-1- 能力社会
赤い髪を後ろで綺麗に束ねた女性が、警察署内を歩く。
入館証には羽ケ崎 雅の名前が印字されおり、外見からはまだ大学生ぐらいに見えるが、立派な警官らしい。
廊下を通る中、すれ違う人々から深々と礼をされ、皆尊敬の眼差しを送っていた。
そんな彼女は局長室に入ると、敬礼をした。
「四宮局長、特殊犯罪対策第1課、第6班、班長羽ケ崎本日帰還致しました」
彼女はとある事件にを解決するため、隣県に派遣されていた。
四宮と呼ばれた若い男性は羽ケ崎に敬礼を返し、席を立つ。
「ご苦労様。報告書は後日――」
「出勤時提出しております」
「相変わらず仕事が早いね...助かるけど体は大丈夫なの?」
「私の能力だとそう怪我をすることはありませんので」
能力社会、誰もが特殊な能力を持ち大小様々なトラブルが絶えないこと世の中で、
警視庁特殊犯罪対策課は能力犯罪に対処するために3年前に新設された。
1課から5課まである中、選りすぐりのエリートが集まるのが第1課...その中でも羽ケ崎は3年前に起きた国会テロ事件の犯人逮捕に大きく貢献した警察官たちの英雄である。
「代休申請は終えたかい?」
「まだ仕事がありますので申請は来月――」
「君、そういって使ってない代休めちゃくちゃ溜まってるんだからね。いい加減私が怒られるからそろそろ取ってくれない?」
若干青筋を立てながら怒りを抑えている局長の言葉に、羽ケ崎は咳払いをした。
特殊犯罪対策課に配属されて早3年...休みを取ることをかなり疎かにしてせいで、局長がかなり怒られているのは知っていた。
羽ケ崎も班長という立場で、目まぐるしいことはあったが...必要以上に休みを取ることを避けていた。
自分のわがままで局長にあらぬ噂が立つのは避けたいと思った羽ケ崎は――
「午後から半休を頂いても?」
「いいよ、あと1か月以内に3日消化しないと怒るからね」
「善処致します」
羽ケ崎の言葉に深くため息をついた局長は、敬礼したのち退室しようとした彼女を呼び止めた。
「まだ、あの夢を見ているの?」
「...」
扉に手をかけた羽ケ崎がピタリと止まった。
しばらく沈黙が続いたが、振り返った彼女は告げた。
「私はどうしても救えなかった命を数えてしまうんです」
局長室を後にした彼女に、局長は大きくため息をついた。
3年前に起きた日本史に残る大テロ事件...国会テロ事件では死者400人越え。
犯人は国会中に議事堂にいた全ての人を人質として立てこもり、生中継を切断させずに議員を順番に呼び出し殺害した。
前代未聞のテロ事件に日本は大混乱に陥り、各地で暴動や模倣するよなテロ事件が横行し、日本という国の崩壊が見えた時代だった。
だが、意外なことに悪いことばかりではなかった。
国を動かす中心人物が総入れ替わりになり、前例のないスピードで復興が進んだ。
今まで曖昧だった能力使用に対する法律が大きく変化し、それにより能力犯罪の取締りを専門とする警察官が増えた。
悲惨なテロ事件と、各地で起きた事件で法改正などがスムーズに行われたことで日本はもう一度国という形を取り戻した。
「救えなかった命...ね」
当時、能力犯罪が横行する中で中々法改正がされない現状で国に対しての国民からの評価はどん底だった。
テロ事件で亡くなった人達を追悼するどころか、犯人を英雄視する意見が多く。
犯人逮捕に大きく貢献した羽ケ崎はネットで住所を晒され、毎日嫌がらせと心のない言葉を浴びせられた。
それでも彼女は職務を続け、あの日助けられなかった人達の悲鳴が悪夢となって鳴り響いている。
警察という組織も大きく変わり、濁っていた水も流れるようになった。
そうなったのは間違いなくテロ事件に起因するため...警察の中でも意見は大きく分かれるこの問題。
事件から3年以上たった今でも、羽ケ崎は問題に直面したばかりだ。
※※※
特殊犯罪対策課は各地域に班を配置し、特赦な能力犯罪が発生した際の応援要請に対応する形で運用されている。
特殊犯罪対策課第6班は都市部から少し離れた地域を受け持っている。
「あ、班長!お久しぶりです!」
事務所に入ってきた羽ケ崎を見て、真っ先に挨拶する金髪で背の高い女性。
