78話 何故
ここからのダンジョン攻略はものすごく楽になった。
ゴブリンは強くなりはしたが、思ったよりも進むのに支障は出なかった。
今までは消費を最小限にしたかったため魔力を使っていたかったが、それを出来るだけ使わないようにして進んでいくというように変えたお陰もあるだろう。
しかし、陽夏が毒を使えるようになったからというのが1番の要因だろう。
陽夏は毒を活用するために重い攻撃を何発も繰り出し、一発で仕留めるという方法を取るのを辞め、細かい攻撃を何発も何発も放ち、相手を毒状態にしてじわじわと倒していくという方法を取った。
この方法は思ったよりも刀のゴブリンにハマり、刀のゴブリンは一瞬で動けなくなり、すぐさま陽夏に倒されていた。
隊列を組んだゴブリンも2人で協力してサクッと倒していたため、本当に時間がかからなかった。
そしてそのまままたあの女の人がいる部屋へと着いた。
そこにはいつも通り大量のゴブリンが居たが、俺と陽夏にかかれば直ぐに倒し終えてしまった。
前回とは大違いだ。
そして、次に女の人を見る。
今回の女の人は聖剣のようなものを持った勇者の様な人だった。
「……………。」
「晴輝? どうしたの?」
「あぁ、いや、何でもない。」
あれ、なんだこれ、なんなんだ? この感覚は。
俺は何故かあの女の人に抱くはずのない感覚を抱いている。
俺はきっと気のせいだと思い、その感覚を振り払うかのように黒鉄を抜き放つ。
「陽夏、いくぞ。」
「う、うん。分かった。」
俺と陽夏はその女の人に向かっていく。
陽夏と俺の初撃はあの聖剣のようなもので防せがれた。
「晴輝! 私が毒を入れるから晴輝は引き付けてて!」
「了解!」
陽夏が少し下がり、俺が1人でその女の人へと攻撃をする。
これで攻撃が俺に向くはずだ。
そして俺が攻撃を受けている隙に陽夏が攻撃をすればいい。
そう思っていた。
だが、そこで不思議なことが起こった。
俺は何度も何度も攻撃を繰り返している。
なのに、何故か聖剣のようなものを持った女の人はなんの反撃もしてこないのだ。
ただただ柔らかな笑みを浮かべながら俺の攻撃を防いでいるの。
…………駄目だ、俺にはできない。
俺は黒鉄を鞘に収める。
後ろから陽夏の声が聞こえるがそれは無視してその女の人に歩み寄る。
自然と頬に涙が流れる。
何故かは分からない。
何故かは分からないのだが、俺にはこの人が…………いや、この子が敵には見えない。
俺は少しづつ小さくなっていくその子の頭を撫でる。
手慣れた仕草でその子を撫でると、その子は嬉しそうに笑った。
その顔を見るだけで、何故か俺は幸せな気持ちになった。
その子は俺に何かを呟いた。
言葉の意味は分からないが、何故かもういいよも言ったような気がした。
俺はその子の頭を撫でたまま呟いた。
【夢食】
【スキル《夢食LV3》を入手しました】
【スキル《鬼剣術LV3》を入手しました】
【スキル《魅惑LV2》を入手しました】
【スキル《魅惑LV3》を入手しました】
【スキル《魅惑LV4》を入手しました】
その女の子が消え去ると共に少しづつ俺は正気に戻って行った。
「晴輝! どうしたの!?」
陽夏が俺に駆け寄る。
「…………あ、あぁ、陽夏か、どうしたのだ?」
「それはこっちのセリフなんだけど…………あなた今自分が何やってたか分かってる?」
俺は陽夏の言葉にはっとさせられる。
そうだ、俺は何てことをしてたんだ。
あんなの下手したらそのまま首を切られて回復も間に合わずに滅多刺しにされて終わりだ。
あんな危険な事をやるなんてやっぱり俺の頭は変になっているのだろうか。
けど、何だかあの時はあの人が敵には見えなかったんだ。
それに、何故かすっごいちっちゃくなった。
あの姿は何故か見覚えがある。
あの姿は確か…………だめだ、思い出せない。
とにかく、何故やったのかは分からないが、危険な事をしてしまったのに変わりは無い。
気をつけなくては。
「その感じだと晴輝の意思でやったわけじゃ無さそうね…………。じゃあまぁいいわ。なんでこんなことが起こったのかは分からないけど、ダンジョンなんて分からないことだらけだし、探索して探していきましょ!」
「あぁ、そうだな。」
まぁ、ここで俺が考えに考えたところでなぜやってしまったのかの答えなど出るとは思えない。
それならさっさと進んだ方がいいな。
「その前にっと。」
陽夏は自分の刀を聖剣のようなものに突き刺し、吸収する。
陽夏は何故かこれで強くなれるし、これはかなり大事な事だ。
頑張って女の人を倒しても何も無いって言うんじゃモチベーションも上がらないが、強くなれるっていうだけでもモチベーションは上がる。
これが終わればもうこの部屋に用は無い。
先に進もう。
俺は階段へ向かって歩き始める。
しかし、何故か陽夏は立ち止まったままだ。
「何やってるんだ?」
「…………。」
問いかけても陽夏は反応をしない。
「陽夏?」
「…………。」
一瞬ただぼーっとしているだけかと思ったが、違うようだ。
いくら呼びかけても陽夏は反応をしない。
心配になって俺は陽夏を治す。
どこにも怪我はしていないみたいだが、何故か脳が凄く疲れているようだった。
とりあえずその疲れを治す。
すると、陽夏の目に生気が宿る。
「おーい、陽夏、大丈夫か?」
「え…………お兄ちゃん?」
「え?」
え、なんで俺は陽夏にお兄ちゃんって呼ばれたんだ?
本当にちょっとよく分からない。
俺が混乱していると、陽夏はハッとした様な素振りを見せた。
「あっ、ごめん、ちょっとぼーっとしてた! 今ちょっと変なこと言ってたでしょ? えっとね、あれは…………そう、お兄ちゃんの事を考えていたの!」
「お兄ちゃん? 陽夏お兄ちゃんなんかいたのか?」
「ええっと、そう、そうよ、お兄ちゃん居たわ。」
「そうなのか…………。」
お兄ちゃんの事を考えてぼーっとしていだからといって普通目の前に居る人をお兄ちゃんと見間違えるか?
ひょっとして陽夏って相当なブラコンなのか?
俺はそう思うが、それは胸の奥に閉まっておいた。
「ま、とりあえず行こうぜ。」
「そ、そうね、行きましょ行きましょ!」
陽夏は少し様子が変だったが、気にせずに階段を登っていった。