退場するちょい役モンスターですが、破滅する双子を幸せにしたい 上
趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。
今回の主人公は「限界オタク(?)」みたいなところがあります。
脳内口調やキャラ崩れ多めの子ですが、やるときはやる子・・・にしたい。
【暴走によって災いをもたらす“怪異”から人々を守る“祓い人”
その才能を見出された主人公は、祓い人が集まる隊に入る
様々な経験を通じて成長し、厄災の元凶に辿り着け】
その言葉を記憶に持って、バケモノは生まれてきた。青い鬼のような姿で。
この世界で自分は怪異、人々は自分を恐れている。そして祓い人は、自分を討伐しに来る。
怖いくらい冷静に分かっていた、まるでこの世界を知っているかのように。
鬼の本能を持つ傍ら、そんな感情を持っていることに「自分は他と違う」という感覚を抱くのは遅くなかった。でもそれが何なのか分からず、やがて何かに導かれるように、人間の娘「葵」に化けて祓い人の名家「光竜陰家」に使用人として忍び込んだ。
自分たちを討伐する祓い人から身を隠すため、それ以外に何も無いはずだった。
「玖炉、雌呂、挨拶なさい」
光竜陰の当主・常磐は少年たちを呼び、挨拶させる。立派な身なりをした黒髪赤目の少年、少し後ろにいる使用人の衣装を纏う白髪赤目の少年。
その少年たちの名に、姿に、葵は見覚えがあった。その時は素知らぬ顔を装い、なんとか挨拶を終わらせたが。
その夜、彼女は叫ぶ。
「嘘、うっそぉ~~ん!!アレ、アレは“黒白双子”!え、マ?ええ、マ!?」
葵は思い出し、分かったのだ。前世、自分はゲームオタクな陰キャ社会人だったことを。そして自分はフリーホラーゲーム「祓い人」の世界に転生したことを。
フリーホラーゲーム「祓い人」。祓い人の力に目覚めた主人公・晴日スミレが、都の祓い人育成機関「光竜陰隊」(名前の通り、光竜陰家が中心となっている組織)に入り、怪異と戦いながら物語を進めるゲームだ。
前世の姿名前も最期のことも思い出せないが、フリーゲームが好きでよくチェックしていたのは覚えている。ずっと覚えていた言葉は、このゲームの紹介文(おそらくダウンロードページにあった文章)だったのだ。
「このゲーム、キャラデザイン好きなんだよね。和風テイストで良い具合に着込んでたのが良いのよ、露出少ないのも嬉しい。主人公のスミレちゃんも良いけどさ、周りにいるキャラがスッゴく好みでドストレートだったんだよねぇ。
特に黒白双子(ファン間の呼び方)!元々ウチ少年キャラ好きだったけどさぁ、あの双子はメッチャ大好き。ストーリー上の絡みはともかく、見た目と性格とかが母性本能えぐられるぅ~、グヘヘヘヘヘヘ」
前世を思い出してからというもの、葵はずっと独り言を続けている。ニヤけ顔も抑えられない。幸いここは葵の使用人部屋。誰にも見られていないから良かったものの、もし今誰かが部屋に入れば、確実にドン引きされていただろう。
しかし今の彼女にはそんなこと気にしてられなかった。何せ、前世の推しに会えたのだから。
主人公を手助けするサポートキャラ、黒白双子こと光竜陰玖炉(兄)と光竜陰雌呂(弟)。黒髪赤目の兄と白髪赤目の弟ということもあり、まず見た目で萌える。物静かだが心優しい兄と、働き者で健気な弟という設定も、関係がアレコレ妄想できて楽しすぎる。公式と二次創作がゴッチャになるほど、沢山のトピックを見てきたくらい大好きなのだ。
「見た目や性格で萌える要素もあるけどさぁ、とにかくこの双子君は甘やかしたいの!だってだって、本編は・・・本当に、可哀想すぎてさぁ・・・うぅぅぅ」