髪にウェーブをかけていたり、ネイルや服装なども雑誌に載ってそうなモデルが着るもの。
とても警察官と思えない人物だが、この女性は特殊犯罪対策課第6班に所属しているメンバーの一人。
「尾長さんお久しぶり。留守中は大丈夫だった?」
「バッチグーですよ~班長、今度美容室いくから代休取らせてくださいね!」
「了解、午後から半休とったから、このあと出して置いて」
尾長 唯特殊犯罪対策課第6班に所属している能力者である彼女は、厳密にいうと警官ではない。
能力犯罪に対して応援要請があった際、班長である羽ケ崎監督のもと能力の使用が許され、一時的に警察官相当の権限を執行できる職員たち「ブリンガー」である。
ブリンガーたちには独自のルールが適用されるため、羽ケ崎のように制服を着なくても問題なく、頭髪や服装などの身の回りから、就業時間などの勤務体制まで色々と融通が利く。
「班長書けましたのでコーヒーと一緒に置いておきますねー」
そんな尾長の能力は物体移動、羽ケ崎の机にゆっくりとコップと書類が置かれたが、当の本人は少し離れた給湯室で自分用のコーヒーを入れている。
自分を中心として周囲50mぐらいの無機物を自由に動かすことが出来る。
生命体などに関しては範囲が狭まり、自身から2~3m範囲ないでないと能力は適応されない。
「ありがとう、他のメンバーは?」
「矢崎くん2階ですよ~班長のいう通り朝礼は顔出したますので、大丈夫です」
2階の一角に設けられたサーバー室では、矢崎 智也というブリンガーが勤務している。
彼の能力は意思伝達独自のテレパシーを構築、共有できる情報は音声のみならず対象者が感じた五感全てと、対象者がいる地点を第3者視点で感じ取り、能力の共有対象たちに伝えることが出来る。
能力で指定できる共有対象は最大50名、共有できる情報は電子媒体などにアウトプットできるという非常に優れた能力だが...本人がとても人見知りかつ、コミュ障なため落ちついた環境で能力を最大限発揮できるように2階の一室をまるまる使用してもらっている。
「三島さんは見回りで、静ちゃんはテストで午後から出勤です」
三島 陸は羽ケ崎と同じ警官で、能力は指定発火は炎を出したり、既にある炎を操る能力だが、三島が能力で出したもの、能力の対象として操っているものは三島が指定した意外のものを燃やさないという特徴がある。
炎を出し過ぎると体温が著しく低下してしまうため、既存にある炎を利用することが多い。
そして現在学校でテストを受けている最後のメンバー、早見 静は高校2年生であるが、能力の高さが評価され特例でブリンガーになった人物。
能力は 物質変換 触れた物質を別の物質に変換できる能力であり、元の大きさより大きいものには変換することは出来ないが、変換する対象に制限はない。
一度能力で変換されたものは元には戻らず、本人は能力を使用していなくても常にエネルギーを消費ししており、日常生活でも高カロリーの携帯食料を持ち歩くため、連続しての使用は難しい。
「了解、静の顔を見たら退勤するよ」
「静ちゃん喜びますよ~班長がいないからすごく寂しそうでしたし」
給湯室から戻った尾長が嬉しそうに告げると、羽ケ崎は提出された書類に押印し、自分のPCを開いた。
数分後、見回りに出ていた三島が戻ってくると、羽ケ崎がいる事に気づいて近づいた。
「あ!羽ケ崎さん、お疲れ様です」
「留守の間ありがとう、三島くん」
「いえ、これぐらい朝飯前です!」
黒い髪と顔の頬に大きな傷がある好青年の三島は、体格もよく、笑顔がとても素敵な警官。
見回りなどでも市民との交流を欠かさないお手本のような警察官であるが...その熱い心が早見から暑苦しいと嫌われている。
「今日午後から半休取ってるから、悪いけど午後からもお願いね」
「了解です。四宮局長から怒られたんですか?」
「まあ、そんなところ...代休も消化しないとまた怒られそうだし」
「羽ケ崎さんは働きすぎですよ。たまには旅行とかいいんじゃあないですか?」
「まあ、考えてはみる」
