14話「手作りなんて凄いです」
あれ以来、私は時折シャルテと二人の時間を作るようになった。
どのみちここへ来るまでの人間関係なんて欠片ほども残っていない。追放された時すべてを捨てることとなったから。でも、今はそれを幸運なことだったと思える。何もかもが崩れたからこそ、穏やかな今があるのだから。
そして今日もシャルテは訪ねてきてくれた。
「こんにちは。いきなり来てしまってすみません」
「いえ。嬉しいです」
美貌の持ち主ではない私とでも、彼は躊躇いなく接してくれる。
その細やかな優しさがとても嬉しい。
私があまり美しくないからといって変に気を遣われるのも嬉しいことではない。ただ、露骨に毛嫌いされるというのも、複雑な心境にならざるを得ない。気を遣われるのも遣われないのも嫌、というのは、少々贅沢過ぎるかもしれないけれど。でも、人の心なんてそんなものだ。時に贅沢を言いたくなるのも、人の心理としては珍しいことではない。
「すみませんシャルテさん。せっかく来ていただいたのに、私、何も用意していなくて……」
「あぁ、それなら大丈夫ですよ。お菓子持ってきました」
そう言って彼が取り出したのは、片手で持てる程度の大きさの透明な袋。中には茶色い物体が入っている。恐らくクッキーか何かだろう。
「美味しそうですね……!」
今日は自然と口から言葉が出た。
「本当ですか。そう言っていただけると嬉しいです」
シャルテは透明な袋を握ったまま笑みを浮かべる。
「で、それはどこで?」
「自分で作ったんです」
「そんな! 自作のお菓子!」
なんという技術だろう。とても信じられない、クッキーを手作りするなんて。
「……そんなに驚かれることですかね?」
「す、すみません! でも、その……凄いなって、思って……!」
クッキーを己の手で作り上げるなど私にはできないことだ。これはもう頑張る頑張らない以前の問題。できない人にはできないこと、というのも、この世には確かに存在する。
「ええと、ではお茶か何かを……」
言いつつも何もできずオロオロしていると、扉が開いて一人のマッチョが入ってきた。右手にはポット、左手にはティーカップ二つを乗せたお盆。それぞれしっかりと持っている。
何と素晴らしいタイミングだろう!
今まさに持ってきてほしかった!
「お茶をお持ちしましたよ」
「ありがとうございます……!」
「すぐにお注ぎしますからね」
「マッチョさん、ありがとうございます。心から感謝します」
一番欲していたもの、クッキーに合わせるお茶が、何も言っていないのに届いた。
とにかくひたすら「ありがとう!」と叫びたい気分だ。
密かに歓喜していた私の耳もとにマッチョが口を寄せる。最初は気まぐれのイタズラか何かかと思ったが、そうではなくて。伝言のようだった。
「そういえば、オブベルさん。オフフィードでは民衆が蜂起しかかっているそうですよ」
なぜ今それを伝える? という疑問が生まれはしたが、マッチョとしては悪気があってこのタイミングを選んだわけではないのだろう。
「そうですか……」
「では失礼します。お楽しみ下さい」




