8話「青年に出会いました」
オフフィード王には帰ってもらった。
元より腹は立っていたが、今回のことでさらに嫌いになった。よく顔を晒せたものね、と言いたい気分だ。残酷に切り捨てておいて、何事もなかったかのように協力を頼んでくるなんて、論外である。
「はぁ……疲れる……」
「大丈夫かイッ!?」
「ひゃっ! ……あ、す、すみません」
オフフィード王が帰ってから一人溜め息をついていたところ、目の前に突然マッチョが現れた。しかし、見慣れているマッチョよりかは小さいサイズ。羽が生えているところは見慣れたマッチョたちと同じだが、身長が五十センチくらいしかない。ちなみに、赤ちゃんのような比率ではなく、大人の全身の比率のまま小さくした感じ。
「浮かない顔してるねェ! 一緒に鍛エルのはどぅーだィ?」
小さいタイプのマッチョはいかにもマッチョらしいポーズを連続で決めながらそんなことを言う。
とにかく、暑苦しくて鬱陶しい。が、明るさ前向きさは、彼の魅力の一つと言えるかもしれない。私にはないものだ。だからこそ、尊敬せずにはいられない。
「え……」
「鍛エルのは楽しいヨゥ!」
「あの、私、マッチョ目指してませんので」
「ひゃろいおひふー!!」
小さいマッチョはショックを受けたような顔をしていた。
「じゃ、トレーニングの時間だから、ちょっと行ってくるゥ! またいつか!」
そう言うと、小さいマッチョはふわりと消えた。
宙に残るのは微かな光だけ。
「はぁ……疲れた……」
無限ループに陥りそうだ。
その次の日、ふと窓の外へ視線を向けると、庭を歩く人の存在に気づいた。
ここは妖精の国。それも、ほとんどがマッチョ妖精。マッチョでない者を見かける機会というのはかなり稀だ。だから、私は思わず窓に接近してしまった。
大きなハサミを持ち歩くのは青年だった。
すらりと伸びた背筋、凛とした表情、整った顔。私が知り合いになるのは恐れ多いような人物だ。けれども、マッチョでない人と話してみたいという思いがあったので、私は半ば無意識のうちに窓を開けてしまった。
青年は驚いた顔でこちらを見ていた。
知り合いでも何でもなかった二人の視線が重なる。
「あ……」
異性と見つめ合う経験なんて初めてで、私はまともな言葉を発せなくなってしまった。
「えっと、こんにちは。貴女は確か」
青年は気を遣っているような表情でそんな言葉を返してくれる。
「オブベルといいます」
「そうでした。オブベルさんでしたね」
名乗るだけでもかなりの心労。私の心が弱すぎるのか。
「庭掃除……ですか?」
取り敢えず尋ねてみる。
何でも良いから言葉を紡いでいかないと間が空き過ぎてしまう。
「簡単に言うなら、庭を整える仕事です」
「庭を整える……そうなんですね。あの、もし良ければ、見学させて下さい」
「構いませんよ」
「本当ですか! ありがとうございます」