実際に泣くわけではないが、おそらく滅茶苦茶な顔になっているのは自覚している。完全にオタク気質を取り戻した葵だが、ふと我に返る。
「え、待って?まさかストーリー通りに進めば、それが目の前で起こるってコト?」
突如として冷静になった彼女。慌てて適当な紙と筆記用具を取り出し、その「可哀想すぎる背景&ストーリー」を書き記していく。
黒白双子は、光竜陰家の次女と権力のない農夫の男の間に産まれた子どもだ。しばらくは農民として暮らしていた双子。しかし怪異の襲撃によって両親を失った後、光竜陰家に引き取られる。
自分たちと同じ思いをする人を減らしたいと、光竜陰隊に入り祓い人を目指す兄弟。しかし隊では現当主の常磐が全ての権限を担っており、様々な理由から黒白双子を良く思っていなかった。彼は光竜陰家の亡き長女の婿、いわば婿養子であることも関わっているのだろうが。
玖炉は強大な祓い人の力を持っていた。そのため、当主の座を奪われると危惧されていた。当主は彼に力の調整を強要し、自分より強くなることを許さなかった。さらに無口で無愛想だと、他の門下生から距離を置かれている。
雌呂は全く祓い人の力を持たなかった。そのため、光竜陰家の面汚しだと非難され続けた。当主は彼をあたかも使用人にように扱い、冷遇していた。さらにアルビノの見た目が不気味だと、他の使用人から距離を置かれている。
双子は育つ場所が離れていき、次第に互いにも距離が出来てしまう。周囲からも兄弟であることすら知られず、「ほとんど会話しない」「持ってるモノが違う」「隣にいるだけで仲が悪い」と言われるほど。
でも本当は、互いが互いを心配しているのだ。雌呂は玖炉の世話人として付き添い、祓い人としての活躍を願っていた。玖炉は働いてばかりの雌呂を心配し、学びやら色々教えたりしていた。
当主に嫌われている以上、どうしようもないと思っていたらしい。いつしかこの隊を出て、自分たちだけで活動できる祓い人になることを目指していた。
ところがある日、光竜陰家に忍び込んでいた青鬼(すなわち今の葵)が、怪異と見抜かれ屋敷内で暴走する。祓い人の力を持たない雌呂が襲われ、玖炉が庇おうと必死に戦い・・・双子の両親を殺した怪異の力が、彼の中で覚醒する。玖炉はそのまま「半怪(人間と怪異を併せ持つ存在)」に堕ちるのだ。
それで青鬼は討伐されることになるが、今度は半怪となった玖炉が雌呂を誘拐するという事件が発生。主人公が雌呂を助けにダンジョンに入り、怪異となった玖炉を倒す。
それはもう無惨な姿だったと、彼女は記憶している。血塗れで泣き叫びながら雌呂を庇い、怪異になって討ち取られる玖炉の姿は、トラウマものだったと。真意は、双子共に怪異だと言ってきた奴から逃れただけだというのに!雌呂はその後、主人公の前から去り、その後も隠されたように全くストーリーに登場せず、エンディングを迎える。
「ヤバい・・・これ絶対ヤバい!いやまぁ、私も闇は好きだよ?死ネタもそれなりに平気だよ?でもココじゃ、それが“3次元で起こる”ってこと!!目の前で死ぬ瞬間見るなんて、そもそもウチがその原因作るなんて、絶対に嫌、嫌!嫌だぁああああ!!!」
葵は半狂乱になりつつ震えた。自分がやられるのはともかく、自分が双子の破滅を引き起こすことに耐えられない。なんとかして、彼らを救わなければ・・・謎の使命感が彼女を駆り立てた。
きっと前世で幸せな思いにしてくれた分、彼らを救えと導かれたのだ。不幸と不遇に包まれた最愛の彼らを救えと、手に入れた力で運命を変えろと。
こうなったら、やってやろうじゃないか!「黒白双子救済計画」を!
