65話 理斗君
陽夏の手を借りて俺は起き上がった。
「あ、ありがとう。」
うぅ、かっこ悪いな。
俺は見栄とプライドで出来てるみたいなものだからこれはかなり精神に来る。
それにしてもこの子はカッコよすぎないか?
咄嗟にあんな判断出来るなんて凄すぎるだろ。
俺だったら1回切られてから回復しながら倒すみたいな泥沼試合しか出来なかっただろう。
立ち上がってすぐに黒鉄に手をかける。
いつまでも陽夏に戦わせている訳にはいかない。
この程度のレベルの相手になら俺の攻撃もある程度は効く。
さっきの戦いで周りのゴブリンは俺達に気づいてしまった。
俺は陽夏に背を向けた。
「俺はこっちのゴブリンを倒すから、そっちのゴブリンは任せた!」
「分かったわ!」
陽夏に背中を預けると言うのはかなり信頼出来る事だ。
あの陽夏がそこら辺のゴブリンごときに遅れをとるはずがない。
心配なのは俺で、何かの拍子にゴブリンが陽夏の方へ行ってしまったらまずい。
俺は黒鉄を抜き放ち、すぐそこのゴブリンに迫る。
やはり遅い。
この数のゴブリン程度なら俺も陽夏も遅れをとることなどもう無いだろうな。
そのままの勢いで特に力をかけることも無く首を落とす。
ゴブリンは叫ぶことも無く力尽きた。
うん。さっき咄嗟のことで動けなかったからちょっと不安になっていたけど、全然動けるじゃん。
この前まで苦戦していたゴブリンに難なく勝てる様になったことを嬉しく感じながらも、サクサクとゴブリンの首を落としていった。
「ふぅ。」
落ちた首にトドメを刺して黒鉄を鞘にしまう。
後ろを見てみるとどうやら陽夏はもう戦闘を終えていたようだ。
陽夏はやっぱり強いな。
やっぱり俺はもっと強くならなくてはいけないな。
大切なものを守る為にも力は必要だ。
こんな強さを持つ陽夏ですらホテル街の人達を守りきることは出来ていないのに、なんで陽夏よりも弱い俺が大切なものを守れるんだって話だよな。
現にゆうちゃんはやられてしまった。
これ以上俺の周りの人間は死なせなたくは無い。
「…………進むか。」
俺達はまたすぐにゴブリンのダンジョンを進んで行った。
◇◇◇◇
「そうか、理斗君がね…………。」
僕は佐々木君に理斗君が犯した罪に着いて聞いてきた。
元々あの子は少し悪い子だったけどその程度なら全然問題なかった。
しかし、ホテル街の人を殺したとなれば話は別だ。
「…………コナー、まぁ、落ち着け。怒りに任せて行動しても何もいい事が無いことくらい分かってるだろ? 鏡で自分の顔を見てみろよ。」
僕は佐々木君に言われた通りに置き鏡で自分の顔を見た。
…………はは、ひどい顔だ。こんな顔晴輝君とかには見せないようにしなきゃね。
「まぁ、分かったよ。探してみる。佐々木君は引き続き復旧作業の指揮を頼んだよ。」
「あぁ、任せてくれ。」
やっぱり佐々木君は頼りになるね。
僕よりもよっぽどリーダー性がある。
…………けどまぁ、リーダーは僕の方が適任だけどけ。
僕は外に出て周りの生き物を探る。
モンスターの居る場所にはほとんどの動物は寄り付かないけど、うちみたいな人間が住む場所にはかなりの動物が集まってくる。
これを利用して理斗君を探すのだ。
【鬼眼-開】
僕は周りの生き物と視界を共有した。
この能力は人探しやもの探しにぴったりだ。
「くっ…………。」
ただ、今回のように広範囲の生き物と視界を共有すると一気に情報が頭に入ってくるので、負担が尋常ではない。
僕は激しい頭痛を感じながらもその情報の中の何処かに理斗君が居ないかどうか確認する。
表には…………居ないようだね。
表に居る場合は鳥などの視界をみればだいたいどこに居るのか分かる。
とりあえず鳥との視界の共有は切った。
要らない情報が頭に入り続けてはいけないからね。
次は建物の中だ。
綺麗な建物ならねずみなどの動物は湧かないが、幸か不幸かここら一帯の建物は綺麗では無い。
もう損傷が激しく、誰も使っていなかったり、誰かが使っていたとしても管理が行き届いていない建物が殆どだからだ。
いずれば全ての家を綺麗に管理したけど、今はしょうがないよね。
それはいいとして、理斗君が居ないかどうか探す。
「…………居た。」
理斗君はここから少し離れた駐車場の管理室のような場所に隠れていた。
良かった。
この街から出られていたら流石の僕でも見つけるのは困難になってしまうからね。
僕は全ての視界の共有を解除する。
脳にかかる負担がフッと軽くなる感覚があった。
けど、やはり頭は痛い。
こんな時にもっと回復系のスキルや耐久系のスキルが欲しくなる。
そういえば晴輝君はとんでもないレベルのスキルを持ってたんだよね。
…………いいなぁ。
まぁ、嫉妬なんかしていても何も始まらない。
僕は冒険者組合の建物に残っていた人達を何人か連れて理斗君のところへ向かった。
「ふふふ、理斗君、残念だなぁ。」
本当は理斗君も仲間だ。
出来れば手荒なことはしたくない。
けど、ここまで来たらもう無理だ。
「何があろうとも、仲間を傷付けることだけは許さないよ。」
僕達は理斗君の元へ向かい始めた。
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