6話「滞在開始から三日が経過しました」
フェリージェに滞在して、今日で三日になる。
時が経つのは早いものだ。充実しているせいか、そうではないか、そこは知らない。ただ、毎日があっという間に過ぎてゆく。
あれ以来、私はなぜか妖精たちの悩み相談を受ける役目になっていた。
運良く用意してもらえた客室のようなところで暮らしているのだが、そこへ、定期的に妖精がやって来るのである。
「オブベル様! あ……あの、そのっ……実は相談したいことがあって……」
「何ですか?」
今日朝一番にやって来たのは、気の弱いマッチョ。珍しく、白いキャミソールとパステル調の虹色のスカートを着用している。マッチョの多くが下半身を隠す小さいものしか着用していないところを考えると、これはかなり周囲と違う服装といえる。
「恋……しているんです……」
キャミソールとスカートを着用しているマッチョは、肩をすくめ、腕を胸もとへ寄せる。頬はリンゴのように赤くなっているが、恐らく、発熱ではなく照れているのだろう。
「え。そうなんですか」
「は、はいっ。でも、でもっ……片思いで……気持ちを伝えられなくって。あぁもう、どうしたらいいのか……分かりません……」
マッチョの気持ちは理解できないことはない。が、私は恋をしたことはないので、多分あまり役立てないと思う。もう少し恋愛経験を重ねている人に相談した方が良いのではないだろうか。
「すみません。私もよく分かりません」
「ええっ……! そ、そんなぁ……オブベル様……」
「でも、伝えたいことがあるなら素直に伝えてみるというのは、一つの方法だと思いますよ」
するとマッチョは両手を頬に当てて体をくねらせる。
「そっ……そうですよね! 直球でいくのが一番……ですよねっ! ありがとうございましたっ」
相談されてもたいしたことは答えられないことが多い。私とて万能の神ではないから。けれども、マッチョたちは、私のパッとしない答えもきちんと聞いてくれる。それがとても嬉しくて、つい相手したくなってしまう。
「お食事をお持ちしました。ところでオブベル様、もう聞かれた? オフフィードは大変なことになっているようですわよ」
その日の晩、食べ物を運んできてくれた虹色の羽が生えたマッチョがそんなことを伝えてくれた。
「オフフィードが、ですか?」
「そうみたいですよ。災難が連発しているらしいです」
「そう……ですか」
国民は皆が悪い人なわけではなかった。私のことを受け入れてくれている人も少なくはなかったし。だから、災難が降りかかっているということは気の毒なことだとは思う。けれど、オフフィードに再び力を貸す気はない。オフフィードは私を捨てたのだ、もう無関係である。
「助けたいとは思われませんか?」
「ごめんなさい。思いません」
「謝る必要はありません。そう思われるのも当然のことですもの」