10話「時間がかかります」
「シャルテさんは妖精でなかったのですね。ということは……人間ですか?」
「はい。実は」
「では、私と同じですね……!」
なぜかとても嬉しかった。
同じ人間であるという、ただそれだけのことなのに。
妖精が悪いわけではない。むしろ、彼らの方がずっと純真で、人間の方が汚れきっている。だから、妖精に対して恨みを抱いているわけではないし、差別する気もない。ただ、それでも、自分だけ違う種であるという心細さは少しは存在していた。だからこその喜びなのかもしれない。
「違いますよ。だって、オブベルさんは聖女なのでしょう」
聖女は聖女でも、捨てられた聖女。今はもうただの人間でしかない。それに、そもそも何か特別なことができたわけではない。ただ、よく分からない曖昧な力があるとされていただけのこと。
「えっと……それはそうですけど、私、普通の人間です」
「でも国を護ってこられたのでしょう?」
なぜそんなことを言うの?
私たちは違う、そう言いたいの?
慣れない異種族の国でようやく出会えた同族なのに、なぜ認めてくれないのか。どうして受け入れようとしてくれないのか。
もしかして、私が醜いからなのだろうか。
「よく分からない力があるみたい、という程度でしかないです」
物事を悪く考えては駄目だ。そんなことをしていては、いつまで経っても幸せにはなれない。そんな考えで幸せになんてなれるわけがない。もっと思考を前向きに。できる限り努力しなくては。
「それでも凄いことではないですか。ただの庭師とは別の生き物ですよ」
「どうしてそんなことを……」
「変な意味でないんです。ただ、僕は聖女様と親しくなれるような身分ではない。それだけです」
シャルテは先ほど切り落とした細い枝の一つをそっとつまみ、切なげな表情を浮かべる。その表情を見ていたら、彼が他人を外見だけで判断するような人とは思えなくなってきた。他人を外見でしか判断しないような短絡的な人間が、こんな複雑な表情を浮かべられるはずがない。
「そ、そんなこと! 私たちは同じ人間です!」
思わず大きめの声を発してしまう。
だがシャルテは冷めた表情のまま。
「違いますよ。人間にも色々ありますから」
「私はそうは思いません」
「オブベルさんが思っておられずとも、皆同じではないというのが真実です」
確かに、背景は皆違うかもしれない。生まれてきた場所、生きてきた世界、それらが違うだけでもまったく違う人間が完成するだろう。全員がまったく同じ人間ではない、ということは、分かっているつもりだ。
でも、聖女だ庭師だ何だというのは、まったくもって無関係な話。
「……辛い思いをなさってきたのですか?」
自然に口から問いが出ていた。
後から考えると、少し失礼な問いかけだったかもしれない。




