退場するちょい役モンスターですが、破滅する双子を幸せにしたい 下
趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。
コレにて完結!
「・・・・・・父さんと母さんを殺した怪異に似てるな。きっとあの時、俺に一部乗り移ったんだ」
その頃、双子は森の最深部まで来ていた。近くにあった小川から、玖炉はそっと自分の姿を見つめる。
ずっと祓い人として、人を苦しめる怪異と戦ってきたのに。自身に怪異が宿っていたとは思ってもなかった。彼の人生は、一瞬で変わってしまったのだ。もう祓い人としてはいられない、人里でも暮らせない。
それなのに隣にいる雌呂は慌てもせず、周囲に誰もいないか確認している。何度言っても、玖炉の傍から決して離れようとしなかった。
「玖炉、落ち着いた?」
「あ、あぁ・・・」
熱は無い?と玖炉の額をそっと触る雌呂。ただれた怪異の肌にも平気で触れることに、玖炉は戸惑いが隠せていないようだ。
「し、雌呂。変に触らない方が良い。半妖の俺といたら、お前まで苦しむことになる」
「玖炉が教えてくれたじゃん。意志のある怪異なら、むやみやたらに襲わない。怪異は暴れるから人間が不幸になるのであって、怪異自体は不幸を呼び起こさないんでしょ?」
「そ、そうだけど・・・」
「なら大丈夫。・・・そうだ、どうせならこのまま逃げようよ。あの家から逃げて、2人だけで暮らそう」
そっと雌呂は、玖炉の両手を握る。その笑みには、本気の目が含まれていた。
「何言ってるんだ、逃げるのは俺だけで良いだろ。お前まで辛い思いする必要なんか」
「玖炉のいない世界なんて、生きてる意味が無いじゃん」
これを心から真剣に言っているので、玖炉はこっそりヤキモキしている。雌呂は昔からこんな感じなのだ。長くあの屋敷で味方がいなかった挙げ句、玖炉に依存しているというか・・・。いやまぁ、そういう意味なら玖炉も同じ。いくら祓い人として活躍できても、雌呂がいなければ心が落ち着かない。
互いに失いたくなかった。
互いに、互いがいれば、それで良い。
「とにかく、早く逃げよう。誰かに見つかる前に」
雌呂の言葉の途中、彼の背後から現われた、巨大な複数の影。
正体は・・・屈強な盗賊達だ。彼らは抵抗する手段の無い雌呂を地面に押さえつけ、首元に武器を向けてきた。「お前ら、何を・・・!」と玖炉が立ち上がろうとするが、まだ目眩が治まらず、膝をつくしか出来ない。力を使おうにも、体が上手く動かない。
「無理や無理や、まだ毒の効果は続いとるやろうし」
盗賊達の裏から、おかめの仮面を被った人物が楽しそうに双子の前に来る。・・・・・・いや、仮面は被っているが、そのあじさい色の髪と声色で、すぐに誰か分かるのだが。
「・・・・・・は、晴日スミレ!?何で、盗賊と・・・・・・」
「いやー、一時期どうなるかと思うたけど。ウチはやっぱ運がえぇ、前世で徳積んだからやね」
おかめの仮面を横にずらし、スミレは満足そうな顔をあっさり出した。今まで任務にすら出てない祓い人で、常磐と恋仲になるほど悪い意味で有名だった彼女。不思議な喋りになっているが、これが本当の顔?まさか、悪徳組織の一員だったのか?
