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特殊犯罪対策課第6班  作者: ヒトノモドキ


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13/15

-12- 女王のお願い(1)

中間テストが終わった各中学、高校が一定の期間を開けて夏休み期間を見据えた能力の測定テスト、指導を行なう時期。

 各学校にはブリンガーまたは警察官が派遣され、テストと指導の監督を行なう。

 テスト監督に関しては在籍している生徒の中で特異2級以上の能力を持っている者が対象ではあるが、早見が通う学校はそもそも早見がブリンガーであるため、テスト監督は派遣していない。

 早見の能力は災害指定特異1級であるが、特異1級の能力を持っている生徒も在籍している。

 猫又は(トランス・ニーア)(キャット)そもそも身体型・強制発動の能力はとても希であり、動物の特徴が身体に現れる程度によって深度1~5で分類される。

 シマコは犬と猫の特徴をどちらも深度4まで発現しており、これは全国的に見ても非常に珍しい能力。

 この能力に限ったことではないが、中学~高校生の思春期には身体と能力が飛躍的に向上するが、精神的な成長が追い付かないことから能力が暴走しやすい。

 2匹の動物特性を深度4で身体に発現しているシマコは、場合によって人間としての生活に大きく支障が出るほど動物的な本能で行動してしまうことが多々ある。


「だから、そういう能力を持っている人に対して学校は国に指導員を要請する制度があるの。静の学校でも要請はあったけど、能力的な特性と本人の性格、静がブリンガーとして在籍して、身近にいるということから後回しにされてたけどね」


三島からソラ、シマコと連絡先を交換したけど、どうすればいいのか。

 そんな相談を受けた羽ケ崎は、資料を三島に渡しながら説明した。


「強い者に従いたくなる...その特性は動物的な本能から来ていると思うけど。本人を危険に晒してしまう危ういもの。でも三島くんに強さを見出して懐いているなら三島くんが大人として導いてあげるのがいいと思うよ」

「俺が指導員として...あんまり自信ないですよ」

「警察をしていればこういうことも多くなる。三島くんも初めての経験になるとは思うけど、相手としては身近な人だし、三島くんにとってもいいと思うよ?」

「...」


年頃の女の子の扱いはよく分からないため、三島は少し悩んだが...楽しそうに学生生活を送っている人が能力で苦しむことは三島としてはほっておけない。

 そして、羽ケ崎のいうとおり警察官をしていればこの先似たようなケースに遭遇することになる。

 その時経験がないからと助けられないのは間違っている。


「分かりました...ありがとうございます!羽ケ崎さん。俺頑張ってみます」

「うん、学校の方には私から手続きするから。今度の能力テストから参加してあげて」

「はい!あ...なんか参考にした方がいい資料とか本とかあれば教えてください!」

「分かった。メールで送っておく」

「ありがとうございます!失礼します!!」


三島は深々と頭を下げて会議室を退室する。

 学校の手続き書類を見ながら羽ケ崎は軽く自分の頭を叩いて反省する。


「と、理由はつけたけど。まあ...事実ではあるから。許して三島くん」


彼にとっていい経験になるのはもちろんだが、ソラだけでなくシマコにとっても三島は今必要な人だと判断して少し強引にこじつけた部分はある。

 反省する羽ケ崎とは別に学校側はシマコの扱いに関してかなり難航していたため、申請はすんなり受諾され、三島能力指導員と週1回派遣されることとなった。


※※※


13時が過ぎる頃...第6班の事務所に長い赤髪を丁寧に結んだお嬢様のように気品あふれる警察官が1人、訪ねてくる。

 入口付近に設置してある遠隔受付で矢崎が対応すると、彼女は目線を落として笑顔を見せる。


「やっほー雅ちゃんいる?」


カメラに警察手帳を提示してそう聞く彼女...結良(ゆうら) 日葵(ひまり)はインターフォン越しでも慌てて何かにぶつかっている矢崎によってそのまま事務所に通され、連絡を受けた尾長と三島が応接室案内した。

