2.絶対ハーレム作ってやるからな…!!!
やって来ました!今世初の屋敷の外!
何もかもが新鮮で見ていて飽きない…!
やっぱり皇都だからか街並みがきれいに整備されていて心なしか街行く人々も生き生きとしているように見える。
僕が住んでいる屋敷は領地ではなく、皇都の貴族街に位置していて、今は商業地区を当てもなくブラブラと見て回っているところだ。
でも欲しい物があってもお金を持っていないから買えないんだよね。
…仕方がない。
「たっのしー!!!」
お金稼ぎの為に皇都から離れようと思い、魔法で空を飛んでいる。
皇都周辺は騎士団や魔法師団が定期的に魔物を間引いている為、お金稼ぎに向かないし、最悪屋敷の人間と顔を合わせてしまう。ならばいっその事、遠くまで旅行してしまおうと考えたのだ。
始めは【飛翔】という風魔法だけを使用していたが、風圧が凄過ぎて【風壁】も併用している。お陰で快適な空の旅が送れている。目的地は特に決めていないけど。
一応目印になりそうな街を記憶しながら進んでいるけど、帰りは既に迷子になる未来が見える為、良い感じに魔物が居そうな森を見つけてさっさとそこに下りる。
そして着地点から周囲を観察し、魔物が居る気配がない事を確認した後に森の散策を開始した。
初めての外出にドキドキとしながら慎重に進んでいくが、なかなか魔物に遭遇しない。
魔物は自分達の様に魔法を操る動物を総称してそう呼んでいるが、特にその実態は解明されていないのが現状だ。ただ魔物に共通しているのは、心臓の部分に魔晶石と呼ぶ魔力塊が存在するところと、普通の動物に比べて強靭なところだろう。だから、冒険者ギルドという魔物を専門的に狩る職業が存在しているのだ。
乙女ゲームのこの世界にもあると知った時は狂喜乱舞したけど、10歳にならないと仮登録も出来ないと知って落胆した。
だから絶対に、あの家から出た時は冒険者になると決めている。
だって、異世界だよ?魔物だよ?冒険者だよ?
気になるに決まっているじゃないか!!!
だからこれは将来自分が冒険者になった時の予行演習みたいなもの。なので早く出て来て下さい!良い感じの強さの魔物!
そう思っていると、微かに草木の擦れる音が聞こえた。方角は自分の斜め右後方。
ただの風で擦れた可能性が高いけど、音に若干の違和感があったから一応念のために【偽装】を自身に掛け、姿を消してその場に留まり、警戒する。
すると、音のした草陰から体長二メートル程の大きさの黒緑色の毛並みに鋭い爪刃を持つ狼が姿を現し、キョロキョロと獲物を探すような動作をしている。
「【風槍】」
その無防備な魔物の胴体に対して何の躊躇もなく攻撃魔法を放ち、風穴を開けて絶命させる。
前世と今世を合わせても初めての殺生。
でも、不思議と罪悪感も不快感もない。きっと、精神はこの世界に染まり切っているんだろうな。
でもこれで何も心配することなく、自分は強くなれる。
でも、次の魔物を探す前に自分のレベルが上がったのか確認しないとね!
「ステータス!」
ユリウス・カトル・ブルーグ・ウェントス
【Lv.4】
【HP:1987/1987】
【MP:14457/14487】
【ATK:163】
【VIT:84】
【AGI:45】
【INT:190】
【RES:96】
【LUK:18】
【CHA:8】
HPとかMPとか攻撃力とかが軒並上がってる!でも、運と魅力が低いままなんだけど?
子供だから足が遅いのは納得できるんだけど、せめて運と魅力はもう少し上がってても良くない?魅力なんてレベル1につき1しか上がってないよ?正気?
…まあ今、運と魅力があったら家族たちに放って置かれてないか…。
悲しい現実を目の当たりにして何だか気分が下がってしまった。
くそぉぅ!絶対にレベルを上げまくって、将来モッテモテになってやるからな!