そんな玖炉のことなど助けもせず、盗賊達に向かってニッコリ微笑むスミレ。
「そんじゃ、そのアルビノはそちら方のお好きに使ってくださいませ。人売りに出しても構わへんと、向こうから許可出してもらったので」
「許可!?許可って・・・んぐぅ!?」
何かを聞こうとした雌呂に容赦なく、盗賊達は猿ぐつわをさせて声を封じた。「ふざけるな、何をしやがるお前ら!?」と、代わりに玖炉が彼らに対し怒鳴りつける。するとスミレはさっと、盗賊から受け取った刃物を彼の首に突きつける。
「アンタは怪異やからここで倒して、もう片方は光竜陰家から消えてもらうだけや。んで、ウチは【怪異を暴いてしっかり祓った祓い人】として認められてな、常盤様の嫁になるんや。あの若い娘好きな方を籠絡するの、簡単やったわぁ」
「お前・・・最初から、これが狙いで!?許されると思ってるのか!?」
スミレはグッと、玖炉の首にさらに刃物を近づける。今にも首筋から血が出そうで、雌呂は何度も言葉にならない声を出している。
「狙い?許される?そんなわけないやん、これで“運命”通りになるだけやし。
そしてウチはココの“主人公”。恨むんやったら、こういう展開にした“原作”恨むんやな!」
さっきから、彼女は何を言っているんだ?ストーリー?主人公?原作??完全にスミレは、自分の世界に入り浸っているようだ。
「そもそも、アンタらは元々、嫌われたままあの場面迎えてるんやで?なのに何かの手違いか、アンタたちは妙に人気やったなぁ。それで常盤様が気にくわないのを良いことに、原作通りに消えてまう計画教えてあげたんや。
そうしたら結構乗り気でなぁ、毒薬用意したり盗賊紹介してくれたりしたんやわ。ウチを伴侶として迎えてくれる約束もしてくれて。あんまタイプやないけど、利用価値はあって良かったわぁ。
まぁコレは、発生したバグを直すためのこと。良いとか悪いとかやない、するべきことやっただけ。
ほな、無駄口もここまでにしときましょ。早く始末せい!」
スミレの声を合図に、盗賊達が一斉に玖炉に襲いかかる。
彼女の言葉を、何1つ理解できてないの言うのに・・・!それでも、玖炉は動けなかった。
雌呂のくぐもり声も、盗賊達の叫びも、雑音にしか聞こえなくなっていく・・・・・・。
そんな弱った玖炉の背後から、怪異の青鬼が姿を現わした。
○
ーーー発生したバグを直すためのことやの。良いとか悪いとかやない、するべきことやっただけ。
彼女も、おそらく自分と同じだ。この世界に気付いている。そして、彼女なりの幸せを求めている。確かにここで玖炉が倒され、雌呂が消えれば原作通りだ。
それでも正しいことを言っているはずのスミレの言葉が、ひっそり後を追っていた葵に怒りを湧かせる。正当な努力もせずに辻褄だけ合わせ、たくさんの悪事に手を染め、挙げ句の果てには彼らを邪魔者扱い。これを流せる訳がない。
だが、ここで暴れたら。鬼の本能で、双子も傷つけてしまうかもしれない。もっと、考え方を変えなくては。
(・・・・・・ウチを動かすのは怒りじゃない。彼らを思う気持ちだ。
傷つけるのが目的じゃない。恐怖させるのが目的じゃない。悪事を止めて、彼らを救うこと。
ウチは、彼らを救いたい!)
そのためだけに、葵は本来の怪異の姿に戻った。嫌われることも、怯えられることも、やられることも恐れずに。
盗賊達は情けない悲鳴を上げつつ、慌てて葵から離れていく。その隙に離された雌呂を少し強引に救出した。彼を玖炉の方にやると、雌呂は涙目になって玖炉に抱きついていた。その様子にホッとしつつ、目の前の馬鹿な女を睨む。
「なっ、なんなん!?怪異・・・ホンマもんの怪異!?」
心のままに襲ってやりたいところだが、下手に動かない方が良い。今度こそ双子を傷つけてしまう、ここは時間稼ぎをしなければ。葵はゆっくり人の姿に戻る。
「あ、葵さん・・・!」
驚く双子に大丈夫だと顔で表し、彼らを庇うようにスミレと対峙する。
「あ、アンタ何者や!?」
「一応重要な場面で出るモンスターなんですけど、にわか?それともエアプ?」
ピクッとスミレの眉が動いた。一瞬怯んだのをチャンスに、畳みかけるように疑問点をぶつけていく。
「さっきから原作って言ってるけど、既に色々おかしいよねぇ。あの怪異暴き、どうして私には効かずに彼だけ効いたのかなぁ?さっき毒薬って言ってたのは何かなぁ?この盗賊団、アンタが玖炉と序盤で倒してるはずなんだけどなぁ?そもそもアンタ、祓い人のキャラクターだよね?怪異を目の前にして、何故その力を使おうとしないのかなぁ?
