3話「既に雲行きが怪しいようです」
翌朝、客室をおおよそ片付けて荷物をまとめて一階へ降りると、何やら騒がしかった。
最初は「朝から元気だなぁ」という程度に捉えていたのだが、心なしか単に元気なだけではないように思えてきて、耳を澄ましてみる。
「聞いた!? 昨夜お城でボヤ騒ぎがあったらしいわよ!」
「嘘だろ。信じられん」
会計は先に済ませていたので、後は出ていくだけ。けれど、そんな気になる会話が聞こえてきたので、私はもう少し聞いていくことにした。とはいえ、私が私であるとバレればリスクも伴う。一応気づかれづらいように布で顔を隠し気味にはしているが、それでも、私が私だと気づかれる可能性はゼロではない。
「今までずっとそんなことなかったじゃねえか」
「ねー。もしかしたらさ、やっぱり……オフフィードの聖女を追放したから、じゃない?」
私の呼び名が出てきてドキッ。
でも、緊張感の中で会話を盗み聞きするのは、これはこれで楽しい気もする。
「あぁ、何か聞いたな。何だった? その話」
「オブベル様っていらしたでしょ、パッとしない感じの女性。王があの方を追い出したんだって。新しい聖女が見つかったとか何とかで」
「マジかよ。この国やばいんじゃね?」
「ねー。新しい聖女が急に見つかるとかおかしいしね」
もしかしたら、既におかしなことが起こり始めているのかもしれない。でも、もはや、私には関係のないこと。いきなり一方的に追い出したのは向こうだ、無難に生きてきた私に罪はない。だから何がどうなってももう知らない。わざわざこの手で反撃はしないけれど、困っていても手を貸すつもりもないのだ。
私は荷物を持って宿を出発。
できれば今日のうちに、他国行きの馬車の乗り場に到着したい。
希望は叶い、国外へ行ける馬車の乗り場に無事到着できた。
とはいえ、その時点ではまだ大きな問題が存在していた。どこへ行くか、である。
馬車の運賃は出せるが、他国へ行くとなると通貨が違ってややこしいかもしれない。そこで、馬車乗り場にいたおじさんに相談してみた。この通貨が使える国はないのか、と。そこで教えてもらった国へ向かうことにした。
妖精たちが暮らすフェリージェという国へ行けば、この国の通貨を使えるらしい。
私は人間。妖精たちが暮らす場所へ入っていってしまって大丈夫なのかははっきりしない。が、人間であるからといって追い出されるようなら、また違うところへ行けばいい。
深く考え過ぎれば泥沼にはまることは目に見えているので、今はただ無心に近い心理状態で馬車に乗る。