羽ケ崎の返答に苦笑いする三島と尾長だったが、旅行という言葉で羽ケ崎は思い出したようにカバンから出張のお土産を取り出す。
「忘れてた...これ、お土産」
地元の特産品らしきお菓子や木彫り人形などが多く出てきて、驚いている2人だが。
これら全てを羽ケ崎が購入したわけではない。
とある事件を解決したお礼にと市民から渡されたものだった。
羽ケ崎は1週間前、地方の銀行に立てこもりした事件を解決するために向かった。
銀行内部の様子をネットで中継し、要望に答えなければ人質を処刑すると脅してくる犯人。
突入隊を待機させた羽ケ崎は、犯人が要求する金品を渡すための警官に成りすまし、能力の適応範囲まで近づいた。
羽ケ崎の能力は 靭性変化 触れたものの硬度と強度を自由に変化される能力...恐るべきは能力操作の異常なまでの緻密性。
触れた物質を伝って100m範囲内の物質の強度を自由に変化されるが、伝っていく物質は変化させず、ピンポイントで対象の物質のみを変化させることが出来る。
この能力で恐るべきは回避することが不可能という点、生命体には適応されないが人間は必ず衣服を身に着けているため、それを硬化されてしまうと身動きが全く取れなくなる。
犯人の衣服を硬化したと同時に銀行のドアに設置されていたバリケードを破壊し、待機していた突入隊は人質の安全を確保。
石材で出来たものを自由に変化させる能力を持った犯人は、周りの地形を変化させ脱出を試みたが、羽ケ崎の能力の前に全て崩れ落ちてしまい失敗。
あっけなく逮捕され、昨日のニュースに流れた。
「最近増えましたよね、ネットで中継しながらの犯罪」
「大本は3年前の事件の模倣だと思いますけど...最近SNSで犯罪すれっすれの行為を配信するのが流行ってるせいですかね~」
国会テロ事件はかなりの衝撃を与えたもので、今でも模倣するような犯罪は後を絶たない。
その中で、SNSで犯罪行為を中継ことが流行ってしまっている状況...特殊犯罪対策課の悩みは絶えない。
「不安なんだよ。みんな」
お土産を選んでいた2人に、羽ケ崎はそう告げた。
「みんな不安だから、自分にも力がある、出来るって誇示したいの」
国会テロ事件以降、行政は大きく変化した。
それに伴い市民の生活も大きく変化し、みんな戸惑っている。
「少なくとも、私はそう思う」
そう告げた羽ケ崎はコップを持って給湯室に向かった。
そんな彼女に2人は笑顔を浮かべる。
「班長私この木彫りがいいです!」
「羽ケ崎さんせっかくなら一緒にお茶菓子頂きましょうよ」
この人の信じる道を一緒に歩みたい...この特殊犯罪対策6班は皆そういう思いを抱いて集まっている。
※※※
お昼休憩を少し過ぎた頃、事務所に空色の髪を持った一人の女性が入ってくる。
近くの住吉高校に通う早見 静は入り口にある認証システムにICカードかざし、内部に入るための指紋を認証を行なう。
「おはようございます」
出勤記録を終えた早見が事務所に入ると、尾長が手を振って挨拶した。
そして、お昼のニュースを見ている羽ケ崎を指さして笑顔を見せる。
「静ちゃん、班長いない時寂しそうだったよね~」
「そ、それは...」
顔を赤くしながらも尾長に連れられ羽ケ崎の前に来た早見。
彼女に気づいた羽ケ崎はテレビから視線を離して向き合った。
「ただいま、留守の間ありがとう」
「ブリンガーとして職務を全うしたまでです」
羽ケ崎は照れる静の頭を優しく撫でた後立ち上がってお土産を渡した。
「静にはこういうのがいいと思って選んでみた」
少し前に流行ったご当地キャラクターのぬいぐるみを手にしている羽ケ崎に、静は嬉しそうに笑いながら受け取る。
「羽ケ崎さんこれもう古いですよ」
「若者の流行りはよく分からない」
羽ケ崎をからかいつつも、ぬいぐるみを受け取って喜ぶ早見。
その様子をみて安心した羽ケ崎はカバンを持って席を立つ。
「予定どおり午後から半休だからまた明日、三島くんあとは任せた」
「了解です、ゆっくりお休みください」
「またねー班長!」
「お、お疲れ様です」
班員と挨拶を終えた羽ケ崎はそのまま帰路についた。
早見は少し残念そうにしていたが、自分が来るまで待っていてくれたと考えると少し嬉しくなり、ぬいぐるみを抱えたまま席に着いた。
