1話「この国には必要ないそうです」
「醜いお前はもうこの国には必要ない。すぐに荷物をまとめてこの国から去りなさい」
王からそう告げられたのは、ある晩餐会の最中だった。
「お前のような者に、この国を平和にする力などあるわけがない」
参加者は皆、憐れむような目を向けてくる。が、本当に気の毒に思っているというよりかは、少々馬鹿にしているような雰囲気をはらんだ視線だ。
きっと彼女たちは「いい気味」と思っているのだろう。
私――オブベルは、この国で『オフフィードの聖女』と呼ばれてきた。聞いた話によれば、生まれてすぐの頃、この国で最も力を持っている宗教の権威者から「この娘には特別な力がある。オフフィードを平和にする力だ」と言われたらしい。それで、私は今まで『オフフィードの聖女』と呼ばれてきたのだ。
だが、容姿にはあまり恵まれていなかった。
顔面にやたらと散るそばかす、肌はかさつき気味で、鼻は団子のように丸い。髪はくすんだ茶色、毛質もあまり美しいものではない。
そんな私が聖女として丁重に扱われているものだから、これまでも、ひがんでくる人は少なくなかった。
もっとも、麗しかったら麗しかったで色々言われたのだろうが。
「つい先日のことだ、本物の聖女が見つかった。偽者はもう必要ない。できるだけ速やかに立ち去ってくれ」
恐らく、誰かが王に余計なことを吹き込んだのだろう。そうでなければ、王の考えがこんなに急変するはずがない。とはいえ、こうなってしまってはもうどうしようもない。王は頑固な人だ、説明しても聞こうともしないだろう。
ならばもう、私が選ぶ道は一つだけ。
「承知致しました。それでは、お言葉の通り、去らせていただきます」
丁寧に一礼し、晩餐会の会場から退出する。
誰かの策略によって住み慣れた場所から去らなくてはならないというのは、悔しく、また悲しくもある。けれども、これが運命なら仕方ない。大人しく受け入れよう。流れに逆らうことはせず、生きてゆこう。
その代わり、いつかこの国に災難が降りかかっても、知らないふりをするだろう。
荷物をまとめ、城を出る。
城下町を一人で歩いている時、金髪美少女の顔写真が載った貼り紙を何度も目撃した。そこには、美しい顔写真と共に『彼女こそが真の聖女である』といった趣旨の文章が記載してあった。
彼女が次の聖女か――そうは思うが、正直、自分の感情がよく分からない。
彼女の出現によって追い出されたのだから、普通は、彼女を憎く思うだろう。でも、今はなぜか、憎いとは思わない。むしろ、すっきりとした心地よさすら感じられる。これが何という感情なのかは不明。ただ、得体のしれない爽快感が、この貧相な胸を満たしている。
ただ、心配がないかと言えば、そういうわけでもない。
両親を亡くして城に引き取られた後、私はほとんど庶民的な暮らしをしてこなかった。基礎的な教育は受けているが、世のことをいまいち知らない。
だからこその不安が存在している。
いきなり一人になって生きてゆけるのか? どうやって生活費を稼いでゆけば良いのか?
そんな不安を抱いていることは確かだ。