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5.逃走と敗北

また月に一度の慰問訪問の日がやってきた。前回同様、子供達に教育を施していく。


実は数日前から魔法を教えている。

きっかけは日課と化していた魔力消費がバレたことだった。それから「やりたい!やりたい!」の大合唱だ。


熱量に耐えかねて大人達に内緒を条件に基礎から教えているが、グングン吸収していて下級魔法を発動できる子までいるくらいだ。



でも、今日だけは発動を禁止している。

特権を奪う行為がバレたら何をされるかわかったもんじゃないからだ。最近はずっと魔法ばっかりだったから、将来の為に読み書きもやらないといけないよと言い聞かせた。


希望者が地面に文字を書いてそれを僕が添削する。算術をやっている子には簡単な問題を出して答えを書き終えたら、採点する。


必死に毎日学べばそれだけ習得していく。どんどんできることを増やしていくところを見ているのはとても楽しいし、自分も嬉しい。


魔法も、教えたい便利なのがたくさんある。まずは基礎を固めて、それから…。




「ユリウスって、君のことかな?」


聞き覚えのない男の子が僕に呼びかけている。

振り返ると皺ひとつない綺麗な衣装の男の子を先頭に、アマーリエと雰囲気の似た女の子がいて。


その後ろには数人の子供たちが半泣きでついて来ていた。

一体、何があったのか。


「はい。ユリウスと申します。彼らが何か粗相をしましたでしょうか?」

「子供らしくないね」


そりゃ、中身は成人してるんで。あと、君もね?


とは、口が裂けても言えないな。


「それはそうと。君、魔法が使えるんだね」



…はあ。終わった。

チラリと視線を動かせば、子供達が肩を揺らした。うちのふたりは声を上げずに涙を零し始めた。


僕、そんなに怖い顔したかな…。


「責めないであげてよ。彼らが魔法の話をしていてね。気になって見せてもらったんだ」


あれだけ言い聞かせたのになぁ。


「…孤児院に連れられる以前に学んだことです。貴族の特権を主張されるというのであれば、今後一切他者に教える事は致しません」


僕の言葉に小さな悲鳴が上がる。遊んでいた子達は特に魔法が好きだった。自分達の行いで道が閉ざされる。それがどれだけ苦痛なことか。


「そうだね。彼らの身を守るという意味でもやらない方がいい」


でも。それが貴族だ。

この男の子はその中にあってむしろ寛容と言って良い人格者だ。子供なのに人が出来てる。


「お気遣い感謝致します」

「いいよ。領民だから。…でも君は、違うよね?」

「…どういう意味でしょう?」


つぶらな瞳がスッと細められる。その表情は僕の狭い世界で見てきたどの大人よりも大人だった。


「その年で魔法を教えられるほどに優秀な君を、僕に紹介されないはずがないんだ」


確信を得た、勝ち誇ったような表情。

数多くの魔導書を抱え込むことができるのは、王侯貴族か精々大商人くらいだ。大商人ともなると、貴族の御用達がほとんど。さらに年が近いとなると、面通りしておくのが礼儀だ。


「君は、何者なのかな?」


貴族には貴族の繋がりがある。このままだと僕はあの邸に連れ戻される。




…逃げよっか。


「【飛翔】」

「「「…!?」」」


一向に返答しない僕を怪訝な表情で観察する彼らの頭上を飛び越える。

門さえ潜ってしまえば、追ってくることは不可能のはずだ。


「セバス捕まえて!」

「御意!…【飛翔】」

「?!」


男の子が命令する前に執事らしい男が立ちはだかった。また頭上を飛び越えればいいと高度を上げたのだが、相手にも【飛翔】を使われてまんまと足首を掴まれてしまった。


地面に引きずり降ろそうとする執事と振り払おうとする僕とで膠着状態に陥った。


「【風】」

「う、わ…!」


執事が風を操って飛翔の妨害をしてきた。バランスを崩してもう片足も掴まれそうになったが、何とか回避する。


彼を排除するのは簡単だ。だけど、怪我をさせずに無力化する手段はあまり多くない。


それに子供達もすぐ傍に集まってきていて、院長先生も慌てて駆け寄ってきている。巻き込みたくない。

どうする…!


