7話「何を言おうが帰りはしません」
同じ通貨が使われているということもあってか、フェリージェの民たちはオフフィードのことをよく知っているようだった。私のことを知っていたのも、それゆえだったのかもしれない。そのため、私は、私が去った後のオフフィードについて定期的に情報を得ることができた。
とはいえ、良い情報は一つもなかった。
聖女を失ったオフフィードの行く道は、地獄へ続く道と言っても過言ではないくらい、苦難に満ちていたのだ。
そんなある日、使用人のマッチョからこんなことを問われる。
「実は、オフフィードの王様がいらっしゃっていて、オブベル様と会いたいとのことなのです。どうしましょうか? 追い払うこともできますが、いかが致しましょう?」
その話を聞いた瞬間は、反射的に「面倒臭いから逃げなくては!」と思った。しかし、少し考えていくにつれて、その考えは変わっていく。幸せに暮らしているところを見せつけるというのも悪くはないのではないか、と、段々思えてきたのだ。
「分かりました。お会いします」
「承知しました。それでは、こちらのお部屋へお連れしますね」
「はい、よろしくお願いします」
いつも思うのは、使用人のマッチョが丁寧であるのが不思議だということ。しかも、露出の激しい格好をしていながら丁寧なのが、特に妙である。もっとも、何も特別な意味はないのだろうけど。でも、丁寧なマッチョがたくさんいる空間で暮らしたことはなかったので、いまだに不思議さを感じずにはいられない。
待つこと数分。
扉がゆっくりと開き、先ほどのマッチョが入ってくる。その後ろにはオフフィード王の姿。
「久しぶり、と言うべきか。元気そうで何より」
「……オフフィード王」
一方的に私を切り捨てた男。本当ならチラッとさえ見たくない。たとえ彼が騙された被害者であるとしても、それでも、私は彼と関わりたいとは思えない。
「オブベル、どうか、オフフィードへ帰ってきてほしい」
王はそう言って頭を下げた。
知ったことか。私を訳もなく切り捨てた国のことなんて知らない。どうせ、私がいなくなってから色々大変なことが起こったから、今だけこんな風に接しているのだろう。たとえ頼みを受け入れて帰ったとしても、少し落ち着けばまたろくでもないことを言ってくるに違いない。
「お断りします」
この際はっきり言わせてもらう。
情けはかけない。
「なっ……」
愕然とする王を見ると、少しばかり楽しい気分になる気がした。
オフフィードに暮らす人たち、国民には、少々申し訳ない。国民の多くは美女でなくても私のことを温かく受け入れてくれていたから。
でも、仕方ない。
恨むなら無能な王を恨んで下さい。
「醜い人間はいない方が良いと思いますので」
「ま、待ってくれ。もう少し話を聞いて……」
「いえ。もう結構です」
私は満面の笑みで告げる。
「お帰り下さい」
オフフィードにはオブベルは必要ない、そう判断したのは誰だったか。私ではない、国民でもない、他の誰でもなく王だろう。それに、次の聖女がいるのだから、問題が発生したならその聖女に解決してもらえば済む話ではないか。