退場するちょい役モンスターですが、破滅する双子を幸せにしたい 中
趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。
ちなみに「妄想はするけど表には出さない」こと、結構難しいです。勿論言葉には出さないけど、顔に出てしまうタチなので・・・。
最初の会話が成功したのか、それから彼女は雌呂と親しくなることに成功した。出会ったばかりの彼は申し訳なさそうな顔ばかりしていたが、葵の明るさ(可笑しさ?)で微笑んでくれるようになる。分からないことも的確に教えてくれるし、褒めたり喜んでくれるから話すのがとても楽しい。
こんなビジュアルもあったのか、こんなに素敵な一面もあったのか。もっとゲーム内で見たかった・・・いや、二次創作でそれなりにあったっけ・・・と、葵の脳内は常に興奮中。
こんなに可愛いのに、こんなに素敵なのに、皆知らないなんてもったいない!見た目で敬遠されるなんてとんでもない!葵はすぐさま、他の使用人に雌呂の評判上げに動く。
前世はこういうのはネットでしかやったことない。というか、こういうのをやるのは陽キャがすることだと思っていた。しかし転生した今は、何故かやけに行動力が凄まじかったのだ。
「え、雌呂?ちょっと不気味な見た目をしてる、あの少年かい?」
「不気味なんてとんでもない!仕事も健気にしてくれますし、褒め上手なんですよ。見た目嫌いするなんてダメですよ、普通に話すのも楽しい子ですし」
「でもねぇ、そんなことしたら常磐様の反感が・・・」
そう、問題はコレ。雌呂とやたらめったら関わろうとすると、必ずこの当主が障壁になる。ずっと双子を監視しているかの如く、雌呂の作業をちょくちょく確認しに来る。葵のストレス要因といっても良い。
とはいえ、これは今の葵には解決できない。まずは雌呂の面目躍如だ。
「なら作業において、雌呂君を誘ってみるのはどうですか?彼、ここでの仕事はほとんど覚えてますし、もっと良いやり方を教えてくれたりするんですよ~。私も何度も助けられてるんです。あっ、勿論彼の無理がない範囲でのお願いですよ」
それならまぁ、と何人かの使用人がなんとなく言ってくれた。それが数日もすれば「葵ちゃんの言うとおりだねぇ」「彼がいて良かったわぁ」と、皆喜んでいる。何でも、普段なら数時間かかる作業が半分ほどの時間で片付いたというのだ。そこまで出来るとは、雌呂は凄い子だと改めて感心する。
使用人達が雌呂への理解を深めているのを確認したら、次は玖炉だ。といっても彼は1日の大半を、祓い人で活動して過ごしている。どうやって使用人である自分が関わろうかと考えていると、「葵さん、ですよね」と、彼から声をかけられた。
「く、玖炉様。お疲れ様でございます」
使用人らしく反応できただろうか?それより向こうから話しかけてくるとは、何だろう?不思議に思っていると、彼はほんのり笑顔だった。いつも無愛想だと言われているというのに。あぁ、このビジュアルも公式に欲しかった・・・と、脳内で尊さが突き抜けている葵。
「その・・・雌呂のこと、感謝しています。貴女のお陰で、ここ最近、雌呂がとても幸せそうなんです」
その言葉で、葵は10秒ほど思考停止した。え、マ?私が?私のお陰で?感謝?推しが?私に??
「め、滅相もありません!雌呂様のお陰で、私は、使用人として活躍できておりますし・・・」
「貴女のお話は、雌呂から聞いてます。ずっと見た目で敬遠されていたのに、認めてくれただけでなく褒めてくれたと。初めて、この白髪赤目が好きになれたと。嬉しそうに話してました。ありがとうございます、弟があんなに喜んでいるのを見たのは久しぶりなんです」
嘘、双子で話してるの!?その場面見たいんですが、というかその場面の壁になりたいんですが!?と、限界オタクのような変な妄想と脳汁がダラダラ溢れている。それを必死に抑えつつ、葵はそっと礼をする。
「玖炉様、嬉しい言葉を感謝します」
玖炉も笑顔が可愛いし、ちゃんと話が出来るじゃないか!でももしかしたらそういう一面は、弟の前でしか見せないのかも・・・なんて妄想したり。例えば「お互いの身支度を担当する」とか「退屈しのぎでちょっかいを出す」など、葵はそういった様子を壁に隠れて見る度に、ウへへへへと変な笑い声を(脳内で)出す。
2人同時に素敵な一面を流した方が良いよね。葵は雌呂のみならず、玖炉の「親しまれる一面(萌える、だと流石にやり過ぎなため理性で抑えた)」も同時に押し出すことにした。
明るくお喋りな使用人や施設職員にも共有すれば、自然と門下生にも広がっていくのも分かったようで。1ヶ月もすれば門下生の間で、黒白双子の良い話題が広まっていた。
「雌呂君、スッゴく可愛いよね!見た目も声も本当に可愛い!」
「だよねだよね!病気の時も積極的に手当てしてくれるし、優しい子じゃん!」
「玖炉様、弟の雌呂様と仲が良いのですね。表だとあまり関われないけど、実際は一緒にお勉強したり、教え会ったりするのが日課だそうですよ」
「静かだけど真面目だよね。この間の任務も、仲間を守りつつ頑張ってたし」
「良い兄弟だよなぁ。羨ましい」
そんな話題を聞く度に、ニヤニヤした顔が止まらない葵。やったぞ!と達成感すら感じてしまう。
が、油断は禁物だ。まだ双子が破滅するストーリーになっていない。物語は着実に進んでいる・・・はず。
何故ここで濁らせたかというと、物語において気になることがあるからだ。ゲームの主人公でもある晴日スミレなのだが、黒白双子に全くと言って良いほど無関心。ゲームでは玖炉と任務に行く場面もあったのに、葵はその様子を見たことがない。
オマケに他の門下生からは「彼女が任務に出てるのを見たこと無い」とまで言われているではないか。既にゲームステージは中盤にさしかかっているというのに、これでは次へ行くフラグが立たないのでは?と心配になる。
さらに不思議なのは、彼女が当主である常磐と関わる様子だけはよく見かけること。勿論、原作にも多少だが常磐と関わる場面はある。だが、常磐もあくまでサポートキャラ。そこまで関わる場面はなかったはずだが・・・?