アンタ自身が、アンタの言う“運命”通りに動いてないじゃない。だからアンタがそれを語る権利なんて、これっぽっちも無いんですけど」
「だ、黙りんさい!さてはアンタやな、原作ぶち壊したのは!アンタのせいで、色々な物が変になったんや!ウチの苦労もなんも知らずに、ようそんな口を・・・!
ただのちょい役のくせに、主人公のウチに指図するなんて、何様や!!」
先程から、2人の話について行けない周囲。だがそんなこと、葵とスミレには全く見えていない。
特に葵はもうダメだ。アワアワと言葉をぶつけるスミレだが、もはや火に油を注ぐだけ。彼女の内なる怒りの炎は、メラメラと強くなっていく一方。
主人公という立場が、何をしても許されると思っているとは・・・浅はか、そして愚か。ここはゲームの世界であって、ゲームでは無い。キャラクターと自分たちが同じ世界線にいる以上、ここは現実世界。普通に葵たちが生きているのだ。たった1人のワガママは許せないし、犯罪も道徳も存在する。
だから自分の行いが後々、色々な状況を引き起こしていく。予め決まった未来などない、約束された展開などない。変えようと思えば、いくらでも変えられるはずだ。双子と懸命に関わり、彼らを見守ろうと行動をし続けたため、こうしてこの場面に臨めた今の葵のように。
どれだけ自己中心的なんだ、この女は!世界が自分中心で回っているとでも思っている、おめでたい頭か!?思い通りになんかさせない、させるものか!!
「いい加減にしなさい、アンタはどれだけメルヘンなの?ここは多分アンタのいた世界と根本は変わらないんだし、主人公なんて存在しない。今まで好き勝手動いたせいで、こうなっていると思いなさい!」
「なんや、倒させるだけの怪異が、何を知った口を!!」
互いが怒りの頂点に達したとき、他の門下生や使用人、さらには常磐など光竜陰隊の関係者が、一斉に葵たちの元に駆け寄ってきた。しめた!と思ったスミレが、ビシッと葵を指差し、わざとらしい悲鳴を上げる。あたかも、彼女と戦っていた素振りで。
「皆様、新たな怪異です!彼女は青鬼だったんです、使用人として忍び込んでいたんです!!」
「おいお前ら、戦え!ボーッとするな、私の将来の伴侶を救え!」
だが、それより前に現われたのは、地元の警備隊。彼らは盗賊達を縛り付けると共に、あっという間にスミレを縄で縛った。他の者は玖炉に解毒剤を与えたり、雌呂の拘束を外したり、逃げ惑う盗賊達も抑えたりと、2人を救う様子など微塵もない。
スミレと常磐だけ「何故!?」という表情をしている。
「ど、どういうことですか!?怪異は向こうです、怪異は・・・!!」
「なっ、何をする!?何故怪異を放置して、彼女に!?」
「晴日スミレ、祓い人の存在意義をここで言えるか?」
警備隊のとある男がさっと前に出たと思うと、スミレに対して尋ねてきた。「な、何です?」と、明らかに彼女は言えない様子だ。確か、ゲームの紹介文にもあったはずだが。
「最初で習うはずだぞ、祓い人は【暴走によって災いをもたらす“怪異”から人々を守る】と。まぁ任務どころか座学に全く出ず、光竜陰家当主のゴマすりばかりしてたお前には、全く知らなかったか」
とある門下生が鼻で笑って言い、周囲はウンウンと頷いている。
「・・・・・・きゅ、急に聞かれても答えられません!!」
ジタバタと暴れるスミレだが、もはや全体の雰囲気が物語っていた。既に彼女の味方などいない。
「何故、何故ですか!何故怪異を放っておくのですか。光竜陰家に忍び込んだのに!」
「少なくとも、アンタより信頼できるからさ」
そう言ってくれたのは、今まで葵が関わってきた使用人たち。全員が次々に「頑張ってる姿を見た」「私たちを襲う感じなど無い」「傷つける奴と助ける者、どちらを信じるのか明白だ」と、葵を擁護する言葉を上げてくれる。半分私欲が相まった計画だったが、こう思ってもらえるとやはり嬉しい。
「だ、だがっ、祓い人の名家である光竜陰家に、怪異が憑いた者など!!」
