4話「迎えてくれたのはマッチョでした」
馬車に乗ること数時間、ようやく目的地に到着した。
そこは私が見てきた世界とはまったく違った世界だった。明るい空は青緑、色鮮やかな蝶が飛び回り、一面に花が咲いている。地上は見える限り花畑だ。
「何これ……! す、凄い」
思わずそんなことを言ってしまった。
オフフィードとは見た目からして違う。それなのに、本当にオフフィードと同じ通貨が利用できるのだろうか。楽しげな風景を眺めつつも、妙なことを考えてしまう。
そんな時だ、目の前に光の玉のようなものがふわりと現れたのは。
何があったのかと思っていると、光の玉のようなものはやがて一人のマッチョになった。
「オゥ! アナタ、マッチョに興味トカあるゥ?」
「え……あ、いえ」
よく見ると、マッチョの背中には透明な羽が二枚ついていた。鳥というよりかは昆虫を彷彿とさせるような羽。ただ、気持ち悪さはなく、透き通っていて美しい……翼は。
「ここはマッチョによるマッチョのタメの国フェリージェ!」
「……妖精の国ではないのですか?」
「妖精の国。ソウモ呼ばれてるゥ!」
ここがフェリージェということで間違いはなさそうだ。とはいえ、マッチョが出てくるというのは想定外だった。いきなりマッチョに迎えられるとは思わなかった。
「実は噂は聞いているゥ。アナタ、オブベル様でショウ?」
「はい」
知られているとは……。
「ようこそフェリージェへ! お客様として迎え入れるゥ!」
「え。あ、ありがとうございます……」
羽のついたマッチョは、小麦色の肌に濃いピンクの小さいパンツを合わせていた。
案内され広間に入ると、羽の生えたマッチョが横一列に綺麗に並んでいた。
「ようこそフェリージェへ!我々はアナタを素晴らしいお客様として迎え入れるゥ!」
マッチョたちの中で最も筋肉が大きいマッチョが高い声で叫ぶと、その他のマッチョたちも一斉に口を開き、気合いを入れ直すような雰囲気で次から次へと言葉を放つ。
「待ってましたァ! オブベル様!」
「追放されてももう心配ナシ!」
「マッチョは皆腕太いっ、マッチョは皆自己愛が強い、マッチョは皆腰が好きっ。そんな風に誤解するなよォ! マッチョも生き物、十人十マッチョ!」
もはや何が何だか分からなくなってきた。分かるのは、目の前にたくさんのマッチョがいるということだけ。自分で来ておいて何だが、私はなぜこんなところに来てしまったのだろう。妖精の国と聞いていたものだから、こんなにマッチョが多い国だなんて夢にも思わなかった。
「フェリージェの妖精は八割がマッチョ!」
「オブベル様にも優しィ!」
「マッチョは容姿で差別しナイ! マッチョは筋肉で区別スル!」
横一列に並んでいたマッチョたちは、両腕に力を込めるようなポーズを次々決めながら、少しずつ動き始める。そして、いつの間にか円を作っていた。しかも私を取り囲んでいる。
マッチョの群れに囲まれる時が来るなんて……。