15話「暴動が起こりかけています」
シャルテの手作りクッキーとマッチョが用意してくれたお茶を楽しみつつ、私たちは色々な話をした。
私はあまり多くの話題を持っていないから、自分のこれまでの人生について。
彼は庭師としての経験に関すること。
共通点は、いくつかはあるものの、限られている。けれど、出てくる話題はどれもこれも刺激的で、話していて楽しくない時はなかった。
私の知らない世界のことをシャルテは知っている。シャルテの人生に関係がなかったことを私は話せる。己にとっては何も特別なことではなくても、他者にとっては特別な話であるということもあるという、良い例だった。
その日の晩。
色黒マッチョがやって来て、魔法の鏡でオフフィードの様子を見せてくれた。
国は既に変わり果てていた。私が暮らしていた頃のオフフィードの面影はもはや欠片ほども残っていない。そこにあるのは、地獄と呼ぶに相応しい光景のみ。あらゆるものが崩れ、人々の怒りで塗り潰された世界ーーそれが今のオフフィードだ。
「これは……酷い、ですね……」
私はそのくらいのことしか言えなかった。
それ以外に何と言えというのか。
「聖女を追放し、悪政を続けた。その結果がこれなのでしょう」
「そうですか……」
もしオフフィードをこの手で救えるなら。そう思わないわけではない。でも、もう手遅れだ。これはもう悪化しすぎた。救いようがない。おかしくなりきってしまった世界に平穏を取り戻すなんてことは私にはできない。私とて神ではないのだから。この世のありとあらゆる問題を解決する力なんて、私は持っていない。
「いつかこうなる……定めだったということですね……」
かつて住んでいた国が崩壊していくというのは辛い。
でも仕方ない部分もあるのかもしれない。
「いずれ崩壊するでしょう」
「そんな……!」
「残念ですが、もう手遅れです」
「そう……ですよね……」
鏡に映る民衆は怒りに満ちた声をあげている。
『王の悪政を許すな! 搾り取る暴君を受け入れるな!』
『立ち上がれーっ』
『もう限界よ! 皆もそうでしょ? 税率を急に上げる悪魔め!』
荒ぶる民たちは城へ向かう。その勢いには、悪魔すら恐れるだろう。彼ら彼女らの感情のうねりは、それほどに恐ろしいものだ。災害を起こしそうなくらい、国民の感情は昂っている。
『城を攻めるぞ! 悪政を許すな!』
『あの偽聖女も仕留めろーっ』
ここまでなってしまったら、もはや誰も止められない。
オフフィードがこんなことになっている時に城にいなくて良かった。正直、どうしてもそう思ってしまう。こういう時は民も感情的なので、悪政に無関係な者でもとばっちりを食らいかねないから。
聖女の座から降ろされるのみならず城から追い出された私はラッキーだったのかもしれない。