 尾長がコーヒーを持って彼女に出すと軽く会釈をしてすぐに退散...人あたりのよい尾長でも彼女だけは極力避けたいと思っている。


「何で急に...」


心配そうな表情の尾長とは裏腹に、羽ケ崎が来るのを楽しみにしている結良。

 3分ぐらい経過した時、羽ケ崎がドアを開けて入ると、結良は思いっきり彼女に抱き着いた。


「会いたかったよ!雅ちゃん!」

「お久しぶりです、日葵警視監」


尾長の心配とは別に2人の関係は非常に良好...というのも、警察学校からの同期であり、プライベートでも頻繁に連絡を取る程仲のいい同僚の1人。

 だが、現在この事務所にいる矢崎、尾長、三島がとても緊張しているのは彼女の役職にある...彼女は警視監。

 3年前のテロ事件以降、国のトップ層のみならず警察組織も大幅な入れ変えと階級整理が行われており、現在の警察組織では警視監は各都道府県に1人在籍している。

 彼女は新しく選抜された現組織の中核を担う人物であり、隣県の警視監かつ、四宮局長の実質的な上司に当たる人――そんな大物が突然アポなしで来訪するため、羽ケ崎以外は冷や汗が止まらないというわけだ。


「もう、誰もみてないんだから日葵でいいよ、日葵で」

「相変わらずで安心した。警視監としてはどうかと思うけど」

「ほんとなら雅ちゃんもこれぐらいのポストに居るはずなんだよ?ずーっと昇進断って現場にいるから気軽に会えないし私に敬語使うはめになってるんだから!」


羽ケ崎の頬を突きながら文句を言う結良。

 本来なら四宮局長が座っている椅子も、現在結良が座っている椅子ですら手が届く羽ケ崎だが――それでも昇進を断って現場に残ることを選んだ。

 彼女の同期の多くがそれを良しとは思っていないが、それでも日葵は彼女が成すことを支持している1人だ。


「それで、またアポなしで来てどうしたの?君のナイト様にも怒られるよ」

「きーくんのことは言わないでよ...こないだも大目玉食らったばかりなんだから」


警視監という立場もあるが、彼女はもう一つ大切な役割を持っている。

 女王のお願い(クインズオーダー)という能力を所有している彼女は、1日に3回、能力の対象となっている人に絶対的な命令を下すことが出来る。

 その命令は当人の実現可否を問わず、絶対的に実行される非常に強力な能力。

 対テロ専門部隊1つ急襲隊(レイヴン)の指揮権を持っている彼女が人質に取られるような状況があってはいけないため、専属の護衛をつけているのだが――毎回上手いこと巻いているため周囲から雷を落とされ続けている。


「こないだのイベントの事件、ピンポイントで言い能力者を見つけられたことがどうも引っかかてね。とりあえず調べてみたら別件で追ってる組織が関わってるみたいでね」


rasaが都合よく能力者と出会えたのはインターネットを中心として活動し、様々な仕事に能力者を紹介している反社会的勢力。

 この組織は既に中枢メンバーを逮捕、そして解体出来ており今回はその残党と思われる人物が関わっていた。


「まあ、でもその残党メンバーにはあり得ない資金力を持っていたり...最近多い過激なデモ活動者も雇われだったりしてることが多くてね。どこからそんなお金...湧いてくるんかなーって」

「企業連盟が関わってるって言いたいの?」

「そそ、国会テロ事件以降国の中枢メンバー総入れ替えになってから大企業との関わりというか癒着関係が自然に切れてしまって。企業としては不利な法案もバンバン通るし、止めようがないからね。かなり軋轢が生まれているのは前から知ってるよね?」


国会テロ事件以前は経済の中心である大企業と国会議員との繋がりが激しく、企業にとって不利な法案などを緩和阻止するため多額の金銭が流れていた。

 だが、今国が最も恐れているのは腐敗...腐敗が引き起こした末路を誰もがよく知っている。

 力を持った国民を力で制圧することは叶わない。再び大規模なテロ事件が起きれば今度こそ国は崩壊する。

 今の国の中枢はなんとしてでも信頼を勝ち取り、社会と国の安定を目指す者たちで構成されており、企業がいくら賄賂を渡そうとしてもそれを受け取るような人はいない。


「今はお金に関することは全部制御AIが入ってるから、1円単位でもズレればとんでもない人数に首が飛ぶからね。まあ、汚職と腐敗の最終が物理的に飛ぶことは周知の事実だし。今お金受け取って癒着しようなんて余裕は国にないからね。合理的な法案は利益と相反することが多いから企業連盟としてはとてもとても不愉快なわけ」

