83話 ゴブリンの超強化
俺達はある程度休み、次の階へと進んだ。
そして毎度のことながらゴブリンの変化を探る。
俺は油断していた。
前回のゴブリンの強化がそこまでだったこともあり、そこまで厄介になることは想定していなかった。
一応警戒して歩いてはいたのだが、それは曲がり角を曲がっているときに起こった。
曲がり角を曲がっていると見慣れた存在に出くわす。
刀のゴブリンだ。
俺は咄嗟に黒鉄を引き抜くが、間に合わず肩から胸にかけてを斬られてしまった。
「くっ!?」
俺は後ろに飛び退く。
速い。
よく見ると明らかに佇まいが変わっていた。
身長は伸び、立ち姿にもどこか品がある。
少なくとも今までの刀のゴブリンとは違う。
俺は斬られた傷を治し、陽夏と共に刀のゴブリンに刀を向ける。
「あいつは確実に今までの刀のゴブリンとは違う、気を付けていくぞ。」
陽夏はコクりと頷き、刀のゴブリンの隙を伺っている。
一撃目は俺が行った方が良さそうだ。
俺は陽夏が攻撃しやすい状況を作るために刀のゴブリンへと迫る。
一閃。
俺は刀のゴブリンに斬りかかる。
が、刀のゴブリンはそれを易々と防いでしまった。
やはり一筋縄ではいかないか…………。
しかしそれでも俺は構わずに黒鉄を振るう。
俺も中々のレベルの剣術のスキルを持っているが、それでも陽夏に比べればちゃちなものだ。
ならば俺は陽夏が攻撃をしやすくするためのタンクの役割をするべきなのだ。
本当はアタッカーの方がなんかカッコいい気がするし、そっちをやりたいとかも思わない訳じゃないが、そんなことをいっている場合ではない。
アタッカーが二人いれば殲滅戦ならば効果的だが、一体の敵を相手にする場合は互いに邪魔してしまう。
ならばこういう時は役割を全うする方が効率が良い。
俺は何とか刀のゴブリンの刀を弾き、隙を作る。
「今だ!」
その瞬間に陽夏が俺と刀のゴブリンの間に割ってはいってくる。
そして陽夏の刀が刀のゴブリンを切り裂く。
致命傷とはならなかった様だが、少なくも陽夏の毒の力により刀のゴブリンの生命力はじわじわと削れていくだろう。
その間に俺が耐え続ければ良いんだ。
陽夏が攻撃を入れられるようにタンクの役割を全うする。
俺が受ける攻撃の切れはどんどん鈍くなっていき、遂には俺でも反撃が出来るようになる程度の力になった。
そして、ラストは陽夏が刀のゴブリンの首をはね、刀のゴブリンを倒すことが出来た。
「はぁ、疲れた。これまさか他のゴブリンも同じくらい強くなってたりしないわよね?」
「分からん…………けど、あんなのが大量に出てきたらかなりきついな。」
今回のゴブリン程度にならまだ遅れをとることはないが、それでも何体も何体も出るとなれば中々に厳しい戦いになってしまう。
まぁ、それも先に進んで行けば分かることだ。
危険がないとは言いきれないが、ここまで来て戻ると言うのも面倒くさい。
とりあえず進めるところまで進もう。
それから少し経ち、次は隊列を組んだゴブリンと出会う。
そのゴブリンの様子もかなり変わっており、今までとは比べ物にならない程強そうだ。
しかし、幸いなことに今回は背後を取れたので弓のゴブリンは先に倒すことが出来そうだ。
俺は弓のゴブリンの背後に忍び寄り首もとに黒鉄をあてがう。
弓のゴブリンは気づくこと無く地に伏せた。
しかし、前衛のゴブリン2体にはこちらの存在が気付かれてしまった。
俺と陽夏は互いに一体づつ受け持った。
俺は前衛のゴブリンのうちの一体に斬りかかる。
しかし、俺の攻撃は防がれてしまった。
だが、遅い。
そこまで弱いわけでは無いのだが、それでも今の俺にかかれば難なく倒せる程度の相手だ。
俺は黒鉄の軌道を変え、ゴブリンを切る。
首を落とすことは出来なかったが、そこでそのゴブリンは怯んだため、その隙をついて首をはねる。
陽夏の方を見るとあちらも難なく倒すことが出来たようだ。
「うん、こっちはそこまでだったけどだいぶ強くなってるわね。どうする? このまま進む?」
「いや、とりあえず進めるところまで進んでみよう。あの女の人…………とかがいる部屋までいかなくてもいけるとこまでいくだけでも収穫はあるはずだ。」
「そうね。まぁ、気を付けていけば大丈夫よね。」
あのだだっ広い部屋までいってしまうとかなり危険だが、そこまでいく程度ならそこまでの危険は無さそうだし、とりあえず進んでみることにした。
「あ、まって、またあのでっぱりがあるわよ。」
「お、ほんとだ。」
これまでに見つけた物では武器やよく分からない薬が大半だったが、それでも上にいくにつれて良いものになっていった。
なのでかなり上の階に来た今は少し期待している。
手慣れた手付きで中に崩れないようにでっぱりを崩し、中身を見る。
「ん? なんだこれ?」
そこにはよく分からない色をした石が入っていた。
んー、ゴミか?
よくアニメとかであるのは魔石とかだが、そんなものを聞いたことはない。
「えー? ここまで来てまさかゴミ? ちょっと見せてみてよ。」
「いいぞ。」
俺が持ったときは何ともなかったし、その石を陽夏に手渡す。
すると、その石がまばゆい光を放ち出した。
「えっ、えっ!?」
陽夏は焦った声をあげながら石を手放そうとするが、その石は陽夏の中へと吸い込まれていってしまった。