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71話 えぐいてぇ



「くっ。」



やっぱり痛い。


コンロの火で体を燃やしまくった俺からしたらこの程度の痛み何ともないと思っていたが、やはり痛みの場所や種類が変わるとキツい。



「…………。」


「もう1回か?」


「いや、今ので多分分かった。次は私がやる。」



陽夏は真剣な面持ちで俺の前に出る。



「あ、なんかあったら治してね。」


「…………気をつけろよ?」


「分かってるって。」



陽夏はそう言うとゴブリンに背を向けた。



「おまっ、それじゃ射たれるだろ!?」



俺は慌ててゴブリンの前に立ちはだかる。



「良いから、見てて。」


「いや、けど…………。」


「何かが掴めそうな気がするの。」



掴めそうな気がする、か。陽夏はこの前もそれで強くなった。


そう考えると、今は陽夏に任せた方がいいのかもしれない。


陽夏を信じよう。


俺はいつでも陽夏を助けられるような位置に移動した。


ゴブリンは戸惑いつつも新たな矢をつがえた。


そして矢を放つ。


…………俺に向かって。



「ちょ、俺かよ!?」



俺はいきなりの事で避ける事も出来ず、咄嗟に手で体を守った。


3度目の掌への痛みに悶絶するかと思いきや、矢は途中で何かに弾かれ俺に当たることは無かった。


困惑しながらも前を見ると、そこには陽夏の刀があった。


びっくりして陽夏を見ると、陽夏自身もびっくりしているようだった。


なんせ陽夏は敵に背を向けたまま俺への攻撃を防いだのだ。


あまりのチート技に俺も陽夏も黙ってしまう。



「やっと掴んだ…………この感覚、攻撃が見える!」



えぐいて。


俺は何か攻撃を受けまくって回復しまくって敵を足止めするみたいなかっこいいとは言えない能力しか持ってないのに…………。


まぁ、ここは素直に喜ぼう。


実はここに来るまでに陽夏に矢が当たったらどうしようとヒヤヒヤしていたのだ。


当たりどころが悪いと危ないからな。


しかし、陽夏がこの力を手に入れられていればその事に気を使う必要が無くなり、格段とダンジョン攻略が楽になるだろう。



「も、もう1回試してみてもいい!?」



陽夏は嬉しそうにそう聞いてくる。


まぁ、別にいいが、早く進みたい。



「別にいいが、危ないし、早く進みたいからもう行かないか? 別にやるのは良いんだけど、別に進みながらでも出来るだろ?」


「んー、まぁ、そうね。」



そう言って陽夏は刀をしまう。


その瞬間、ゴブリンの矢が放たれる。


まずい、完全に忘れていた。


陽夏も俺も刀をしまっている。


このままでは陽夏に当たってしまう。



そう思ったが、そのような事は起こらなかった。


何故なら陽夏がその矢を横から掴んで止めたからだ。



「えっ?」



俺はびっくりして絶句していたが、それよりもさらに陽夏の方がびっくりしているようだった。


少し経って陽夏はハッとなり、すぐさまゴブリンの元へと駆け、首を刎ねた。


それにしても凄いな。


あの速度の矢を掴むなんてかなりの動体視力が必要なはずだ。


まぁ、陽夏なら前々から自前の動体視力で何とか出来そうではあるが、多分今回のはあの盾を吸収したおかげで出来たことなのだろう。


多分これからもこのダンジョンを上がる事にあの女の人は出てくるだろう。


その度に陽夏が武器を吸収していけばいずれはとんでもない強さになりそうだ。


しかし、何かが引っかかる。


嬉しいはずだ。嬉しいはずなんだが、何故か嫌な気持ちが胸の中の奥底に巣食っている。


このまま陽夏が俺よりも圧倒的に強くなってしまえば俺は用済みで、そのまま見放されてしまうのではないかという不安。


自分ももっと強くならなければいけないのに、破竹の勢いで強くなっていく陽夏を見ていると、自分がどれだけ弱いか分かってしまい、更に早く強くならなければいけないという焦り。


そして何より、俺よりも強い者への嫉妬。


そんな感情たちが今の嬉しい感情を飲み込もうとしてくる。



「晴輝? どうしたの? そんな苦虫を噛み潰したような顔して…………。あ、やっぱりさっきの矢を受け止めた時の傷がまだ残っていたりするの?」


「…………。」



やはり俺は弱い。肉体的にも、精神的にも。


陽夏のような若い子がこんな状況でここまで他人を心配出来るって言うのに、そんな好意に大して陽夏よりももっと長い時を生きている俺がこんなんじゃ駄目だ。


不安だって焦りだって嫉妬だって、陽夏に非は無い。


全て俺が弱いのが悪いんだ。



「晴輝、本当に大丈夫? 体調が悪いなら休もうよ、あんまり無理もして欲しくないし…………。」


「いや、大丈夫だ。ありがとう。」



俺はゆうちゃんを救う為にも手掛かりを探さなくてはいけないんだ。こんな事でうじうじしている場合じゃない。



「本当に大丈夫なの? 晴輝はすぐ無理するから心配なんだけど。」


「俺がいつ無理したって言うんだよ。俺はそんな人間じゃないさ。」


「いやいやいや、それは絶対に無い。私を助けてくれた時もそうだし、コンロの時もそうだし、今のところ私は晴輝の無理してるところばっかり見てきたんだよ? それでどうやってそんな人間じゃないって思えるの?」



まぁ、確かに最近は少し無理をしたりはしている。


だが、俺の引きこもり時代は嫌なことからは逃げ、過去からも逃げ、現実からも逃げた。


俺の人生逃げに逃げまくっているし、ここらで帳尻合わせをしても良いだろう。


俺はもう俺の幸せのために妥協は許さない。


全てを手に入れる。


だからこそ、俺は陽夏が思っているような人間では無いんだ。



「まっ、本当に大丈夫だから、早く行こうぜ。」


「むー、話をはぐらかしたわね。…………もう、わかったわ。行くわよ!」



俺達はまたダンジョンを進み始めた。

明日から投稿頻度上げます

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