「そんなことない!」と、今度は門下生や施設関係者が双子を擁護していく。「光竜陰隊のため、頑張っているのを知っている」「贔屓や下心なく見てくれる」・・・・・・皆が見てくれていたことに、雌呂はうれし涙を流しているようだ。
ザッと、警備隊の中でかなり威厳のある男が、スミレと常磐の前に立つ。
「晴日スミレ、光竜陰常磐。お前達は祓い人統制機関から幾度となく注意や勧告を受けたにも関わらず、その非を改善しなかった挙げ句、このような事態を引き起こした。盗賊と手を組んだことに言い逃れは出来ぬ、貴様らを拘束させてもらう」
「ま、待て!私は光竜陰隊の長であり、光竜陰家当主だぞ!?私が捕まれば隊も家も崩され、多くの者が路頭に迷うことに」
「当主であることが毒薬を盛ったり、盗賊と手を組む免罪符になるとでも?」
正論を突きつけられ、もう返す言葉もないようだ。スミレと常磐は、完全に立場を失った。チラリと2人が目配せを交わしたと思えば・・・今度は、醜い罪のなすり付けが始まる。
「アンタのせいや!もっと早くこの使用人を片付けてれば、ウチの計画は上手くいったのに!使用人の1人くらい、何事も無く消せたやろ!?」
「な、何を言う!お前が色々知っているというから、全て任せたに過ぎないだろうが!お前の計画には、その使用人は含まれてなかっただろうが!?」
「そもそも、アンタが毎晩部屋に来いと言うから、計画を練る時間も体力も無かったんやぁああ!!」
「お前だって、豪華な衣服に食事を楽しんでばかりの、金食い虫ではないかぁああ!!」
うわぁ、と周囲もドン引きするほどの言い合いが繰り広げられる。一方は若い娘狙い、もう一方は資産狙いで共謀したようだが・・・信頼関係は砂上の楼閣だったようだ。もうこれ以上、彼らには付き合ってられない。警備隊はさっさと常磐も捕縛し、騒ぎ立てる2人を連れて行く。
ずっと目の敵にされていたとはいえ、親族の逮捕は流石に堪えた黒白双子。それでも、彼らはそっと伯父の失墜を受け入れた。
これから解放され、好きなことをして良い。そんな前向きなこととして、捉えることにした。
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スミレや常磐、盗賊達が一斉に逮捕された今回の出来事。私欲まみれの2人は流罪となり都を追放、光竜陰隊は解散され、光竜陰家も膨大な資産を失うことに。職や所属を失った者も大勢いたが、祓い人統制機関が全員まとめて面倒を見てくれることになった。
黒白双子は機関には入ったが、成人したら2人で気の向くままに生きることを計画している。本で見たこの場所に行ってみたい、人と怪異が共存する場所を作りたい、色々な夢を持っているようだ。
葵は何も言わず、その様子を見守る使用人の日々を続けている。他の使用人から「双子が成人するまで見守ってあげてよ!」と進言されたので、とりあえずそこまで目標にしている。
(・・・・・・まぁ、最初は私の手で彼らを破滅させなければ良かったけど。ここまで来たら、推しの幸せを作ってあげたいような。
あぁでも、私なんかが神聖な推しに介入するとは恐れ多い、絶対に同じファンから猛烈なブーイングが来る。命あっての物種だからもっとのんびり生きてたい、まぁ向こうのファンが見ることは無いだろうけどさ、なんか私の中の抑制力が働かなそうで怖い。物欲センサーならぬイチャイチャセンサーがずっと機能しそうで怖い、表裏の顔がクルクル回るのを推しに見られたらキツい、いや勿論他人に見られること自体キツいキツい。推しと同じ空気吸ってること自体罪深い、マジでうん、でも死にたくないもうチョイ推しを見守りたいし支えたいというか支えることで支えられたい、でも子育てとかそういう方面でうんたらかんたら・・・・・・)
そんなこんなでブツブツし、1人悶絶している葵だが、推しの黒白双子のイチャイチャ現場にはさっと頭を切り替える。
まぁ良いか、今日も生きよう!
そんな楽観的な考えで、葵は与えて与えられる、この環境を楽しむのだった。
fin.
読んでいただきありがとうございます!
楽しんでいただければ幸いです。
次回作は制作中!やる気と根気次第でいつかは変わります。
全部完成してから投稿したい派です。