自分の退場はともかく、いや勿論命は大事にしつつ、あの悲劇を回避するのだ!
退場するちょい役モンスターですが、破滅する双子を幸せにしたい!!
○
翌日から葵は早速、双子救済のための行動に移る。といってもまずは、彼らとある程度仲良くならなければ、動き出すチャンスすら得られない。
といっても使用人として働く身なので、大半はそれで時間も行動も制限される。彼女が働き暮らすのが、光竜陰家の領地。屋敷そのものが光竜陰隊本部になっており、広大な土地に豪勢な屋敷が幾つも建っているような場所。祓い人についての勉学や実務を全て会得するための設備が整っている。祓い人たちはここで寝泊まりして、学びつつ祓い人としての任務をこなしている設定なのだ。
葵が出来ることも限られる中・・・なんと彼女の教育役を、雌呂が担当してくれたのだ。近付くチャンス!と心でガッツポーズを取りつつ、不自然さが出ないよう努める。
「掃除用具は全て、この倉庫に保管しています。掃除が必要になったら、適宜取りに行ってください」
「この倉庫ですね、分かりました(あぁ、可愛い~~)」
説明を受けつつ、雌呂の一挙手一投足にニマニマしている葵。懸命に話してくれる彼の姿が良い子すぎて眩しいと、心の中で拝んでいる。
勿論、ここで聞くのを疎かにしてはいけない。自分のミスで「ちゃんと説明しろ」と、雌呂が当主に理不尽に怒られることなど避けたいのだ。必死になって説明してくれる雌呂の話をしっかり聞いていると、客人らしき男達が雌呂の方を見ているのに気付く。
「へぇ、アレが噂の双子の片割れ。白髪と赤目で気味が悪いな、呪いでもかかったのか?」
「オマケに祓い人の力が全く無いんだと。光竜陰家の面汚しだな」
「だから農夫なんかと子ども作るなと言ったのによ、あの馬鹿娘め」
「おいおい、死んでる奴にそう言っても仕方ねぇだろ」
明らかに雌呂に聞こえる、彼や彼の母を傷つける言葉。雌呂がふと視線を下げ、暗い表情になった。そういえば彼のゲーム内ビジュアルも、浮かない顔ばかり表示されていた気がする。
これが日常なの?これが雌呂への扱いなの?葵の中で怒りの炎がドンドン焚き上がっていく。しかしあの男どもを攻撃しても仕方ない。葵は慌てて、雌呂を褒めるような言葉をかける。
「雌呂さん、とても分かりやすい説明ありがとうございます!何も分からない私でも、今日からしっかり作業できそうです!」
明るく、わざと大きい声を出してしまっただろうか。それでも必死に、半分ヤケクソで話す。
「あの、私、この青みがかった髪が苦手だったんです。でも昔「藍染めみたいで素敵」と褒められてから、この髪が好きになったんです。だから、その白い髪、雪みたいでとても綺麗です!その赤い瞳、宝石みたいでとても素敵です!素敵な白い髪と赤い瞳だと思います!」
当然、そんなこと言われた覚えはない。「同じ思いをしたことあるよ」と励ませればと思った挙げ句、謎の方向に走っていったらしい。男達は「何だアイツ」と笑いながら去って行く。葵の言葉を聞いた雌呂は、しばらく驚いた表情で何も言わなかった。
あ~~、これはプライベードエリアに踏み込みすぎたヤツだぁ。ドン引きされたヤツだぁ・・・と、葵が心の中で焦る。どう挽回しようと考えていると、雌呂がフフッと笑ってくれる。
「そんな風に、思ってくださるなんて・・・ありがとうございます」
フワッと咲いた笑顔に、葵は心の中で歓喜した。これが天使か・・・と尊さに感謝しつつ、こちらも嬉しそうに微笑む。
その様子をこっそり、休憩中の玖炉が見ていたのにも気付かずに。
読んでいただきありがとうございます!
楽しんでいただければ幸いです。
「中」は明日夜に投稿する予定です。