「確かに増えてるデモ活動、意図が分からない犯罪組織それらは増加傾向にある。企業連盟は意図的に問題を起こして今の体制の崩して自分たちが入ろうとしてるわけ?」

「全部全部噛んでるとは思えないけど...まあ少なくとも両手に収まらないぐらいのことはやってると思うよ?」


組織再編成の際、かなりの人員が辞職しているため一時警察官はかなり不足していた。

 羽ケ崎含め残った者たちの中で上に上がる者もいたが決して人員を適当に補充されたわけではない。

 結良は再編成の際に実施されたAI管理の1週間の筆記、実技テストで100満点中、97点という圧倒的な高得点で指揮官としての適性の高さを見せた。

 これは現在でも更新されていない評価最高得点であり、彼女の子供っぽい態度とは裏腹に中核メンバーの中でも頭一つ抜けている人物。

 彼女がここまで話しているということは――ある程度戦える証拠を持っていることになる。


「で、長くなったけど本題。連盟の逆鱗に触れたらしくて、私今裏で懸賞金かけられ暗殺依頼で回ってるらしいんだよね。17億!生きて捕縛したら30億!すごいでしょ!」

「え?」

「流石に通常業務なんて出来ないから、避難先に向かってたけど...なんか嫌な予感するからこっちに逃げてきたわけ!雅ちゃんの家に泊めて!」

「...」


結良は子供っぽい部分はあるが、決してふざけているわけではない。

 その行動にはある程度意味があり、後になってその真意を理解することも多々ある。

 だが――付き合いの長い羽ケ崎でさえ頭を抱えて自然と携帯を取り出してしまう。


「ちょっと霧島さんに連絡してくる」

「やめて!!多分今見つかったら私がきーくんに殺されちゃうよ!」

「私...なんの責任も取れないよ」

「いいからいいから!大丈夫だから!お願い!!お願い雅ちゃん!一生のお願い!」


羽ケ崎より身長の高くスタイルもいい仕事の出来るエリート感が漂う彼女は、なんの躊躇いもなく同期に土下座をして足にすがりつく。

 そして、こういう行動に出るのは今回が初めてではないため、流石の羽ケ崎も呆れ果て冷たい目で見降ろしている。


「日葵の一生は今回で20回目ぐらいだよ」

「お願い!お願い!!あ、お土産持ってきたけどいる?」

「霧島さんに電話してくるから大人しくしてて」

「あー!冗談!冗談だから!お願い!!後でちゃんと連絡するから!」


正直ここまで来てしまったからにはもう後戻りは出来ない。

 本人が無事であることは護衛の霧島も把握しているはず...となればここは比較的安全な自分の家に連れていくしかない。


「はあ...相変わらず詰将棋が上手いこと」

「なんのことかなー?」

「帰らないといけないから、四宮局長には報告するよ?」

「あ、うん。そろそろ大丈夫だと思うから私も雅ちゃんと帰る時に連絡するよ」


そろそろ...という言葉に引っ掛かりつつ、羽ケ崎は三島に自分の車を表に出して運転を頼む旨を伝えて四宮局長に電話をかける。


「四宮局長、羽ケ崎です」

『羽ケ崎くんか、すまない今ちょっと取り込み中で急用でなければ後で――』

「急用ではありますが...どうかされました?」

『結良警視監が避難が必要をする事態になってしまって避難先に向かっている途中に乗っている車が爆破して...だが、乗っていたはずの警視監はどこにもいなかったんだ』

「...」


羽ケ崎は四宮局長の言葉を聞いてそのまま結良に視線を向ける。

 彼女はかなり下手な口笛をしながら視線を逸らしているが、車に何かしらの仕掛けがされたことを気づいていたのだろう。


「四宮局長、その話をされたってことは今この回線保護されてますか?」

『君との会話はいつもそうしてるよ。で、そちらの急用は?』

「結良警視監が今隣いらっしゃいます」

『そうか、警視監が隣に...羽ケ崎くんと同期だったから――ええ?!?!』


いきなりの大声に羽ケ崎は電話から耳を離して再び当てる。


「つい先ほどいきなり来所されまして...家に泊めろと仰るので溜まっている代休を当ててください」

『はあ..........いや、代休は当てられない。せめて護衛の霧島さんがそちらに到着するまで君が一時的な護衛役だ...頼んだぞ』

「はい、ではまた後程」


電話を終えた羽ケ崎は大きなため息をついて結良を見つめる。

 本人は持ってきたカバンに歯ブラシセットや化粧セットがあることを確認しながらウキウキしているため、車に仕掛けがあると気づいた時点からそれを口実に逃げ出してお泊り会にするということは決定したらしい。