「三島さんメール見ました?」
「どのメールことだ?」
「PSSチョーカーの件ですよ」
personal safety societyの頭文字をとったPSSチョーカーは旧体制の時に能力犯罪に対しての解決策として開発された装置。
首輪型の装置は能力の使用を妨害し、無理やり能力を使用した際に末端の痺れ、強い吐き気、強い眩暈を引き起こし、特定のコマンドを送信することで装着者を気絶させることが出来る拘束具として開発された。
だが、旧体制の国会では全国民に着用させるという政策が打ち出され、3年前の国会テロ事件の直前に予算案が与党の賛成多数で可決された。
無理やり予算案が可決され、議事堂内部が混沌としている中...国会テロ事件は起き、PSSチョーカーの開発及び量産は事実上の白紙へと戻った。
「PSSチョーカーのプロトタイプから改良されたものは刑務所で使用されてるっというのは聞きましたが...今更警察になんの通達が来たんですか?」
ぬいぐるみを触っていた早見が不安そうに口にすると、尾長はタブレットを浮かせて早見の前に差し出した。
そこには一部警察官にPSSチョーカーを使用しての犯人確保を許可する旨が記載されている。
「実をいうと、班長もしくは班長不在時には代理の警察官がPSSチョーカーを所持しているの。今だと三島くんね」
「ええ...」
「ドン引きするなルールなんだから」
「能力犯罪は日に日に凶悪になってるし、現場で犯人を取り押さえ出来ない時のための保険だけどね」
「やむなく使用した場合でも経緯を説明する文書から始まって書類で山が出来るほど後処理がめんどくさいけどな」
PSSチョーカーは改良され、身体能力を阻害せず能力を封じる方向に進化している。
だが、能力という根本的謎を人類はまだ解明出来ていないため、それに付随する身体能力を阻害する方法でしか能力を封じることが出来ない。
明らかに人道的ではない装置に刑務所での使用に対しても反対の声は多く、犯人確保のための使用にも疑問の声が多い。
「まあ、使わないで済むことを願うばかりだ。俺もコーヒーを――」
三島が席を立った瞬間、事務所の隅に設置されていた赤いLEDライトが光りだし、警報が鳴り響く。
それと同時に、TVの画面が切り替わり駅前で行われているデモ活動の様子が中継される。
『こちら矢崎..警邏中の警官より応援要請。本日11時から開始されたデモ活動が許可されていない進路に進もうとしたため、警官が注意したところ能力を使用して暴れ出したとのことです...』
「了解、尾長パトカーを表に回せ」
「はーい任せて!」
「早見、腕章つけて先に表に行っておけ、矢崎は能力で全員を繋いでおけ」
「は、はい!」
『了解です...』
一瞬で緊迫した空気になった事務所内、矢崎の能力が全員に適応されたことを確認した後、助手席にのった三島が無線で連絡する。
「こちら第6班副班長三島、現場に急行中。同行ブリンガー2名、尾長 唯、早見 静の能力使用及び容疑者確保の許可求む」
『こちら本部オペレーター、三島巡査部長からの要請を確認。同行ブリンガーの能力使用及び犯人確保は許可されました』
『三島さん..現場の警察官2名が負傷したと連絡がありました...デモに参加していた人の一部と一般市民を巻き込んで現場はかなり混乱しているとのことです』
「矢崎了解、現場には5分以内に向かう。尾長もう少し飛ばせ」
「ガッテン承知!」
サイレンを鳴らしたパトカーは速度を上げ、三島はスピカーで進路を譲るように要請する。
スムーズに道を進んだパトカーは応援要請から7分後に現場に到着、警察官数名がデモ隊を取り押さえているが、まだ数名と交戦が続いている。
「尾長、早見、一般市民の避難誘導及び安全確保」
「「はい!」」
パトカーから降りた早見は見物している一般市民に声をかけ避難するように呼び掛ける。
「撮影はやめて避難してください!」
「ちょっネットに上げたらパズるから邪魔するなよ!」
「押さないで!」
「ちょあの人やばくね?」
「怪我人が!救急車を呼んで!!」
