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4.ウェントザルア皇爵家

ユリウスが失踪した。

それが発覚したのはユリウスが邸を出てから一か月以上経過してのことだった。


「痕跡は?」


ウェントザルア皇爵家当主オスカー・ベルディア・ブルーグ・ウェントスが老執事に問いかけた。


銀髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ壮年の当主は、今もなお社交界で蝶に花にと色を送られる美丈夫だ。が、その端正な(かんばせ)の眉間には皺が寄っている。


「ございませんでした」

「いつからいない?」

「不明にございます」

「何故だ」

「使用人の誰もユリウス坊ちゃまの世話をしていなかったようです」

「つまり?」

「飢餓から邸を抜け出した可能性も、否定できません」


何一つとして腑に落ちない返答に深い溜息を吐く当主オスカー。その様子に老執事は背中に冷や汗を掻くと同時に、ユリウスの置かれた環境に怒り、その無事を願っていた。


「皇都中を隈なく捜索しろ」

「承知いたしました」


当主の命を受けて速やかに老執事は執務室を退室し、指示を振っていく。


ユリウスは奥様の忘れ形見。瞳も、髪も。顔立ちでさえ幼き日のウィントザルア皇爵夫人と瓜二つだった。


二年前までは老執事も気に掛けていたが、当主専属執事として忙しくなりずっと使用人任せにしていた。

それがこの始末。


老執事は静かな焦燥を抱く。

絶対に見つけ出さねばならない。奥様の為にも旦那様の為にも。




ユリウスが姿を消したことはウィントザルア皇爵邸の話題を掻っ攫っていった。

メイドも侍従も顔を青褪めている。私兵は既に捜索を開始していた。


(居ても居なくても気づかない人間なんて、探す意味があるのだろうか)


アレクシスの胸中には疑義が生じていた。彼は邸内の誰よりも逸早くユリウスの失踪に気が付いていたのだ。

しかし、その事実を故意に秘匿した。




母を奪われた憎しみ故に。




発見されないことを、帰って来ないことを願う。


(そしたら、母上のことを思い出さずに居られる)


アレクシスは安堵と不安の、相反する感情に身を焦がしていた。




時はさらにひと月が経過した。

ウィントザルア皇爵家は未だにユリウスの有力な情報を入手出来ていなかった。


「まだ見つからないのか」


苛立ち紛れにオスカーは吐き捨てた。

通常、皇国に四家しかない皇爵家子息の失踪に伴い、国軍を動かすことが可能だ。


しかし、今回に至っては捜索嘆願すらも出来ない状況にあった。


絵姿もなく、失踪日時も不明。確固とした情報となれば色味と年齢しか持ち合わせていないのが現状だった。これでは国軍を動かすなど到底無理な話だ。


そして、皇爵家にとっての育児放棄の実情を隠蔽したい思惑も合致した。


「申し訳ございません。ユリウス坊ちゃまの特徴が茶髪青眼だけしかないことも捜索を難航させております」

「よくある色だが、瞳は格別だ」


残酷だった。

今は亡きウィントザルア皇爵夫人の瞳と同様、海をそのまま切り取って嵌めたような神聖な瞳。


最愛を失くし、彷彿とさせる瞳の嵌まった赤子に愛しくも美しい思い出を想起させると共に憎悪が向く。

母親の死によって祝福されるはずの子供は忌むべき存在に成り下がったのだ。


「皇都に居ないとなると、誘拐されたか」

「しかし、身代金の要求がございません」

「世話をしていなかったのだろう。手入れされていない只の子供を貴族令息だとは思うまい。これだけ時間が経てば既に売り飛ばされた後だろう」

「…闇市を洗いますか?」


闇市は社会の闇が生み出した魔窟だ。何度摘発しようと幹部を捕縛しようと、結末はいつも蜥蜴の尻尾切り。


「ジャスミテス皇国全土となると広大過ぎる。皇都の捜査のみ続行する」

「…承知いたしました」


悩んだ末にオスカーが出した結論は無常だ。

これでは捜索の打ち切りではないかと、老執事は自身の不甲斐なさに下唇を噛み締めた。


(奥様が命を賭して産んだというのに。私には覆すだけの権限がない…)


これもただの言い訳に過ぎないと、老執事は理解している。






五年後。

法律に則り、ユリウス・カトル・ブルーグ・ウェントスは死亡認定を受けて貴族から除籍されるのである。

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