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60話 刀



俺と陽夏はお互いに見つめ合いながら固まってしまった。



「えっと、とりあえず避けてくれないか?」


「え…………あ、あぁ、ごめんね!」



陽夏は物凄い勢いで俺から手を離し、2、3メートルほど後ずさった。


そのせいで俺は結局頭を地面に強打してしまった。



「あっ、ごめん!」


「いや、大丈夫、そんな痛くない。」



スキルのおかげで今までなら痛みでのたうち回っていたレベルの衝撃だが、本当にそこまでの痛みは無い。


というか、この前の火の玉やコンロで体を焼いた時の方が遥かに痛かった。



俺は頭を掻きながら周りを見渡した。


やっぱりここはあの女の人と戦って俺が気絶した場所だ。


何となく見覚えがある。



「私の刀はあの女の人が持っていた杖に向かって飛んで行ってたみたいね。」



そうだったかと思い刀を見てみるが、近くに杖など落ちていない。


ただ刀が地面に突き刺さっているだけだ。



「杖なんて何処にもないぞ?」


「あれ、刺さる時は確かに杖があったのに…………。」



陽夏は不思議そう辺りを見渡した。


見間違いの可能性もあるが、近くに杖に見間違えそうなものはどこにもないし、その可能性は低いだろう。



「おっかしいな、確かに見たのに…………。」



陽夏は不思議そうにしながら刀を引き抜いた。



「ん? 待って?」



刀を引き抜いた陽夏はいきなり驚いた声をあげた。



「どうかしたのか?」


「ちょ、ちょっとまってて!」



陽夏は何も無い所に向けて刀を構えた。


その瞬間、空気が変わった。


この感じは間違えがない。あの女の人を倒した時の技だ。


けど何でその技を今使うんだ?


確かその技を使うと力を使い果たしてしまって動けなくなってしまうんじゃ無かったのか?


色々と思う事はあったが、この空気感で何かを言う勇気が俺にあるはずもなく、ただ黙って見つめることしか出来なかった。



少しして、陽夏の刀に白い炎が集まり始めた。


見ただけで息を飲んでしまいそうな程の美しい炎だ。


俺はあれで切られたのか、それならば死んでしまうのも納得だ。



【七月流火】



陽夏は何も無い空間に向けて剣を振った。


一閃。


その剣戟は何も無いはずだった空間を切り裂いた様なほどに鋭い一撃だった。



「ふぅ…………。」



陽夏が息を吐き、刀を鞘に収め、空気の緊張が解かれた。



「何だったんだ今の?」


「ちょっと試したい事があったの。」



陽夏は乱れた髪を整えながらこちらに向かってくる。



「この刀を持った瞬間、確実に何かが変わったっていう感覚があったの。正確に何が変わったとかは分からなかったんだけど、何となく今なら()()()って思ったの。だからためにしこの技を使ってみたの。」


「そうか、でもその技って確か使ったら力を使い果たしてしまう技だったんじゃないのか?」


「まぁ、そうなんだけど…………まぁ、晴輝もいるし、何かあっても大丈夫だと思ったのよ。現に今までなら力を使い果たしてしまってフラフラになってたのに今は少し疲れる程度で済んでいるし、なんなら威力も上がってるの。やっぱり試して正解だったわ。」



そうか、俺が居たからか。


陽夏に信頼されているのを感じて少しむず痒い気持ちになった。



「それにしても、なんでそんないきなり変わったんだ?」


「多分、この刀があの女の人が使っていた杖を()()したんだと思う。」


「吸収…………。」



その言葉ですぐに思い付いたのは謎のスキルである夢食(ばく)だ。


俺はこのスキルを使ってあの女の人を()()して生き返ったらしいし、何か関連する事があるのかもしれない。



「そこで提案なんだけど、今度一緒にゴブリンのダンジョンに行かない?」


「うん。この刀もあの女の人もゴブリンのダンジョンから来たものだし、あのダンジョンに何か手掛りがあると思うの。」



確かにどちらもゴブリンのダンジョンからの物だ。


もしかしたらゴブリンのダンジョンでゆうちゃんを生き返らせる手掛かりが見つかるかもしれない。


これは行くしかないな。



「分かった。一緒に行こう。」


「本当!?」



陽夏は嬉しそうに聞き返す。



「あぁ、ただしちょっと家に用事があるから数日後でもいいか?」


「うん。全然いいけど、何をするの?」


「あー。」



どうしよう。何をするかと言われたら、回答に困ってしまう。


箱の事は隠さなくてはいけないが、何か家でやる事を考えるのも難しい。



…………もう陽夏になら話してしまっても良いかな?


もう陽夏には俺が少し異常な力を使っている事はバレているだろうし、このまま隠し通すのも難しくなるだろう。


それに、陽夏からは好意的に接して貰っているのにいつまで経っても隠し事をするというのも罪悪感が凄い。


陽夏は別に誰かにバラしたりもしないだろうし、もう言ってもいいだろう。


俺がその事に話そうとすると、その前に陽夏が話し始めた。



「分かった、晴輝のその強さの秘訣が家にあるって事なんでしょ。あ、別に嫌なら言わなくていいんだよ? すっごい気になるけど、我慢するから!」


「いや、陽夏にもう話す事にしたよ。」


「…………ほ、本当!?」



陽夏は目を輝かせて俺に聞き返した。



「あぁ、その秘訣って言うのは…………。」


「あ、ちょっと待って!」


「ん? 何だ?」


「えっと、私が君の家に着いていくって言うのは出来ないかな。その…………そう! あれよ! 百聞は一見にしかずっ言うやつ? 話で聞くよりも晴輝の家を見に行った方がきっと良いと思うのよ!」



どういう事だ?


別に普通に聞くだけで良いと思うんだが…………。


あぁ、そうか、多分陽夏は俺がすぐに家から出ると思ってるんだな、それでそのままゴブリンのダンジョンに行こうとしているのか。


それは断っておかなくては。



「いや…………けど俺は数日くらい家に籠る予定だからすぐには行けないぞ? それに家もかなり汚いし、ここで話だけ聞くだけでいいんじゃないか?」


「えっと、あ、じゃあ、掃除とか手伝いに行くからさ、連れてって!」


「えっと、それは申し訳ないんだが…………。」


「いいから!」



陽夏は顔を赤くしながら俺を丸め込もうとしてきた。


…………そんなに早くダンジョンに行きたいのか。



まぁ、別に陽夏が良いなら俺の家に招くこと自体は構わないし、連れていくか。


掃除とかもやってくれるみたいだし、なんというか、こっちからお願いして来て貰っても良いくらいだな。



「分かった。じゃあ、一緒に行くか。」


「やった! じゃあすぐ行こ!」



そして、俺達は俺の家へと向かった。

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[一言] うわっまじきしょいじゃんこの女
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