表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/16

10話「時間がかかります」

「シャルテさんは妖精でなかったのですね。ということは……人間ですか?」

「はい。実は」

「では、私と同じですね……!」


 なぜかとても嬉しかった。

 同じ人間であるという、ただそれだけのことなのに。


 妖精が悪いわけではない。むしろ、彼らの方がずっと純真で、人間の方が汚れきっている。だから、妖精に対して恨みを抱いているわけではないし、差別する気もない。ただ、それでも、自分だけ違う種であるという心細さは少しは存在していた。だからこその喜びなのかもしれない。


「違いますよ。だって、オブベルさんは聖女なのでしょう」


 聖女は聖女でも、捨てられた聖女。今はもうただの人間でしかない。それに、そもそも何か特別なことができたわけではない。ただ、よく分からない曖昧な力があるとされていただけのこと。


「えっと……それはそうですけど、私、普通の人間です」

「でも国を護ってこられたのでしょう?」


 なぜそんなことを言うの?

 私たちは違う、そう言いたいの?


 慣れない異種族の国でようやく出会えた同族なのに、なぜ認めてくれないのか。どうして受け入れようとしてくれないのか。


 もしかして、私が醜いからなのだろうか。


「よく分からない力があるみたい、という程度でしかないです」


 物事を悪く考えては駄目だ。そんなことをしていては、いつまで経っても幸せにはなれない。そんな考えで幸せになんてなれるわけがない。もっと思考を前向きに。できる限り努力しなくては。


「それでも凄いことではないですか。ただの庭師とは別の生き物ですよ」

「どうしてそんなことを……」

「変な意味でないんです。ただ、僕は聖女様と親しくなれるような身分ではない。それだけです」


 シャルテは先ほど切り落とした細い枝の一つをそっとつまみ、切なげな表情を浮かべる。その表情を見ていたら、彼が他人を外見だけで判断するような人とは思えなくなってきた。他人を外見でしか判断しないような短絡的な人間が、こんな複雑な表情を浮かべられるはずがない。


「そ、そんなこと! 私たちは同じ人間です!」


 思わず大きめの声を発してしまう。

 だがシャルテは冷めた表情のまま。


「違いますよ。人間にも色々ありますから」

「私はそうは思いません」

「オブベルさんが思っておられずとも、皆同じではないというのが真実です」


 確かに、背景は皆違うかもしれない。生まれてきた場所、生きてきた世界、それらが違うだけでもまったく違う人間が完成するだろう。全員がまったく同じ人間ではない、ということは、分かっているつもりだ。


 でも、聖女だ庭師だ何だというのは、まったくもって無関係な話。


「……辛い思いをなさってきたのですか?」


 自然に口から問いが出ていた。

 後から考えると、少し失礼な問いかけだったかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