12話「貴方は悪くありません」
どうでもいい、と言いつつも、オフフィードでフレレヴィアが好き放題しているのは複雑な心境だ。
彼女は、王に気に入られていれば何をしても問題ない、とでも考えているのだろう。
私だって一人のオフフィード国民だから、国民から搾り取り好き放題する女を見逃す気にはなれない。
けれども、今の私に意見する権利はない。たとえ悪い行いを目にしたとしても、だ。もはや私はオフフィードの民ではない。民ではないから、発言権もない。今の私がオフフィードの現状に口を出したら、他国が干渉するような感じになってしまう。
「……酷いですね」
私はそうとしか言えなかった。
この状況を見て、他に何と言えるだろうか。
「今に始まったことじゃないのですよ」
色黒マッチョは真剣な表情でそんなことを言った。
「……そうなのですか?」
この国のマッチョたちは基本明るく前向きで活発だ。だから、そんなマッチョが真剣かつ少し暗い顔をしているのを見たら、何事かと心配になってしまう。
「はい。昨日そこの庭を整えていた青年をご存知ですか?」
「あ、はい。男性、お見かけしました」
「実は彼も王の犠牲者なのです」
「えっ」
人間だからといってマッチョたちから差別されている様子はない。マッチョもシャルテを悪く言うつもりはなさそう。でも、もしそうなら、シャルテが自分を私と違うと言うのはなぜなのだろう。
「彼はシャルテという名前で人の子です。しかし彼は幼い頃に捨てられました。そして、あるマッチョが偶然拾い上げたのです」
「そうだったんですね……」
もしかして、彼が私と違うと言うのは、自分が捨て子だから? でも、もしそうだとしたら、そんなものは己のせいではないではないか。悪いのは捨てた親ではないか? 捨てられた子どもに罪があるとは思えないのだが。
「彼はオフフィード王と愛人の女性の間に生まれた子どもだったのです」
「愛人……!?」
「そうです。といいましても、そのことが判明したのは拾い上げてから数年が経った後でしたが」
やはり、彼が妙に卑屈になる時がある理由はそれか。
だとしたらはっきりと言わなくてはーー貴方に罪はない、と。
シャルテに会いたいと思っていたのだが、あれから一向に会えなかった。
そして、庭にいる彼を久々に発見した時、既に一週間が経過していた。
「シャルテさん!」
「あ……オブベルさん。こんにちは」
少し気まずそうな顔をするシャルテ。
けれどももう緊張はしない。
「お久しぶりです。ご一緒させていただいても構いませんか?」
「どこかへ行くわけではないですけど」
「ではのんびりしましょう。あと、私は貴方に話があったのです」
「話、ですか?」
今日のシャルテはハサミを持っていない。いや、ハサミどころか、何も持っていない。完璧に身一つだ。
「シャルテさんの出自に関することです。先日マッチョから聞いて、それで、伝えたいことがあって……すみません。でも、聞いて下さい」
「は、はい」
「貴方は悪くありません!」