「降りてきなさい。悪いようには致しませんから」

「貴方にその権限がありますか?ないでしょう」

「大丈夫ですから」


見え透いた嘘を言うものだ。いち使用人にそこまでの権限が委譲されるわけがない。


ここから逃げた後、距離を稼がないといけないから魔力を無駄に使いたくない。

方法は浮かんでいる。ただ、周囲に人がいるためにやりづらい。


でも、視界の端に男騎士の姿がある。ゆっくりと背後から近づいて捕らえる魂胆だろう。

もう嫌だ。あの邸で一人、疎まれて過ごすのは。人のぬくもりを思い出してしまったから。


「【睡眠(スリープ)】」


魔法を発動した瞬間足首の拘束が緩み、抜け出した背後ではバタンと音がした。

盛大にぶっ倒れたっぽいけど、眠らせただけだから直に目を覚ますはず。チラッと見た所で子供達が巻き込まれた様子はなかった。


「こんの、ガキィィィッッ!!!」


執事がやられたことで騎士が鬼の形相で急接近してくる。

高度を上げて回避を試みる。早く早くと焦りが募っていく。


「…ァ、ぐ?!」


安全圏まで上昇したかと思いきや騎士は予想外の跳躍を見せた。突撃の衝撃を受けて二人まとめて地面をゴロゴロと転がる。


勢いを失って回転が止まってすぐに、痛みに耐えて懐から抜け出そうとしたが、背中から抑え掛かられて地面に縫い付けられた。


「お前。死ぬ覚悟はできてんだろうな?」


どうやら首に剣を添えられているらしい。子供相手に容赦がない。


「僕は何もしてないのに捕獲されそうになって逃げただけだよ。それの何が問題?」

「親父に何をした?」


あの執事の息子だった。髪色から何から何まで全然似てない。


「僕の質問に答えてよ」

「この世にはな、階級制度ってのがあんだよ。坊主」


平民は貴族に逆らえないってか。ホント、クソな世の中だよ。

でも僕は、その特権階級を捨てたいんだ。


「もう一度聞く。親父に何した?」

「ちょっと眠ってもらっただけ。すぐに…」


子供達の騒ぎ声が辺りに響いてまもなく執事の謝罪が聞こえてきた。


…起きるの早すぎない?2,3時間くらいは起きないはずなんですけど…。


「親父!大丈夫か?」

「問題ありません。それと、仕事中ですよ」


僕を放置して会話しないで欲しい。石の尖った部分がちょうど刺さってて痛い。


「さて。お話を聞かせて貰えますか?」

「君が魔法を使える理由を教えて欲しい。そして、なぜ逃げたのかも」


さっきの男の子の問う声がした。あくまでも主導権を握るのは彼のようだ。


「見逃してくれる気はありませんか?」

「ないかな」


即答かよ。


「魔法を乱発するって言ってもですか?」

「困りましたね。【牢獄(プリズン)】」


騎士が飛び退いて拘束が失せた代わりに、僕を魔力格子が取り囲む。

この魔法は内側からの魔法を無力化してくれる。もちろん捕縛にも向いている。魔力消費はそこまで多くなく、とても使い勝手のいい魔法だ。


あと。この執事、ずっと無詠唱で発動してる。そこそこ難易度の高い技術のはずなんだけどな。皇爵家は伊達じゃないってことなのかな。


一応、破壊する方法はある。けど、こうも囲まれた状態では危害を加えず逃げるのは難しい。


「黙秘権を行使させて頂きます」


とりあえずいい案が出るまで時間稼ぎでもしますか。

男の子は執事に助けを求めて振り返り、騎士も僕から視線を外した。


僕が【牢獄】を突破できないと思わせられたなら、折を見て逃げ出せそうだ。

時が来るのをじっと待つが、観察する限りチャンスが訪れるのはそう遠くなさそう。


「思い出したー!?ユリウス・カトル・ブルーグ・ウェントスだ!!!」


僕の本名を、知るはずのないアマーリエが叫んだ。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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