41話 い、陰キャじゃないもん!
ゆうちゃんは疲れてしまったようなので、俺が運んで行くことにした。
俺はゆうちゃんをおんぶしながらゆっくりと塔を降りて行った。
あの女の人。
少なくとも目撃例の無い、または目撃して生き残った人が居なかった存在の筈だ。
後者が正しい気もするが、ここまで来れる人も少ないだろうし目撃例は無いのだろう。
あの女の人がもしモンスターだとしてゴブリンレベルの数が居るのだとしたら本当に不味い。
あの女の人のような人が大量にダンジョンから出てきてしまったら少なくともこの辺りは一瞬で蹂躙されるだろう。
その中には俺とゆうちゃんも含まれる。
俺はあの女の人が使った技について考える。
あの女の人の技があれだけかは分からないが、取り敢えずあの技しか使えないのならば勝ち目はあると俺は考えている。
何故なら俺には完全再生というスキルがあり、少しの傷なら瞬時に回復する。
もう少しレベルを上げればその効果は上がっていくはずだし、ゾンビ戦法で攻撃し続ければいつかは勝てるだろう。
だが、それは危険すぎる。
あの女の人がさっきの技だけを使うとも限らないし、全然別の要因が生まれる可能性もある。
わざわざ危険をおかす必要も無いしとりあえずは触れないようにするのが良いだろう。
俺は一直線に出口へと向かったため、行きよりも早い時間で降りる事が出来た。
ダンジョンを出たあと俺は急いでホテル街へと戻った。
さっきの女の人のことをコナーに早く伝えなければならない。マスターであるコナーにその事を言えば多分何とかなるだろう。
ホテル街を駆け足で抜けていき、防衛者組合に辿り着いた時、俺は足を止めた。
「…………。」
自然と足が重くなり、動かなくなっていく。
そこには、以前と同じく大量の人が蠢いていた。
あの、無理っす。
俺の中で踵を返して家に帰りたいという気持ちが暴れ出す。
ゆうちゃんが起きていて一緒に歩いているならまだしも、ゆうちゃんは寝ている。見栄を張る必要も無いので、逃げまくるという選択肢が俺に出来てしまうわけだ。
「うん。帰ろう。」
別にあの女の人にはこのホテル街の戦力ならば勝てると思うし、俺が報告しなくてもダンジョンはずっと警戒をされてるから出てきて奇襲されるなんてことも無いだろう。
故に俺は帰っても大丈夫なのだ!
俺は悪くない。あそこにあんなに人を集めた方が悪い。
俺は回れ右をしてそのまま家の方向でもないがとりあえず防衛者組合から離れる為に歩みを進めようとした。
だが、それは未遂に終わってしまった。
「あれ? 晴輝だ! ちょっと待ってよ!」
俺に声を掛けてきたのは陽夏だった。
陽夏か。俺が報告する事を話すと十中八九防衛者組合の中に連れ込まれるよな。
くっ! やめてくれ! お前には少し耐性があるかから普通に居られるが、他の人たちが居たら結構きついんだよ!
俺は聞こえなかった事にして歩き続けた。
「あれ、聞こえなかったのかな?」
そうだよ! 聞こえなかったんだよ!
俺は心の中でそう返事をして歩く速度を早める。
しばらくすると、肩をトントンされる感触を感じたを
「晴輝ー! 気づいてるんでしょー! 無視しないでー!」
「…………。」
「あっ! ちょ、走らないでって!」
俺は少しずつ歩くスピードをあげていった。
「ちょ、まっ! このぉ!」
陽夏は物凄い速さで俺の目の前に回りんだ。
「それ以上逃げたら…………君の首は体とお別れをしなきゃ行けなくなるかもね?」
「ヒェッ。」
酷くドスの効いた声だ。
「あ、あれぇ? そこにいるのはハイパービューティー陽夏さんじゃないか! あぁーきづかなかったなぁー。びっくりびっくりー。」
「はぁ、白々しい。冗談よ冗談。本気なわけないじゃない。で、なんで逃げたのよ!」
なんで逃げたかって? そりゃ、お前に話しかけたら防衛者組合に連れ込まれて陰キャな俺は死ぬからだよ!
とは口が裂けても言えない。
女の子にかっこ悪いところは見せられない!
「んんぅ。ふぁ? うわきぃ?」
「へっ?」
俺の背中で声がする。ゆうちゃんだ。俺が走ったせいか起きてしまったようだ。
俺の心の声を読んだような発言に俺はゾワっとしたが、多分偶然なのだろう。
「あれ、その女の子だれ? え、まさか娘!? うそ!? 晴輝って引きこもりで陰キャでモテないんじゃ…………。」
「おいおいおい。ちょっと言い過ぎじゃないか!? 陰キャでモテないなんて俺言ってないぞ?」
「え、モテてたの?」
「おおっとー! 急用を思い出したー! それじゃあ、また今度!」
そう言って逃げようとするが、しっかりと陽夏に阻止されてしまった。
「むにゃむにゃ…………はっ! お兄ちゃんが綺麗な女の子と楽しそうに話してる! …………浮気? ダメ! お兄ちゃんは私の彼氏なの!」
そう言っておんぶされていたゆうちゃんは俺の背中をギュッと抱きしめて陽夏の事を睨む。
「えっ!? ま、まさか晴輝モテなすぎて誘拐を…………。」
「違うからね!? 誘拐なんてして…………あれ?」
思えば俺は誘拐まがい…………いや、まんま誘拐みたいな事をしてるな!?
「うん…………自首しよっか。出来るだけ私も君が有利になる証言をするからさ…………。」
「ダメぇ! お兄ちゃんは私の!」
2人に挟まれた俺は必死で弁明するのであった。
昨日は私用で投稿が出来ませんでした。
もうしわけないです!
み、みすてないでぇ!