市民は混乱しており、早見の声も届かず...そこで彼女は壊された三角コーンを触り能力でメガホンに変換する。
「市民の皆さん!ここは危険です!ライトが照らす方向に慌てず避難してください!」
続けて早見は散らばっていた小石をライトに変換し、尾長はそれを能力で浮かせ避難路を作る。
2人は矢崎の能力であるネットワークでいつでも意思疎通が出来ているため、完璧な対応を行なえる。
一方でデモ隊の制圧を始めた三島は、持ち前の身体能力であっという間に1人を確保。
続く身体能力を強化するタイプの能力者も関節技を決めて確保する。
「くっ!!なんで俺の方が強いのに!!」
「力任せにしたって人間の関節は曲がる方向にしか曲がらない。大人しく署まで同行願うぞ」
2人の現行犯を確保したところで、市民の避難が概ね完了。
三島は一般の警察官を下がらせ、尾長を呼んだ。
「早見は負傷者の応急手当を、尾長ちょっと手伝ってくれ」
「了解!」
一般警察官と合流した早見は、破壊された残骸などを包帯等に変換し応急処置を開始。
尾長は三島と合流して未だ暴れている体が棘を出す能力者の確保に進んだ。
「包帯です。次のものも作りますので」
「早見さん顔色が悪いですよ」
包帯を作成した早見の顔色が悪いことに気づいた警官が早見の手を止める。
警察官全員が早見の能力を知っているわけではないが、誰からみても今にでも倒れそうな顔色をしている。
能力は生命活動に必要なエネルギーなど考慮してくれないため、消費が激しいと早見の命が危険となる。
「早見さん一旦休んでください、何か必要なものは?」
「すみません..携帯食料があるので食べてちょっと休めばすぐ次が――」
早見がポーチに入れていた携帯食料を取り出そうとしたその時――負傷者に紛れていたデモ隊の1人が立ち上がり近くの女の子を抱きかかえ人質にとった。
「ふざけんな!能力は身体と同じ!お前らがやってるのは身体を制限する非人道的行為だ!仲間を返せ!」
「落ち着いて!その子を離しなさい!」
デモ隊は体の一部を刃物に変えることが出来る能力者...片手を刃物に変え周囲の警察官を脅しながら捕まっているデモ隊の方に近づく。
「くっ...」
どうにかしようにも女の子に危険が及ぶ可能性がある以上手が出せない。
三島や尾長ほどの経験値なら人質関係なく犯人を制圧できるが...正式にブリンガーになって経験が浅い早見では状況判断が上手く出来ず人質を危険に晒してしまう。
必死に犯人だけを制圧する方法を考える早見だが、警察官に捕まったデモ隊手錠を解除するように要求する姿を見ることしか出来ない。
その時――ネットワークを通じて声が聞こえた。
『テーザー銃、3カウントで犯人に向かって撃って』
早見は自分のポーチをテーザー銃に変換し、犯人に撃つ。
見事命中し、犯人は悲鳴をあげながらその場に倒れ激しい痛みに悶絶している。
人質だった女の子は羽ケ崎が抱きかかえており、羽ケ崎が銃を撃つ前に犯人の衣服の高度と強度を増加させ動きを完全に固定――テーザー銃が命中する瞬間にだけ衣服の強度を劣化させ、反対に女の子の衣服は高度だけを増加させ怪我がないように対処した。
無傷で女の子を素早く確保した羽ケ崎は女の子を降ろして頭を撫でる。
「よく頑張ったね。怪我はない?」
「うん!お姉ちゃんありがとう!」
「羽ケ崎さん!」
女の子を警察官に任せた羽ケ崎は、近づいてきた早見の頭を撫でた。
「100点満点、しかもちゃんと教えた威力が制限されたモデル」
「は、羽ケ崎が教えてくれたので...」
気が抜けた早見は、連続しての能力使用が負荷となりその場に倒れ込む。
咄嗟に羽ケ崎は早見を抱き寄せ、彼女が持っていた携帯食料を開ける。
「ごめん、無理させた...ちょっと休んでて」
「いえ...私が不甲斐ないせいで...ごめんなさい」
羽ケ崎に抱きかかえられて、パトカーに入った早見は携帯食料を食べながら頬を赤くした。
そんな彼女を安心させるよううに羽ケ崎はゆっくりと早見の髪を整えてあげた。
犯人の制圧を終えた警官の1人が羽ケ崎に近づき啓礼をする。
「羽ケ崎班長、いらっしゃったんですね」
