理解出来ている模様。
おそらく能力で強化された状態から時間で解除されていき、ピークの時には人間性を失ってしまうと推測。
念のため犯人を抑えつけそのまま応援を呼ぶ三島だが――
「ぐあああ!」
突然狼男が咆哮し、腕のみに狼化が色濃く表れた。
残り僅かの能力時間を上半身強化から腕のみに集中させて手錠を引きちぎり三島に爪を立てる。
「くっ!」
突然のことに負傷が避けられないと悟った三島。
爪自体かなり鋭いが長さはそこまでない...片手で爪を受け貫通させ、そのまま力を込めて筋肉で固定。
あり得ない程の筋力で片手が拘束されたことに驚いている狼男は次の瞬間足を駆けられ宙を舞う。
三島はそのまま男を床に叩きつけ、背中から落ちた彼はそのまま意識を失い能力が解除された。
「いっ...」
貫通された手のひらから出血する三島は圧迫して止血を試みる。
その間一般警察官たちが拘束具を持ってきて、男はガチガチの固定されパトカーに詰められる。
「三島さん!!」
慌てて駆け付けた尾長が三島の負傷をみると慌てて身に着けている上着を脱いで引きちぎって当てる。
「悪い...ヘマした」
「三島さん悪くないです!すぐ病院に...しっかり抑えてください!」
「ああ...」
必死になって自分の手を抑える尾長の姿に反省している三島だが、あそこまで能力の応用を出来る人とは誰も予想できないため、むしろ制圧できたことが功績でしかない。
手当を受ける三島が反省する中――1つだけ確かな違和感を口にする。
「なあ...あの客、戦闘に慣れ過ぎていないか?」
「強化型ならではの動きでしたよ...特にそう感じることは無かったです」
「そうか...」
戦闘的IQ、あの客は能力の使い方を異様に熟知している。
能力の残り時間を特定の箇所に集中させるという使い方は応用の中でも最上位。
みたところお客は50代後半と推測でき、その年代ではまだ能力に対する教育が十分でなかったはず。
それにも関わらず咄嗟の判断と怒りの感情だけであそこまで能力を使用できるのか...?
不安に思う三島の考えは残念ながら的中してしまっていた。
※※※
移送中のパトカー、拘束具を使用して護送車の後ろのベッドに固定されている客を見張っている警察官が1人――先に搬送された店員は頭を強く殴打したことで何かしらの後遺症が残ると診断されている。
そして、客との言い合いも実にくだらない...店員がレジ袋を付けなかったということが発端であり、そんなことで暴れ回っている本人はほぼ無傷。
理不尽な事件にはよく立ち会うが――警察官の中でやるせない負の感情が高まった時。
「心の闇に住まう」
拘束され、意識を失っていたはずの男がそう呟くと、再び意識を失った。
そして、見張りとして見ていた警察官は一瞬ぐったりとしたが何事もなかったように起きて周りを見回す。
「おい、大丈夫か?何か声が聞こえたが」
「問題ないです。ちょっと独り言が大きかったですかね」
「まあ、やるせないのは分かるが仕事は仕事だ。もうすぐで着くから降ろす準備をしてくれ」
「はい!」
運転席にいる人と会話を終えた警察官は自分の持ち物を確認して笑う。
「(ほんとはあのカッコイイお兄さんが良かったけど...あの人あそこまでしたのに負の感情が全く湧きあがらなかった...あれだと能力使用は難しいから仕方ないね)」
今、ここにいる警察官の精神は既に沈黙...今ここにいるのは能力によって体を乗っ取った人物が体を動かしている。
「(この人の能力は...うーん、微妙...走る時のフォームによって脚力が強化される。これはあんまり使えなさそうね。一旦連絡をーー)」
警察官は携帯を取り出して特定のコマンドを送信して仲間に連絡する。
『ハロー、今なんとか警察官の体をゲットしたよ』
『店で騒ぎを起こすのが早いとは言ったが、確かに早かったな』
『ほんとは私と戦ったつよーいお兄さんが良かったけど。あれは無理だった』
『お前の能力はカウンターされると厄介なんだ。無理はするなよ』
『はーい、で、今このまま警察署に行くからそこからヒマリ・ユウラの情報を探ってみるよ』
『正直情報は期待するな、他でも当たってみてるが、警察もヒマリ・ユウラの居場所を掴めていないようだ。無駄足になる可能性が高いから詮索時間は1時間だぞ』
『分かった分かった。でも――こんなに頑張ったのに無駄足になるのは嫌だからご褒美があってもいいよね?』
『開始する時は合図しろ、我々が全てを飲みこむ』
『はーい、我々が全てを飲みこむ』
送信を終えた警察官はそのまま携帯を壊して前を向いた。
ウロボロス所属、カーメラル・イベリカ...能力は心の闇に住まう。
彼女、及び彼女が能力を使用して潜り込んでいる対象の周囲2m範囲で一定水準の負の感情に達した者の感情を介して心に取り付き体を乗ってることが出来る。
乗っ取った体の能力も使用することが出来、時間とともに本人の記憶を獲得することも可能。
ただし、乗っ取りに失敗した場合...彼女は放心状態となり、1週間以上意識を失う。
乗っ取った場合でも、体の主の意識は少し残っており、乗っ取りの原因となった負の感情が解消されると、乗っ取りが失敗した時と同じ現象が起こる。
「(さーて、楽しいゲームの時間だよ。女王様)」