そのことを他の使用人に言ってみると、なんと2人が恋仲である噂を教えてくれた。
「何でもスミレって子、入ってすぐに常盤様の心を掴んだみたいでね。最近じゃ、常磐様のお部屋に入り浸っているみたいよ!確かに常磐様はまだ40代に入っていないし、年の割に若見えで格好いいけど。20歳いっているか分からない子と、そんな仲になるもんかな」
噂はすぐに広まり、やがて黒白双子にも届いた。流石に世間体から見てマズいと思ったのか、玖炉も珍しく常磐に対し物言いをした。1人の門下生を贔屓してはいけない、恋仲になるのはもっとマズいと。しかし当主は「ガキが口出しするな」とバッサリ切り、全く耳を貸そうとしない。次第に常磐は玖炉も冷遇するようになり、双子との距離をドンドン作るようになった。
もし、常磐がスミレを次の伴侶に選べば。もし、常磐とスミレとの間に子供が出来れば。双子は有無も言わされず、ここから追い出されてしまう恐れがある。
いや、それでも良いのかもしれない。彼らは正直、ここでは肩身の狭い思いをして暮らしていたようなモノだから。確か原作でも、隊を出て暮らしたいとか言っていた。
(ウチは・・・双子が破滅しなければ良い、幸せになって欲しい。あんな当主やよく分からない主人公なんか気にせず、夢を追いかけてくれれば、それで良い)
ふぅ、とため息が手に掛かる。その肌が一瞬だけ青くなり、力が乱れていると焦る夜だった。
○
ストーリーは後半、本部に怪異が侵入した形跡が見つかった場面だ。ここで主人公のスミレが「怪異暴き」の儀式をして、葵の正体が暴かれる。
とはいえ、儀式を強く受けなければ大丈夫。スミレから離れていれば、そこまで影響は受けないだろう。もしマズくなったら、すぐに離れよう。ここで葵が雌呂を襲わなければ、少なくとも原作の悲劇は避けられるはず。そんな考えで葵は、スミレから1番遠くにいた。
ブツブツと長い呪文を唱え、スミレから放たれる不思議なモヤ。ゲームでも感じたが、相変わらず変な色だ。雑電波みたいで不安になるような・・・そんな感覚。いよいよかと既に覚悟しているが、どうも葵の元に変化は無い。原作でもモーションが長かったような気がする、もしかして反映されるのに時間が掛かるのだろうか。
「玖炉!玖炉、大丈夫!?」
向こうから聞こえてきた、雌呂の慌てた声。ハッと見ると、何故か玖炉が苦しそうな呼吸をして、地面に倒れ込んでいるではないか!雌呂が慌てて抱きかかえているが、玖炉の苦しそうな様子が治まらない。葵も慌てて駆けつける。
「玖炉様、ご無事ですか!?」
「・・・・・・う、あ・・・・・・」
刹那、毒にでも犯されたように黒ずんで歪みだす、玖炉の右顔と右腕。その姿は、半妖に堕ちた玖炉のビジュアル、原作通りだった。雌呂や葵以外で周囲にいた者が、悲鳴を上げて離れていく。
どういうことだ?何故怪異である葵には何とも無いのに、半妖の玖炉が苦しみ暴かれている?物語通りでない展開に、葵は混乱している。
しかし門下生や使用人の悲鳴が止まず、混乱しだした現場。儀式をしていたスミレが「きゃああ!!」と悲鳴を上げ、よろけた彼女を常磐が支えた。
「常盤様、こんな近くに怪異がいたのですか!早く駆除してください!」
それが、うなだれている彼に言うことか?駆除なんて何故決めつける?スミレがやたらと常磐にボディタッチをしているのは、考えすぎか?
「怪異が、遂に祓い人にまで・・・。やむを得ん、被害を出す前にソイツを駆除しろ!
・・・双子の弟も怪異が憑いた疑いがあるな。その白髪も取り押さえろ!!」
常磐の鶴の一声で、周りにいた門下生はざわめき出す。突然やれと言われても、そう簡単に動く者はいないだろう。待ってください!と葵が声を出す前に、玖炉は雌呂の手を引き、奥の森へと駆け込んでいく。
「追え!追うんだ、人里に出られる前に駆除しろ!!」
いくら好んでないとはいえ、何故簡単に駆除だと言える!?怒りが湧きだす心を必死に抑える葵。ここで怪異になっても意味が無い。ここは耐えねば。
「わ、私のせいです!常盤様、私が責任を持って倒します!」
そう言って後を追うスミレ。武器も持たず軽装備だが、大丈夫か?周囲も「アイツ、ほとんど任務行ってないよな?」と不安な顔に。そもそも、彼女があんなに積極的なのもおかしい。原作では迷いつつも、祓い人として涙を流しながら討伐しに行くのに・・・。
・・・・・・何か、裏がある。確か、あの森は・・・・・・。
記憶を辿りに、とある可能性を思いつく。葵は急いで、森に足を踏み入れた。
読んでいただきありがとうございます!
楽しんでいただければ幸いです。
「下」は明日夜に投稿する予定です。