「ほんとは午後休だったから帰るところだったの...まあ、たまたまって感じ。だから制圧は手伝わないよ」
「いいんですか?その..三島さんと尾長さんだけで...」
「まあ、見ててよ。うちのメンバーの実力を」
体から棘を出している犯人は予想以上に厄介だったが――三島が一瞬尾長の方を見ると、ネットワークで作戦が伝わった尾長が瞬時に犯人にサイコキネシスを発動する。
体から棘を生成したが、体から棘が離れない犯人は次の棘を出すことが出来ない。
「なっ?!」
体から生えた棘は能力としては無機物判定であるため、尾長は棘を固定させることで離れていても犯人を確保することが可能。
その隙に三島は近くのガードレールを掴んで瞬時に炎で溶かして変形させ犯人を拘束する道具にする。
「ちょっと荒っぽいですが大人しくしてくださいね!」
三島は動けない犯人に対して体を覆うように鉄線を巻きつけ拘束...能力によって持たされた熱は鉄だけを熱し、犯人は一切火傷や負傷をすることなく拘束された。
「尾長ありがとう」
「いえ、三島さん能力の精度上げましたねーカッコイイ♪」
尾長も犯人の体の棘を利用して動けないように操作できるまで力をつけていたが、本人は努力を他人に見せない性格...そんな2人に後ろから近づいた羽ケ崎はゆっくり肩を叩いた。
「羽ケ崎さん?!」
「お疲れ様、こっちはやるから。三島くん、静がちょっと消耗気味だから見てあげて」
「りょ、了解です!」
三島を静のところに向かわせた羽ケ崎は犯人を立たせ、尾長と一緒にパトカーまで連行した。
すると、犯人は羽ケ崎の顔をみて唾を吐きかける。
「この英雄気取り偽善者が!お前は変革をもたらすはずだったあの方を犯罪者にしたてあげたんだ!」
3年前...テロの犯人を捕まえ法的に裁く機会を与えた羽ケ崎。
本人も大けがをして生死をさまよったが、混乱した世間からは称賛の声は無かった。
そして...体制が大幅に変わった今なお...こうして羽ケ崎を罵るものは多く存在している。
「お前――」
犯人の行動に一瞬で怒髪天を突かれた尾長は穏やかな普段とは全く違う殺気の満ちた表情を向けた。
ブリンガーとして第6班に所属することを強く望んだ尾長――それは誰でもない羽ケ崎を強く信頼し、恩義を感じていたから。
尾長にとって羽ケ崎は家族以上に大切な存在...そんな人に唾を吐かれて笑顔を浮かべていられる程、尾長は優しい人間ではない。
手が出そうになる尾長を下がらせ、羽ケ崎は犯人を立たせて話す。
「私は英雄でも偽善者でもないただの警察官です。そしてあなたはデモの進行が許可されていない道に進み、止めた警察官に怪我を負わせ、一般市民にも被害を出した。だから私が捕まえました。そこに善も悪もないですよ」
何事も無かったかのように頬にかけられた唾を拭いて犯人をパトカーに押し込める羽ケ崎。
中にいる警官と少し話をした後、パトカーから離れた彼女に尾長が近づく。
「あ、あの...」
「尾長さんが私のために怒ってくれるのは嬉しいよ。でも――仕事は仕事だから」
羽ケ崎は少し背伸びして尾長の頭を撫でた。
傷だらけのその手を尾長は3年前からよく知っている――尾長は、3年国会テロ事件に巻き込まれた。
議事堂近くで母と一緒に父を待っていたため、人質として取られ目の前で父を殺された。
警察が突入して犯人たちと交戦し、重症を負って今にでも倒れそうな羽ケ崎が尾長を救い出した。
その時も...尾長の頭を優しく撫でてこう言ってくれた。
「我慢出来て偉い、よく頑張ったね」
父は国会テロ事件で処刑された議員の秘書だった。
テロ事件で処刑された人は悪という風潮が出回り、父を侮辱され、父の死と嫌がらせに耐えかねた母は自殺...尾長は1人戦い続け羽ケ崎の班にたどり着いた。
「ごめんなさい、ちょっとお化粧崩れて嫌な気持ちになりました♪切り替えないとですね!あ、私も静ちゃんのところに行ってきますね!三島さんがさつだしすぐあの2人喧嘩するから~」
今の表情を悟られないように尾長は後ろを向いて走り出した。
それを止めることなく羽ケ崎は微笑みながら腕を組む。
「全く...相変わらず照屋さんだね尾長さんは」