「私日葵のこと嫌いかも」

「え?!何で?!」

「自分の胸に聞いてみて」


これら全てに意味があると信じたい...そう思いつつ羽ケ崎は結良の手を掴んで応接室を出た。


※※※


「羽ケ崎さん...これパトカーじゃあなくて良かったんですか?」

「目立つからね...襲撃された時の耐久性は心配ないよ。私の能力があるから」


結良を乗せた羽ケ崎の車を運転するのは三島。

 そしていざという時手が使えるように結良と一緒に後部座席に座っている羽ケ崎は、隠せる範囲で完全武装済み。

 距離を離して尾長が追跡しており、現在いる第6班総出で出来る限りの護衛をしている。


「せっかくなら運転する雅ちゃんの助手席がよかったなー」

「狙撃されるでしょ。いいからちょっと姿勢低くして顔隠して」

「はーい」

「尾長さん、追手はいそう?」

『いえ、追跡するような動きをする車はありません』

「矢崎くん、情報は?」

『色々探ってみますが、結良警視監の安否が確認できるものはありません』

「2人ともそのまま行動は続行、それと静には連絡ついた?」

『はい、今学校から羽ケ崎さんの家に直行してます』

「到着したら家の前で待機してもらってて」


素早く護衛作戦を立て実行する羽ケ崎の行動力に結良が改めて評価を高めるが、本人の顔が見えないように頭を抑え込む羽ケ崎。

 これまでにない大物の警護に緊張する三島だったが、問題なく羽ケ崎の家まで運転の任務を完遂する。


「(運転してて今まで一番緊張した...)」


無事駐車場についた時三島は大きく一息ついて安心する。

 そして先に降りた後、入り口付近で待機していた静を呼んで車の近くに戻る。


「静、このリストにあるものを作ってこの人を変装させて。家に一緒に入ったあと変装に使ったのは全部元に戻してね」

「は、はい!」


静は手早くリストにある変装道具を作成し、そのまま結良警視監と着替え――尾長と静...そう見えるように変装した。


「でもこれ生体認証でバレるよね?」

「管理の人が私たちが通る一瞬だけセキュリティーを切ってくれるようにしてます。出る時は警報なりますがその時のことは考えなくていいでしょう」

「用意がいいね!よし、それじゃあレッツゴー!」

「三島くんは悪いけどここで解散、どこか離れたところで尾長さんに拾ってもらって」

「了解です。尾長に変装させてたのはそういうことだったんですね...」

「そういうこと。あとの辻褄が合わせの行動は作戦通りに」

「はい!」


三島と別れて結良、静、羽ケ崎はマンション内部に入る。

 三人が通過すると、羽ケ崎は監視カメラに特定のハンドサインが映るように歩き、そのまま自分の部屋に向かった。


「静本人の負担は大きくなるけど、物資補給のために誰か来てもらう必要が全くなくなるから、侵入リスクは極限まで減らせるようになる」

「は、はい!」

「この子が例の...確かにじゃんけんで先出で全部の手出せるようになるよね」


エレベーターが到着すると、羽ケ崎の部屋に向かい、安全確認をしたのち全員が入る。

 入った後、静が能力でドアを変換し内側を全て特別な合成金属に変換する。


「はあ...はあ...」

「静、時間はあるから少しずつでいいよ」

「いえ...一旦扉の部分だけでも――」

「一旦それでいいよ。回復するまで私の部屋で籠城すれば私の能力でなんとか出来るから」

「すみません...」


羽ケ崎は全員を連れて寝室に向かい、静はそのままベッドに寝かせた。

 と、一息ついたところで結良を睨み大きくため息をつく。


「私、やっぱり日葵のこと嫌い」

「いや...うん...ちょっとは悪いとは思ってるよ...」

「ここまでしたんだから。うちの班にご褒美はくれるんだよね?」

「も、もちろん!」


静の消耗具合を見て流石に反省した結良。

 一度正座させて説教をしようと思った羽ケ崎だが、彼女がここを非難先に選んだ理由を少しずつ理解し始めている。


「そろそろ種明かしてくれない?レイヴンメンバーを何かに使ってるでしょう」

結良(ゆうら) 日葵(ひまり) 能力-女王のお願い(クインズオーダー) 災害指定特異5級


対テロ専門部隊:急襲隊(レイヴン)

所属メンバー7名

霧島(きりしま) 京華(きょうか) 通称 きーくん 特異1級能力者

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