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9話「庭はとても心地よいです」

 庭に出ると、心地よい風が吹いていた。

 肌を撫でる風に身を委ねるように、私はただ外の世界を歩く。


「特に何ができるでもないですが、その辺にいてもらえればありがたいです」

「あっ……はい。分かりました」


 青年に促されるままに私は付近にあった椅子に座った。

 座面は心なしかひんやりしていて、腰から尻にかけて氷を食べたような冷たさを感じる。私が腰掛けた椅子は、外に置きっぱなしのうえ金属のような素材でできているものなので、そこそこ冷えていたのだろう。


「今さらですが、僕はシャルテといいます。どうぞよろしく」


 さらりと名乗ったシャルテは、持っていた道具を一旦地面に置き、近くに生えていた一本の木へ視線を向けていた。

 その木は、緑色の葉っぱが縦長の楕円のような形で集まっているようなのだが、今は心なしか形が崩れている。恐らく育ち過ぎたのだろう。本来はもっと綺麗な形なのかもしれない。


「よ、よろしくお願いします! オブベルです……!」

「それは先ほどお聞きしましたよ」

「あっ……! そうですよね、すみません」


 うっかり名乗りを繰り返してしまって、恥ずかしい目に遭った。


 その後、シャルテはハサミを手にして、枝や葉を落とし始める。パツンと音がするたびに何かが地面に落ちる。木の一部が少しずつ切り落とされていく。


 私はただ、そんな光景を眺め続けていた。


 なぜもう少し気の利いた話題を振ることができないのだろう。私はなぜ、こんなにも器用でないのだろうか。苦しさばかりが募る。せっかくこうして見学させてもらえたのだから、何か感想を述べなくてはならない。それなのに私は、どうして、見ていることしかできないのだろう。


「あの……貴方はマッチョではないのですね」

「え?」

「あっ! す、すみません! 私おかしなことを……」


 何か言わなくては、と強く思った結果、妙なことを口にしてしまった。


 マッチョでなくても良いではないか。いや、むしろ、彼の良いところはマッチョでないところだ。ここへ来てからマッチョにばかり出会ってきた。その中で彼はそうでなかったから、近づいてみたいと感じたのではないか。


 余計なことを口走ってしまうにもほどがある。


 だが、私の少し失礼な発言にも、シャルテは怒りはしなかった。


「そうですね。この国には多いですよね、マッチョの妖精が」


 シャルテはそんな風に言いながら小さな笑みをこぼす。


「でも、シャルテさんは……違いますよね」

「まぁそうですね。僕はこの国の出身ではありませんので」

「そうだったのですか!?」

「はい。僕は妖精ではありませんし」


 妖精ではない、その言葉に衝撃を受けた。私以外にも妖精でない者が存在したということがとにかく驚きだ。勝手に私一人なのだと思い込んでしまっていたからこその大きな驚きがある。

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