今倒した魔物を【収納】へ突っ込み、また森を徘徊する。
欲に塗れまくった野望を胸に魔物を狩りまくり、最終的にレベル15に到達し、そこでレベル上げを止める事にした。
近くの街に行ってみる事にしたのだ。
来た時と同じように魔法で飛び、人に見られない所で着地してからは徒歩で門へ向かう。
何故なら余計な騒ぎを起こさないためだ。
この世界の識字率はあまり高くない。平民の子供は親の仕事や家事の手伝いをしているからだ。つまり、魔法を使う為の魔導書を読めないので、基本的に貴族か裕福な商人に限られる。
周囲の人がいないか確認をしてから街道へ合流する。そこからは他の人達に合わせて門前の列に大人しく並び、順番を待つ。
皇都以外の街ってどうなっているのかワクワクしながら待っていると、自身の順番が回ってきた。
「ようこそ!リクルスの街へ…って親はどこだ?」
門兵のオッサンは眉を下げて困った顔をしている。
子供の旅って確かにおかしいよね…完全に失念してたよ。
「えっと、僕だけです」
「そ、そうか…身分証は持っているか?」
街に入るのに身分証とかいるの?!
「…ないですね」
「そしたら銀貨二枚持ってるか?」
お金?!それも持ってないよ!
「ないです…」
「…それじゃ街に入れられないんだ」
「…そう、ですか。分かりました…」
…初旅行なのに開始半日立たずして既に暗雲が立ち込めているんだけど。
まさか街にすら入れないとは思わなかったよ。
ルールだから仕方ないよね。でもこのままだと、皇都にすら入れないんじゃ…。
自分がやらかしてしまったかもしれない事に気が付いて焦燥感が募る。
「俺がその坊主の料金払ってやるよ!」
「!」
突然の救いの声に振り向くと、全身を甲冑に覆われて身体ほどの大きさの大剣を背負っている濃い茶髪に緑目のおっさんだった。
その後ろにも仲間と思われるオッサンが三人。
「!デイビットさんじゃないですか!戻って来たんですね!」
「おう!良い感じに稼げたからな。で、坊主。名前は?」
「ユリウス、です」
「ユリウスか!オレはデイビット、よろしくな!」
「…ありがとうございます、よろしくお願いします」
見た感じ悪い人達ではなさそうだし、門兵と知り合いみたいだし、ありがたくお金を払ってもらおう。
オッサンたちが代わりに支払ってくれたおかげで門兵に通され、やっと門を潜ることが出来た。街並みは皇都とも違っていてその景色に目が奪われてしまった。
石造りの街並みは華やかさはないけど、外国っぽい感じがして何かカッコいいし、オッサン達みたいな鎧とか着けてる人が沢山歩いてる!本当に異世界って感じだ!あ!あれって何ていう武器なんだろう?どうやって使うのかな!
「坊主、あんまりチョロチョロすんな。迷子になるぞ」
「あ、ごめんなさい」
どこもかしこも目新しくてついつい視線を向けてしまって、デイビットに怒られた。
でも、今日が外デビューなので大目に見て下さい。
「んじゃ先にギルドに寄って宿に行くか」
「その前に。俺はマーク!よろしくな!で、あっちがロドスで、こっちがサイラスだ」
「よろしくお願いします」
明るい茶髪と茶眼で一番軽装なうえにチャラそうな見た目がマーク、くすんだ金髪に濃い茶色をした目で重装備に盾を背負っているのがロドス、赤茶色の髪に赤目の腰に剣を指しているのがサイラスだね。
ロドスとサイラスも「よろしく」と声を掛けてくれたので、ペコリと頭を下げておく。
でもそれよりも!
「ギルドって冒険者ギルドですか!」
「おう!そうだぞ!坊主も冒険者になりたいのか?」
「はい!」
「なら今から一緒に行ってどんなところか知っておけよ!」
「分かりました!」
異世界転生ド定番の冒険者ギルド!
最高ランクがアダマンタイトで、上から
アダマンタイトランク
ミスリルランク
プラチナランク
ゴールドランク
シルバーランク
ブロンズランク
アイアンランク
となっている。
アイアンは駆け出し、ゴールドランクにまで上がれれば一人前の冒険者、アダマンタイトに至ってはたった一人で国家騎士団に匹敵すると言われているほどだ。
因みに仮登録はストーンランクと呼ばれていて、基本的に12歳まではアイアンランクにすらなる事が出来ない。
だからストーンランクになるようなのはよっぽど冒険者に憧れている者か、スラムの孤児、困窮者くらいしかいない。
彼らがどのランクなのかも分からないが、冒険者というだけで輝いて見える!
それ程までに憧れている冒険者ギルドへ向けて足取り軽く進んでいくのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。